第14話 ゴブリン参上!


 最低限の準備ができたイヅナたちは冒険者ギルドに来ていた。どうしてギルドに来たのかって? それは当然異世界で初の依頼を受けるためだ。


 早速ギルドの中に入り昨日お世話になった受付嬢のマリーさんが居たので、そのカウンターの方に行く。やはり知らない人より知っている人に相談する方が良い。

 カウンターの前に来たイヅナ達に気づいたマリーさんは笑顔で迎え入れてくれた。

 

「あら、こんにちは」


 二人はマリーさんに挨拶を返し、早速とばかり今日依頼を受けたいと話す。昨日の今日で早いと思うかもしれないが、稼がなければこれからの生活が心配だとツバキが言うのだ。


「依頼を受けたいのじゃが、妾たちにぴったりの依頼はなんかないかのぅ? 出来れば稼ぎが多いのがいいのじゃが……」


「ちょうど良いのがありますよ。えーーと、確かこの辺に……あったあった、これです!」


 イヅナの依頼を受けたいという言葉を聞き、マリーさんはイヅナとツバキの格好を一目見るとカウンターの引き出しの中から一枚の紙を取り出す。


 差し出された紙にはこの様なことが書いていた…



 [依頼・薬草求む……最近薬草の在庫が無くなってきている、出来るだけ沢山の薬草を取ってきてほしい。本数に応じて報酬の増額有り。    

              依頼主……冒険者ギルド]



「「薬草採取??」」


 二人は揃って首を傾げる。


「そう薬草採取よ。最近納品される薬草の数が減ってきてるのよね。薬草はポーションを作るのに必要だから有ればあるだけ困らないんだけど……」


 異世界定番の依頼、薬草採取。

 戦う実力がまだ無い初心者が資金を稼ぐために受ける最初の依頼。異世界に来たら体験したいランキング第7位。そんなランキングあるか知らないが。


 異世界らしい依頼なのでイヅナは喜ぶと思っていたが……


「薬草採取なんて初心者のやることではないか!? 妾はもっと冒険者らしい討伐や遺跡調査の依頼が受けたい!」


 どうやらイヅナのお気に召さなかった様だ。

 まぁ実際、異世界だから特別に感じるが、やっていることは山菜取りと一緒の様な物、そのためかイヅナはもっと冒険らしいものをしたいらしい。 


「ちょっとイヅナ様、わがままを言わないでくださいよ。薬草採取だって立派な依頼ですよ! ねっ、マリーさん!」


 そんな様子にツバキがイヅナに向かって軽く怒る。そして何やらマリーさんに向かって含みのあるような目で見る。

 ツバキの含みのあるような目を見て企みに気づいたのだろう、少し芝居掛かった物言いで薬草採取のことについて話し始める。


「そうね、薬草採取は一見簡単そうに見えるけど的確に薬草だけを見つけるのは至難の業なのよ。まぁ、イヅナちゃんにはちょっと難しかったかなぁ〜」


「な、何をっ! 妾の薬草を見極める眼を舐めるでないぞ! 百本でも二百本でも取ってきて見せようではないかッ!」


 イヅナはまんまと二人の策に引っかかり、やる気が出なかった薬草採取に熱意を向け出した。なんとも扱いやすいチョロ狐である。


「早くくぞツバキ!」


 ぷんぷんしながら薬草採取に向かう。


「はいイヅナ様。マリーさんありがとうございました」


「じゃあ、気をつけていってらっしゃい」


 依頼に向かう二人の後ろ姿ををカウンターから見送る。


 演技に簡単に騙されるイヅナに、どこかで悪い人に引っかからないか少し心配になったマリーであった。




 ◇ ◇ ◇ ◇



 

 場所は変わり、イヅナたちが町に来た方角とは反対の門から出た大きな森の外まで着いた。

 そこでイヅナたちは事前に作戦会議を立てていた。


「作戦はこうじゃ、妾がまず薬草を見つける、それをツバキが鑑定して確かめる、これでいくぞ」


「本当にそんな作戦で大丈夫ですか? 結構イヅナ様の負担が大きい気がしますけど、イヅナ様が不満じゃないならいいですけど……」


 ツバキはイヅナの簡単な作戦に渋々同意し、二人は生い茂る森の中に入っていく。

 森に入ったイヅナはいつもとは違い真剣な表情で辺りを警戒する。

 この森のことをイヅナ達は受付嬢マリーに教えてもらっていた。



 ファスの森、通称初心者の森とも呼ばれており出てくる魔物は低レベル、少数だが奥に行けば行くほど複数で行動する魔物がいるため初心者は森に入ってすぐの場所で薬草などを採取する事を推奨する。



 この森は初心者向けの森だそうじゃ、魔物はあまり出てこないと言われておるが警戒しておくことに越したことはない。ツバキはまだ戦闘慣れしておらん、ここは妾がしっかりせねばっ!


「では早速探すとするかのぅ。ツバキよ、妾が警戒しているとはいえ一応周りに気をつけるのじゃぞ。この森には魔物が出るらしいからの」


「分かりました、大丈夫だとは思いますがイヅナ様も気をつけてくださいね。今のイヅナ様は体が小さくなってるんですから」


「うむ任せておけ、体は小さくなってしまったかもしれないがこれまでの記憶は失われた訳ではない。戦ってきた経験を有効に使うとしよう」


 頼りにされ胸を張るイヅナ、すると早速とばかりにガサガサと近くの茂みが揺れた。なんとも運のない二人、ステータスに運の値があれば最低値を記録していただろう。


「な、なんですか………こ、子供?」


 出てきたのは子供ほどの身長の生き物。肌は緑色で少し耳が尖っており、腰に最低限の衣服を身につけているだけ。


 ツバキが子供に向けて声をかけようとした時、イヅナが声を上げて注意を促す。


「気をつけるのじゃ、おそらく此奴はゴブリンじゃ!」


「ゴブリン?」


「そうじゃ、邪悪な妖精と言われ人を襲う悪しき物じゃ」


 そう言われてツバキは軽くゾッとした。


 イヅナが居なければ異世界だからこの様な種族の子供もいるのかと思い危うく近付いていたかもしれない。普段ゲームなどをしないツバキは魔物との区別はつかなかったのだ。


 その為ツバキは事前に出てくる魔物の容姿などを聞いておけばよかったと後悔していた。だが詳しく教えなかったマリーさんが悪いわけではない、普通田舎でもゴブリンぐらい一度は見たことあるせいか、マリーさんは容姿などの説明はしていなかったのだ。


 ツバキは改めてゴブリンと言われる魔物の顔を見てみる。確かに改めて見ると確かに邪悪な顔をしており町の子供とはまるで違う。


 ゴブリンか確認のためツバキは一応鑑定を試みる。



〈名前〉なし 〈種族〉ゴブリン


〈レベル〉3


〈ステータス〉

 筋力:F

 耐久:F

 敏捷:F

 魔力:F

 精神:F


〈スキル〉『棍棒こんぼう術』


 

 鑑定結果をイヅナと共有する為、ゴブリンに注意しながら結果を見せる。

 ツバキから見せられたゴブリンのステータスを見て、イヅナはこう思った。弱っ……と。


 ……弱っ!? なんじゃこのステータスは……殆どのステータスが最低値ではないか、しかもこのゴブリン『棍棒術』のスキル持ってるくせに肝心な棍棒を持っておらぬではないか!?


「グ、グギャアアアッ!」


 鑑定結果を見ているとゴブリンが敵意に満ちた雄叫びを上げて二人に襲いかかってきた、幸い足はそこまで速くはなく難なく対処できた。何やら怒ってるふうに見えたが決してステータスを馬鹿にされたのを怒っているのではない。


 襲いくるゴブリンの突撃をイヅナは落ち着いて避けると、自らの愛刀、神刀 小狐丸をゆっくりと抜き放つ。


 小狐丸よ、異世界での初の実戦じゃ。元の世界ではあまり使ってやる事はなかったが、この世界では違うぞ。命のやりとりがある世界じゃ、思う存分振るってやるぞッ!


 イヅナの心の声に反応するかの様に小狐丸の頭身はキラリと光った。まるで意志を持っているかの様に……


「グギァアアアッ!!」


 こちらの様子を見ていたゴブリンが先程よりも素早い動きでイヅナに突進を繰り出してきた。どうやら先程まではイヅナたちの小さな容姿に油断していた様だ。


「イヅナ様ッ! 来てます避けてくださいッ!!」


 森の中にツバキの緊張感のある声が響き渡る。


 イヅナは突撃してくるゴブリンの正面に立ち続け、避ける気配はない。

 その様子を見ていたツバキが早く避けるように言うが、戦闘に集中しているイヅナの耳に入っていないのか、いつまで経っても避ける気配がない。


 あと数歩という所まで近づいてきたゴブリンに向かって、なんとイヅナ自ら近づいていく。


 この先訪れるかもしれない悲劇に、ツバキは戦闘中にも関わらず目をギュッと瞑ってしまった。


 ーースッ………


 耳に風を切る様な音が聞こえた後、何かが崩れ落ちる音が遅れて聞こえてくる。

 ツバキは恐る恐る目を開けてみると、イヅナとゴブリンの立ち位置がいつの間にか変わっていた。イヅナの方を見てみると刀を振り抜いた状態で佇み、対してゴブリンの方は血を流しながら地面に倒れていた。


 思わぬ光景にポカンと口を開けていたツバキだが、急いで先程まで戦闘を行なっていたイヅナに近寄り、怪我はないか確かめる様に体を調べ始めた。


「イ、イヅナ様大丈夫ですかッ!!」


「うむ大丈夫じゃ、それより、ハハハッくすぐったいぞツバキ。妾に怪我はないからそろそろやめてほしいのじゃ。それよりツバキの方は怪我はないか?」


 イヅナはくすぐったそうに身をよじると、今度は自分の番だとばかりにツバキの体に自分に対してやったことをやり返した。


「ふふふっ、私は大丈夫ですよ……それでゴブリンは……死んだんですか?」


「多分死んだ、妾が一刀で伸してやったのじゃ」


 イヅナの言う通り戦闘は一瞬だった。

 襲いくるゴブリンを避けると同時にイヅナが刀で切り裂いたのだ。


 無駄の無い見事な体捌き、ステータスの低さを補って余りある技術の高さ、伊達に千年生きているわけでは無いという事。


 信じられないとばかりに目を丸くするツバキ。

 自信より低い筋力値でどうやって倒したのか確かめる為、イヅナの細くしなやかな腕をぺたぺたと触り出す。


「ほ、本当ですか!? でもイヅナ様のステータスって筋力値が低くて接近戦にあまり向いて無かったですよね?」


「確かにステータスが低くなって以前の様に力は出なくなったが、妾にはこれまでに培われた技術と経験がある。自分の体を効率的に動かすことぐらいなんてことないのじゃ」


 ツバキの当然の疑問に自身が先ほどの戦闘で行なったことを簡単に説明するイヅナ。


 簡単にやってるように聞こえるが、実際イヅナが千年以上かけて蓄積した戦闘技術と知識はかなり凄まじい。千年分の経験と戦闘技術がレベル1しかないイヅナの肉体を最適解に動かしているからこそ、モンスターとの戦闘も余裕で行えているのだ。 



「これなら、この先もなんとかやっていけそうですね」


 イヅナの強さにこの世界での心配事がぐーんと減りツバキに笑顔が浮かぶ、一方イヅナの表情はあまり優れない。


「いや……そうとも限らぬ。確かに技術と経験はあるかもしれぬが、ステータスが格上の者には通用しないじゃろう」


 例えどれだけ巧く戦えてもそもそも攻撃が通らないほどステータスの差があれば勝負にすらならないのだろう。

 やはりステータスがある世界、強さの根本はステータス値の方が大事なのだろう。


「そうなんですか……それならレベルを上げて強くならなくちゃですね」


「そうじゃな」


 暗いことを考えても仕方ないか、これからについて考える方が有意義じゃな。それよりツバキの奴、前より逞しくなってないか? 


 逞しくなったツバキを遠い目をしながら感心していると、イヅナはつい先ほどの戦闘の時について思い出したことがあった。


「そういえばツバキ、先程の戦闘で目を瞑っておらんかったか?」


「えっ! それは…その……」


 突然のイヅナの言葉に口籠もるツバキ。

 そんな様子にツバキはこれはいけないと思ったのかあることを提案する。


「これは後で稽古じゃな」


「そんなぁ〜」


 いつも通りの雰囲気に戻った二人は、薬草採取の続きを始めたのだった。




お読みいただきありがとうございました。


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