第13話 小狐丸はチート武器!?

 

「よーし、これで買い物は終わりじゃ! 早速、この町で食べ歩きをするとしよう!! ツバキも行くじゃろ?」


 冒険に必要な道具を一通り買い揃えた雑貨屋を出てからというもの、鼻をひくひくとさせながら屋台を見ていたイヅナが、早速とばかりに屋台に突撃しようとするが……


「待ってくださいっ!!」


「ぐぇ!?」


 突然イヅナの服の襟をツバキが掴み、屋台に行こうとしていたイヅナを引き止める。

 引き止めた際、イヅナの首が思いっきり締まったが多分大丈夫だろう、多分。


 若干涙目のイヅナが軽くツバキを睨み襟を掴んだ事を抗議する。


「ごほっごほっ、ツバキよ何をする!?」


「イヅナ様まだ用事は残ってますよ」


 ツバキが引き止める理由は、まだすることが残っているからだと言うが、イヅナにはその理由が思いつかない。

 そんなイヅナに呆れながらも次の目的地を教えてくれた。


「もう忘れたんですか? 武器ですよ武器。イヅナ様には刀があるかもしれませんが、私は何も持ってないんですよ。丸腰で依頼なんて受けれませんよ」


「あっ!」


 イヅナには異世界からなぜか刀も一緒について来たが、ツバキが使うであろう武器は何もなかった。イヅナは完全に忘れていたようだ。


 というわけで、二人は武器屋に向かっていた。


 確かにツバキの言う通り、丸腰では魔物に襲われた時、対処のしようがない。毎回イヅナに魔物の対処をしてもらう訳にはいかず、ツバキの武器を買うためにミーナおすすめの武器屋に向かう。本当にミーナはなんでも知っている。


 ミーナに教えてもらった通りに道を進むと、剣が交差している武器を売っていると一目見て分かる看板が見えて来た。


 ーーカーン、カーン


 店内に入ると鉄を打つ音が聞こえてくる、おそらくこの店の店主が何かを打っているのだろう。


「すいませーーん!」


 ツバキが店内に響くほど大きな声で呼びかける。


「……………」


 しかし誰も出てくる気配がない。

 熱中していて来客に気づいていないのだろうか、未だにカーン、カーンという鉄を打つ音だけが聞こえてくる。


「すいませーーーん!!」


 ツバキがもう一度呼びかけてみるが……


「………………」


 やはり反応はない。


「なんで誰も出てこないのじゃーーッ!!」


 しばらく様子を見ていたイヅナだが、ツバキの呼びかけに全く応えない店主に痺れを切らしたのか音のする店の奥へと入っていくでは無いか。


 店の奥へと勝手に入っていくイヅナの後ろを慌ててツバキが追いかける。


 ーーカーン、カーン


 店の奥に入ると、ある一人の男が一心不乱に鉄を叩いていた、鍛冶場の中まで入って来たイヅナたちに気づかないほどの集中力。その集中力は凄いとは思うが客を放っておくのはどうだろう。


 イヅナが男のそばにまで近づき大きく息を吸い込む。


「おい、おぬしッ!! 客が来てるのに出てこないとは何事じゃッ!!」


「うん?」


 ここまで近くで声をあげると、気がつかなかった男も流石に気づいたのか、ようやく反応を示した。


「なんだ、お前ら? 俺の工房に何か様か?」


 悪気もないような反応でイヅナに返答する男。

 男の対応に流石のイヅナもイラついたのか声を荒げて用を話す。


「用か何かもないわ!! 武器を買いに来たんじゃ!!」


「おぉ! それはすまんかったな。今日は店番が休みの日じゃった。うっかりしておったわ、ガハハハ!」


「ガハハハ、ではないっ!」


 なんともマイペースなおっさんである。


「嬢ちゃんそんなに怒らんでくれ、わしが悪かった。サービスでもつけるから、なっ」


「むぅ……」


 イヅナは若干不服そうだが一先ずは納得する。別に安くなるから納得したという訳では無いだろう……多分。




 ツバキの武器を見るために店内に戻ってきた一行。


「っで、どっちがどんな武器を探してるんだい?」


「あっ! はい、私のです。希望は薙刀がいいのですが、無ければ普通の槍でも大丈夫です」


 薙刀がこの世界にあるか分からないが取り敢えず希望を言ってみることに。しかし薙刀という物をこのおっさんは知らない為作れず、客の要望のものを作れないことを大層悔しがっていた。

 仕方がないのでツバキはなるべく薙刀と近い槍を見繕うことに。


 店内を見てから、ふと目に入った柄が黒い木製の重厚感のある槍を手に取る、どうやら見た目ほど重くは無いようでツバキのような女子でも扱えるようだ。


 軽く素振りをして馴染み具合をみる。


 数回ほど素振りをした後、他の槍を一通り見てみるが他に気に入った物はなかったので、初めに手に取った黒い槍を購入することにした。


 そこでツバキは初めてスキル『鑑定』で槍の詳細を確認してみる。


 どうでしょうか? 鑑定ではどんなことが見えるのか分かりませんが、使ってみても損はないでしょう。ここの店主はダメダメですが武器に対しては人一倍真面目そうですし、ちゃんとした武器だと思うのですが……



【ダークトレントの黒槍……ダークトレントの柄に黒鉄の穂で作られた自慢の一品。ダークトレントの芯材を使われておりその強度は鉄にも劣らない】



 これが鑑定の効果!? 見えること少なすぎませんか? もしかして私のレベルが低いから? それはともかく武器としてはしっかりと使い物になりそうですね。これは決まりですね。


 一応他の槍も鑑定してみたのだが、殆ど役に立たない情報ばかりだったので、以下省略。


 しかし一応の目的、ツバキの武器は決まった。

 

 そして、次はイヅナの番だとばかりに他の武器を売っている方に行こうとする店主。


 どんな武器を扱うのかを店主はイヅナに向けて尋ねる。


「そっちの狐耳の嬢ちゃんはどうする?」


「んっ? 妾か? 妾には既に相棒があるのでな、今のところ必要ない」


 そう言って、イヅナは自らの腰に下げていた小狐丸を掲げ店主に見せる。そうイヅナには異世界から一緒に転移してきた刀があるのだ。


 店主はイヅナが手に持っている刀を見て、驚愕で目を大きく見開く。


「こ、こいつはッ!? と、とんでもねぇな、長年鍛治師をやってれば名剣の類を見ることはあるが、俺が見た中で一二を争うほどの名剣だぞ」


 うっとりとした様子でイヅナの手に持つ刀を眺める。

 正直おっさんのうっとりした姿は見たくもなかったが、イヅナは自分の愛刀を褒められて満更でも無かった。


 気を良くしたのか、イヅナの先ほどまでの苛立ちはどこへやら、ドヤ顔でこの刀の由来について聞いてもいないのに語り出した。


「むふふ、よく分かっておるではないか店主よ。この刀は妾の古き友と共に打った思い出の刀でのぅ、他の名刀にも負けず劣らずじゃ」


「おぉ!! あんたが打ったのか!」


「妾は少し手を貸しただけじゃよ……」


 曽ての友を思い手に持つ刀を優しく撫でる。イヅナの雰囲気を察しその鍛治師は亡くなっているのだと悟る。


「さぞや名のある鍛治師だったのだろうな……」


『……………』


 ーーパンッ!!!


 イヅナが手を叩きこの場の暗い雰囲気を吹き飛ばし、笑顔で気にするなと言う。やはりイヅナには暗い雰囲気は似合わない、明るい笑顔が一番だ。


「しんみりしてしもうたな、店主よ会計を頼むぞ」 


「お、おうッ!! 分かったぜ! 嬢ちゃんその槍、大切にしてくれよ、まぁ壊れたら壊れたでまた買いに来てくれたらいいがな、ガハハハ!」


 店主から槍を手渡され、ツバキはそれを両手で大事そうに受け取る。

 異世界での初めての装備、ツバキの最初の相棒としてこれから活躍し続けるだろう。




 イヅナ達は会計を済ませ武器屋を出た。

 ちなみにツバキが購入したダークタレントの黒槍だが、店主からの詫びも入って金貨8枚ほど。命を預かる武器ということもあり値段もそれ相応に高めだが、これでもかなり安くなった方だ。


 しばらく他愛のない話をしていると、ツバキは先ほどの話題で出たイヅナの刀・小狐丸を打った鍛治師について聞いてみる。


「イヅナ様の刀って天下五剣を打った、刀工・宗近の刀ですか?」


 刀工・宗近とは、数々の名刀を世に送り出した刀匠であり、かの有名な天下五剣・三日月宗近を作り出した平安の刀工である。すでに亡くなっているが、平安では世に名を轟かせた刀鍛冶士だ。


 ツバキの疑問になんて事もないように告げるイヅナ。


「ん? そうじゃよ。それがどうかしたか?」


「いやいや、なんでイヅナ様がその刀を持ってるんですか!? 確かその刀って献上されたはずでは!? てっきり名前だけ同じものとばかり」


「んーー、なぜか巡り巡って妾の元に来た」


 この小狐丸を手に入れた経緯を話すと。

 イヅナの神社では年に一度、奉納が行われ数々の品がイヅナの元に集まってくる。ある時、珍しく刀が奉納され、それが小狐丸という名前なのだから狐の神様に相応しいとイヅナの元に来たのが事の経緯だ。


 運命とは不思議な物だ、イヅナの元にこの刀が戻ってくるとは……きっと宗近が生きていれば其方の方に戻っていたのだろうが、しかし宗近は人間、数百年も生きることはできない。そのため相槌をしたイヅナの元に戻って来たのだろう。


「………宗近さんと別れるのは悲しくなかったのですか? お友達だったんでしょ」


「人はいつかは死ぬ、それは分かりきっておったこと。それに彼奴は高天ヶ原でまた刀打っとるから会いに行けるし」


「なんですかそれ!?」


 衝撃の事実を聞いたツバキは大きな声を上げて驚く。

 さっきの感動を返してほしいものである。


「それで、なぜ今その話を持ち出した?」


「さっき、あの槍を鑑定した時に簡単にですが鑑定することが出来たんです。それでイヅナ様のその刀ならどんな風に見えるのかなぁ〜って」


「おぉ!! それを早く言わんか! 早く鑑定してくれ! 実は妾もちょっと気になっておったんじゃ。宗近の刀がどんなふうに表示されるのか楽しみじゃわい」


「じゃあ見ますね、スキル『鑑定』」



【神刀 小狐丸 〈エンチャント〉『不壊』『封印』『封印』『封印』………豊穣神の力が宿った神器。名刀が神気を浴び続けた結果、神刀に変化した。その一振りは天地を裂き、海を割り、不浄を切り裂く。だが今はまだ真の姿では無い】




「……な、なんですか、これッ!!」


 驚愕の鑑定結果にツバキは大きな声を出してしまう。それにしても今日はよく声を上げる。


 ツバキの反応を見てイヅナは早く見せてほしいとツバキに懇願する。鑑定結果もステータスと同様見せようとしないと見えない仕組みのようだ。


「なんじゃ、なんじゃ!? 早く、早く妾にも見せてくれ!!」


「イ、イヅナ様、これって……」


 見せてとせがむイヅナに鑑定結果を見せるツバキ。


「にょほぉおおおーーー!!! なんと凄い凄いぞー小狐丸っ!!」


 イヅナは小狐丸の鑑定結果が嬉しいあまり頬づりをし始めた。嬉しいのは分かるが刀に頬づりはやめて欲しい。

 それにしてもスキルが封印されているのに気づいているのだろうか。


「イ、イヅナ様どうしましょう!? 神刀ですよ神刀!! こんな物で魔物なんて切っちゃったら神罰が降ってしまいますよ!! い、今すぐに綺麗な布に包んで厳重に保管しなければ!」


「落ち着けツバキ、大丈夫じゃ。これは妾の力から造られた神刀、つまり妾が神罰になんて当たるわけないのじゃ!」


「………本当ですか?」


 イヅナの言葉を信じても良いかどうか悩んでいるとイヅナがツバキの腕を取って駆け出した。

 機嫌が良いのか軽い足取りでどんどんと町を進んでいく。


「そんなことより早く行くぞ、妾は今滅茶苦茶気分が良い。今の妾ならなんでも出来そうじゃ。ははははははっ」


 ツバキはイヅナに引っ張られるように街へと駆け出した。


 それは奇しくも朝の時とは正反対の光景であった。




 お読みいただきありがとうございました。


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