第7話 潜入!異世界の町ギニング
騒がしくも昼食を終え、町に向けて出発する一行。
出発してからの道中は穏やかで何も起きないため、イヅナはご飯を食べお眠タイムに突入、ツバキは情報を集める為ルーカスに質問責め。
賑やかな馬車の中でイヅナたちは順調に町に向かう。
それから馬車に揺られて、およそ4時間程経ったころだろうか。
馬車はようやく近くの町、ギニングの町に到着した。
ギニングの町は低いながらも石壁が建てられており安全面はしっかりとしている。
いくらこの辺りの敵がスライムなどといった弱い敵だからと言って安全を疎かにしないのは町としてはダメだからの。
大きな木製の門には町の兵士らしき人物が立っており、ルーカスの馬車に気づいたのか荷台を調べるため小走りで近づいてくる。
「失礼しますルーカスさん。今日もいつもの荷物ですか?」
「今日はいつもの荷物にお嬢さん二人ですよ。身元は私が保証します、お二人は冒険者になるために村から出てきたそうです」
呼ばれたような気がしたので、馬車から顔を出して門の兵士に挨拶をする。
「妾はイヅナ、こっちの方はツバキじゃ。これから町で冒険者をするから、今後もよろしく頼むのじゃ」
「ちゃんと挨拶できて偉いねお嬢ちゃん。そっちのお姉ちゃんと一緒に村から出てきたのかな?」
イヅナの挨拶にまるで微笑ましいものを見たかのような優しい目で幼い子供を相手するように褒める。まぁ、実際イヅナの見た目は十代に届くか届かないくらいの見た目なのだから仕方ないのだが……
兵士の幼い子供を相手するかのような態度に、流石のイヅナも声を荒げて反論してしまう。
「こらー、妾を子供扱いするでないわっ! 妾はこれでも千年は生きておる、立派な神こぉ……」
「千年、神こぉ…………?」
兵士が不思議なものを見る目でイヅナを見る。
慌ててツバキがイヅナの発言を誤魔化すように言葉をかぶせる。
「す、すいません。イヅナちゃんは少々大人ぶるところがあるんですよ、あははぁ……」
「むぐぅ………」
最後まで言わせてくれないせいか、頬を膨らませてむくれた様子を見せるイヅナ。その態度で兵士は子供特有の変な嘘と勘違いしてくれたようだ。
そんなやり取りをした後、町に来た目的などを軽く調べるため、兵士の後を着いて行き門のそばに建てられた詰所で軽く質問された後、イヅナとツバキはすんなりと町に入ることが出来た。
後で兵士に聞いたところ、ルーカスさんはこの町ではそこそこ名の知れた商人で、本来ならもう少し詳しくするらしいのだがルーカスさんの知り合いなら大丈夫だろうと軽く質問される程度で済んだらしい。
ほんと、ルーカス様々だ。
無事に町に入ることが出来たイヅナたちを乗せた馬車がゆっくりと町中を進んで行く、少し歪な石畳の上を進むたび馬車が揺れ、馬車の中では荷物が跳ねたりして少し大変だった。
商品は大丈夫だろうかと心配したがルーカスさん曰く、うちは布を多く扱うから揺れはそこまで気にしないらしい。
送ってもらって文句を言うのもなんだが揺れをもう少し減らして欲しかった。おかげでお尻が痛い。
しばらく馬車に揺られて町を進んで行くと、ようやく揺れが収まり馬車はある一軒の店の前で止まった。
「さぁ、着いたよ此処が私の店、服屋ルーカス。服や布ならお任せあれ、町一番の品揃えと自負しているよ」
馬車から降り、ルーカスに案内されるがまま店を見てみると確かにルーカスと書かれた看板が目に入る。しかし、なんとも安直な名前と思ったが口には出さない。
あれっ? 何で文字が読めるんだ? ここは異世界にはずじゃろ?
「ツバキ、ツバキよ。あれはなんて書いてあるか分かるか?」
「服屋ルーカスですね。なんか安直ですね」
妾でも口に出さなかったのに! ルーカスに聞こえたらどうするんだ、それよりツバキにもこの看板は読めた。もしかして文字って共通か? いやっ、それはない元の世界でも言語は沢山あったし。
それじゃあ、なぜ?
「……あぁッ!!」
「ど、どうしましたか!? イヅナさん、もしかして私の店って変ですか」
「いやっ、そんな事どうでもいい。そうかそう言うことか!」
ーーどうでもいい、どうでもいい。
ルーカスが何故か落ち込んでいるか分からぬが、なるほどそう言うことか。
原因は昔、召喚されたといわれている勇者か!!
あやつが妾たちが暮らしていた国の言葉を広めたのか! 確か昔は魔物が多く国などなかったと聞く。
勇者が国を作ってから文字が広まったと言うわけか。あぁ、スッキリした。
「何をしておるルーカス。はよ行くぞ」
「いや、此処私の店なんですけど……」
「イヅナ様………」
疑問が解けてスッキリとした顔をしたイヅナは、まるで自分の店かのようにルーカスを連れて店の中に入って行く。その後ろには申し訳なさそうな顔をしながらツバキがいたという。
店に入ったイヅナたちは、ルーカスとの約束通り異世界製の布団とパジャマをルーカスに売り、そのお金で新しい服を買う事に。
代わりに買った服は、動きやすく丈夫そうで、まさしく女冒険者!といった服装である。本来なら慣れ親しんだ和服や巫女衣装の方が良かったが流石にここにはなかった。
和服などはどうやら王国の都市部に行かないと無いそうなのでいつかは行ってみようと思う二人であった。
ルーカスは買い取った布団とパジャマの買取金額を査定する為、店の奥に行っていたのだが、査定が終わったのかカウンターの方に戻ってくる。
「それで売ってもらった物は服の代金を抜いて大金貨3枚でどうですか」
「「大金貨3枚ッ!?」」
大金貨3枚といえばこの世界ではかなりの大金のはず、それほどまでに異世界の品は価値があるのだろうか。
確か馬車でなにやら布団についてルーカスが熱く語っていたが、二人は興味がなく全然聞いていなかった。
「やはり足りませんか? なら5枚でどうでしょうッ!!」
「「ご、ごご、5枚ッ!?」」
イヅナとツバキは驚きのあまり固まってしまい返事を出来なかった。
そのため値段に不満があると思われたのかルーカスはさらに値段を上げてきた。
流石にここでしっかり者のツバキも正気を取り戻した。
「ご、5枚でいいですッ!! いいですよねイヅナ様!!」
「う、うむ。……いいんじゃないかの」
イヅナは何か言いたげだったがツバキのあまりの迫力に曖昧に返事をする。
確かに高く売れた方がいいのだが、ここまで送ってきてもらったこともありツバキはあまり値段を釣り上げたくはなかった。
「ふぅーいや~、いい取引でした。この品は絶対に確保せねばと商人の感がささやくんですよ。やはり、貴重なものを買うのは気分が高揚しますね」
ルーカスはイヅナの神としての神聖な気を感じたのかもしれない。そしてルーカスから金色に輝く大きめの硬貨を5枚渡される。
きっとこの500円玉を一回り大きくした、これが大金貨なのだろう。豪華な剣を持った人物が胸の前に剣を掲げている絵が描かれているが、これがきっと召喚された勇者なのだろう。
買い物も一通り終えたツバキは次の行動に移す為、ルーカスから情報を貰うことに。
「聞きたいことがあるんですが、冒険者になるための場所とおすすめの宿を教えてくれませんか。あと出来れば安くて美味しい店などを教えてくれると大変助かります」
「あー、それなら冒険者ギルドだね。宿もギルド直営の宿に泊まるといいよ。そこで安くて美味いご飯も食べられる。確か場所は……」
そう言って近くにあった町全体の地図を見せてくれた。
四方に門があり、十字の形に大通りがある。ルーカスが言う冒険者ギルドは十字の大通りに面していた。
まぁ、分からなければ人に道を聞けばいいか。
「ありがとうございます。ほんとにお世話になりました」
「世話になったの」
「はいっ、珍しい物があったらまた持って来て下さいね。布製品限定ですがね」
ルーカスに別れを告げ、外に出る。陽はまだ出ているが後2~3時間もすれば次第に暮れるだろう。
急がねばと思ったイヅナたちであった。
お読みいただきありがとうございました。
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