第15話 ごめんよウサギさん……


 ゴブリンを倒してから、しばらく森を歩いているとイヅナがある植物の前で止まった。どうやら目的のものが見つかったようだ。


 その植物の前でイヅナは屈み、カバンから雑貨屋で買ったスコップを取り出し刈り取ると、手に持ってツバキの目の前に差し出す。


 いきなり何をしているだろうと思うツバキだったが、これが例の植物なのかと思い一応イヅナに確認する。


「あっ! イヅナ様もしかして、これが薬草ですか? う〜ん、普通の雑草にしか見えませんけど…」


「これで間違いないじゃろ、この草からは薬草の独特な匂いがする。それにしても結構臭いんじゃな」


 イヅナは狐の神様だ、狐の嗅覚は人間より優れており、およそ1000倍~1億倍も鋭いと言う。狐耳で町の場所を聴き分けたり、嗅覚で薬草を探し出したりと中々のハイスペックぶりだ。本人の性格はポンコツ気味だが。


 事前に話し合った作戦通りにツバキはスキル『鑑定』を試みる。別にイヅナのことが決して信じられないからという訳ではない、未だに薬草の現物を見たことがない為、本当かどうか確認するためだ。



【レピクス草……魔力が溜まる場所によく出来る薬草。葉っぱの部分に体を修復する成分を持っており、調剤する事により効果を上げることができる。ポーションの原材料】



 確かに薬草だ。……しかしこの鑑定の説明は誰が創ったのだろうか?

 そんな疑問を後にイヅナ達は薬草を集めていくのであった。




 初めての薬草を採取したイヅナたち、その後も二人は順調に薬草を集めていった。

 数も十分に集まり、そろそろ帰ろうとした時の事だった。


 ーーガサガサ、ガサガサ……


 近くの茂みから草木が揺れる音が聞こえてくる。また、ゴブリンが来たのかもと思いイヅナは茂みに睨みをきかせる。

 二人は注意して茂みを見ていると、その茂みからある一匹の黒い影が飛び出してきた。


「ぷーぷー」


 なんとも気の抜けるような声を出して茂みから出てきたのは、サッカーボールほどの大きさの一匹の茶色のウサギだった。まん丸お目々にピンっとしたお耳、全くの脅威にはならなそうな魔物?



〈名前〉なし 〈種族〉プチラビット


〈レベル〉2


〈ステータス〉

 筋力:F

 耐久:F

 敏捷:E

 魔力:F

 精神:F


〈スキル〉『突進』『媚びる』

 

 

「わわわっ! ウサギじゃないですか!? でも一匹ですね、他に仲間はいないのでしょうか? どうしたのかなぁ、もしかして迷子になっちゃったのかなぁ?」


 いつもとは様子が違った猫撫で声を使いプチラビットに話しかけるツバキ。

 いつもの凛々しいツバキはどこへやら、目をとろんとさせてウサギを見つめていた。


 対してイヅナは飛び出してきたウサギを見て、目を爛々とさせている。その目は獲物を狙う狩人の目。


「ウサギでは無いかっ! ……じゅるり、まん丸太ってなんとも美味しそうじゃ」

 

 ウサギを見て美味しそうと言うイヅナの言葉を聞いてしまったツバキは、そのあまりに無慈悲なる発言に驚きイヅナに詰め寄った。


「えぇ!! も、もしかして食べるんですか!?」


「もちろんじゃ、お主も昨日食べたじゃろ。きっとこやつも美味しいぞ〜。何にして食べようかのぅ、やはりシチューか、いや昨日食べた香草焼きも捨てがたい……」


 そんなイヅナの食欲を感じ取ったのかプチラビットはぶるりと身体が震える、そしてまるで「私を食べないで…」と言わんばかりにつぶらな瞳でツバキを見つめてくる。


 うっ!? そんな目で私を見ないで……


 流石のツバキもたまらず罪悪感で押しつぶされそうになる。やはり、食べるのは可哀想だとイヅナに言う。


「イヅナ様やっぱりやめましょうよ。確かに昨日のご飯は美味しかったですが、こんなにもふもふで可愛いウサギを食べるなんて……」


「何を言っておる、こやつは魔物じゃ。狩れる時に狩っておかねば、いつ誰に迷惑をかけるのかも分かぬぞ。それにスキルにも『媚びる』ってかいてあるじゃろ」


 確かにそうかもしれないが、理屈では分かっているのだがいざ目の前にすると可哀想で勇気が出ない。

 いまだにプルプルと震えるプチラビットから目が離せない。


「はぁー仕方ない、妾がやるかのぅ」


「待ってくださいッ!………分かりました、私やります!」


 覚悟が決まったのかツバキは槍を片手にプチラビットの前に立つ。普通のウサギならすぐさま逃げるのだろうがやはり魔物、ツバキを前にしても堂々とした仁王立ちをしている。


「あなたに恨みがありませんが、私は貴方を倒さなければならないッ!!」


「ぷーぷー?」


「くっ!? また私をそんな目で見ないで」


 プチラビットは変わらず、ツバキにつぶらな目で見つめ返す。

 ツバキのやる気を落とされる、がしかしそれはウサギが可愛い見た目に騙されて見逃してもらうための戦略、内心では「ぷーくすくす、騙されてるの」とでも思ってるかもしれない。


 ツバキはそうとでも思わなければ攻撃出来なかった。

 勇気を出し槍を前に構えると勢いよくウサギに向けて突き出す。


「やぁあああーーッ!!」


「ぷぅううううー!?」


 プチラビットはツバキが攻撃してくるとは思わなかった為か逃げ遅れてしまう。そもそもステータスが低いのでツバキから逃げられたとしてもイヅナからは逃げられないのだが、プチラビットには知る由もない。


 ーーグサッ


 プチラビットはツバキの一撃によって倒された。あんなにも躊躇していたのに、最後なんともあっけない物だ。


「よし良くやったぞツバキっ!!」


 ツバキの初の狩りに、イヅナは自分のことの様に喜びピョンピョンと当たりを跳ねまくる。その光景はウサギが飛び跳ねるようだった。


「あ、ありがとうございます」 


「よし、このウサギの血抜きをしてから帰るとするか! いや〜、今日の晩御飯が楽しみなのじゃ。何にしてもらおうか丸焼き、いやっ唐揚げも捨てがたいの……」


 顔色が悪くなっていたツバキもイヅナの喜ぶ様子を見ていたら自然と笑顔が溢れていた、狙っていたのかは分からないがツバキの顔色が良くなっている。おそらくイヅナのこれは天然だろうが。


 二人は仲良く今日の夕食を相談しながら冒険者ギルドに戻るのだった。




 ◇ ◇ ◇ ◇


  


「こんなにも持って来てくれたんですか、助かります! 薬草が45本にゴブリンが一匹、プチラビットが一匹、初めての依頼では上出来ですよ!」


 冒険者ギルドで依頼の報告をしているとマリーさんに成果を褒められイヅナたちはなんとも嬉しそうに照れている。


「まぁ妾たちにかかればこんなもんよ!」


「こら、調子に乗らない」


「でも次からはゴブリンの耳と魔石だけでいいですからね。ゴブリンの体にはあまり使い道は無いですから。ではこちらが報酬の銀貨8枚になります」


 依頼の報酬に銀貨8枚を手に入れた。

 薬草が銀貨7枚、ゴブリンが銅貨6枚、プチラビットが銅貨4枚といった割合だ。プチラビットの肉を売ればもう少し高かったがツバキの初めての獲物、売らずに宿で食べることにしたのだ。


 しかし銀貨8枚か………半日の成果としては十分じゃが、二人合わせて8枚か…次からはもっと積極的にゴブリンを探すべきか? 


 報酬の額に悩みながらもお金受け取ったイヅナたちは、もう夜も遅いので宿に戻ることに。


 そこでは、ツバキの狩ったウサギをとろとろシチューに調理してもらい少し豪華な夕食を楽しむ。

 ツバキはゆっくりと肉の入ったスプーンを口に含み、幸せそうに頬を緩ませるのだった。ここまで美味しそうに食べてもらえたのだから、ウサギも本望に違いない。




 お読みいただきありがとうございました。


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