第16話 幕間 異世界の人々


《商人ルーカスの場合》



 その日、ルーカスはいつも通り別の街へ商品を仕入れた後、ギニングの町にある店に戻る途中だった。

 この辺りは他の地域に比べ、かなり平和で護衛もほとんど必要なく、その証拠にたった二人での行商も可能だった。


 そんないつも通りなんてことない日だったのだが、その日ルーカスは運命の品に出会う。

 

 それは町に向かうため馬車を走らせていると、ルーカスは道の端に二人の少女がいることに気がついた。いつものルーカスならスルーしてそのまま街に向かうところだったが、その少女たちが持つ品物に目が止まり、そのあまりの素晴らしさに大きく目を見開いた。


 なっ、なんなんだあの布はッ!! ………なんて美しいんだ。ほ、欲しい! なんとしても欲しいッ!! あまり見ないデザインだが女人に親しまれそうだ。それに使われている技術が革命的だ、縫い目が全然目立っていない! ぜ、是非っあの品を……


 少女たちが持っている品を買い取るには話しかけなければ、咄嗟にそう思ったルーカス。

 しかし、まず交渉するためにも馬車に乗ってもらわなければ、そう思いルーカスは御者に少し先で馬車を止めるように指示をする。


 ちょうど二人が二人前を通りかかるときに話しかける。

 ルーカスはなるべく良い印象を与えるべく笑顔で話しかけてみるが、少女達の反応はあまり良くない。その時、逆に怪しく思われているのにルーカスは気がついていなかった。


 それから必死に交渉し何とか馬車に乗ってもらう事ができたが、中々話を切り出す雰囲気ではなかった。


 ルーカスはどう話を切り出せばいいか悩んでいると、幸運にも相手の方から話を切り出してくれのだ。それからはトントン拍子で話が進んでいき、なんとか商談に成功する事ができた。


 この時、ルーカスは品物を手に入れられ天にも昇るような気持ちであったという。二人の美貌にも気づかずなんとも残念な男である。


 ルーカスは二人と話してみたが、どうやらかなりの田舎から来たらしく、まったくと言っていい程常識を知らなかった。


 二人に色々教えてあげたが余計なお節介だっただろうか、そう思ったがどうやら杞憂だったようだ。笑顔で話を聞いてくれる二人にルーカスも楽しくなりどんどん色んな話をした。


 途中でご飯も一緒に食べたりもしたが、本当に美味しそうに楽しそうに食べてくれて普段の道もいつもより楽しく感じた。


 楽しそうに食事を取るイヅナさんとツバキさんを見ながら子供がいればこのぐらいの年齢だろうかと感慨深い気持ちになる。


 しかし改めて見ると本当に可愛らしい人たちだ。イヅナさんは明るく元気で、ツバキさんはしっかりしていてお姉さんみたいだ。

 二人はあまり似ていないが村の幼なじみ同士だろうか?


 こんなにも仲がいいのだから聞くのは無粋だろうと思い、詳しくは聞かなかった。

 食事も終えて再び町に進めたがイヅナさんは寝てしまい、二人きりになってしまったせいか若干気まずいながらも楽しく過ごせた。


 町に着いたらお別れか……あの時馬車を停めていて本当に良かった、この素晴らしい出会いに感謝を。


 町についてから約束通り布団を買い取って、二人は店で服を買って行き冒険者ギルドに向かった。

 寂しくもあるがこの町ならいずれ出会うだろう。


 その時は二人に似合う服を紹介しようと思うルーカスだった。




 ◇ ◇ ◇ ◇   




《冒険者ギルド受付マリーの場合》



 イヅナちゃんとツバキちゃんとの出会いは昼も過ぎ、ギルドが落ち着いた時間の時だった。


 二人は新品の冒険には向かないような、綺麗な服装で冒険者ギルドに入ってきたのだ。綺麗な格好だったのでどこかの良いとこの子かなと思い、冒険者登録の準備をしていなかった。


 後で気づいたのだが、冒険者の多くは男なので人が大勢の時だったら揶揄からかわれる所だったので、昼に来てくれて良かったと後で思った。


 そんな二人は私が立つカウンターの前に来ると、なんと冒険者になりたいと言うのだ。最初はこんな小さいのだから冒険者なんてと思ったが、二人の意志は固く冒険者になると言って聞かなかった。


 そんなに言うならと思い仕方なく登録してあげることに。まぁ、職員側が決めれることでは無いので登録はしなければならないのだが……。


 それからギルドの説明を簡単にして、必要な書類を書いて貰う。

 書類は簡単にだが冒険者の情報を集めて管理しやすくするためのもの、閲覧できるのはギルド長か、それと同等の権限を持つものぐらいだ。


 そんな無駄なことを考えていないでギルドカードを作成するために、倉庫にある水晶を取りに行かなければ。

 いつもなら朝の時間に近くのカウンターに設置されているのだけど、昼を過ぎると邪魔だとばかりに倉庫に戻される。全く登録の水晶って結構重いんだからね。


 水晶を片付けた誰かも知らない人に文句を垂れるマリー。


 その時だった、いつもなら疲れる為あまり使わないマリーが所持しているスキル『魂魄眼こんぱくがん』をなぜか使ってしまう。


 このスキルは希少でその者の魂を見ることができる、善いものは光り輝き、悪しきものどす黒くにごっている、このスキルのおかげでマリーはギルド受付嬢になることが出来たと言っても過言では無い。


 本当ならこのスキルを使う際は、事前にギルド長に言っておかなければいけないのだが、純真無垢に見える二人に限って大丈夫だろうと思いスキルを使ってしまう。


 マリーがスキル『魂魄眼』によりツバキの魂を見てみると、暖かな日差しが差し込む昼下がりの公園のような優しい白い光を放っていた。どうやらツバキは心優しき良い子のようだ。


 ツバキの様な優しい光は稀にあるのだが……問題はイヅナの方だった。


 問題のイヅナの魂は今までに見たことない、気を抜けば魂の輝きに魅了されてしまいそうな金色に輝く神々しい光を放っていた。


 そのあまりの眩しさに一瞬、目を閉じてしまうがゆっくりと目を開き再びイヅナの魂の輝きを確認する。


 うっ!? こ、この子なんて魂の輝きなの!? こんな輝き方始めてみるわ! 今まで見たことのあった中では神聖国最高指導者、教皇ノア・アークライト以上の輝きはなかったのに……この子はそれ程まで神に愛されているというの!?


 実際イヅナは神に愛されているのではなく、イヅナ自身が神なのだから比べるのはおかしいだろう。 

 しかしマリーは運が良かった、イヅナはかなり弱体化していてもそれほどまでに輝いているのだ。弱体化する前のイヅナの魂を見ればマリーの眼は焼かれていただろう。


 イヅナの魂の輝きに冷や汗をかきながら、マリーはギルドカード作成の水晶を持ってきた。

 マリーは緊張でどうにかなりそうだったが気持ちを落ち着かせながらいつも通りの対応をしてみせる。流石ギルドの受付嬢といったところか、普段冒険者を相手しているだけの事はある。


 ギルドカード作成の水晶に興奮しているイヅナの対応を見ていると、年相応で可愛らしく先程までに必要以上に緊張していたのが馬鹿らしくなってきていた。


 登録を終えて宿に向かう二人の後ろ姿を見ながら、とんでもない新人が入ってきたと思うマリーだった。




 お読みいただきありがとうございました。


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