第8話 ギルド不思議道具


 イヅナとツバキはルーカスに教えてもらった通り冒険者ギルドに向かう。

 ギルドは大通りに面しており治安も悪くない、それにかなりの賑わいを見せている。

 

 両扉を開いてギルドに入ってみると一階は酒場なのだろうか、入った瞬間微かにお酒の匂いを感じる。

 酒場といえば荒くれ者が昼間から騒いでいるイメージが強いがそんな事なく、今は清潔感のある食堂といった感じだ。


 おぉ、これが異世界の冒険者ギルドか……思ったより普通じゃの。人もそんなに居ないし、冒険者ってもしかして人気のない職業なのか?


 イヅナが冒険者の事を考えている内にツバキが先に奥の方に行ってしまう。


 昼食からそれなりに時間が経ち若干お腹は空いているのだが、食事はまず後にしてギルドのカウンターに向かう事に。


 カウンターはギルドに入ってすぐ目の前にあり、右側には様々な紙が貼り出されたボードのような物が置いてある。きっと、あれが依頼が張り出されものなのだろう。本題のカウンターはというと、5人は並べそうな場所があり、受付嬢と隔てるように柵が建てられている。


 二人が空いているカウンターに向かうと受付のお姉さんと思われる人がイヅナたちに優しく微笑んでくれた。


「こんにちは、依頼発注ですか?」


「いや違う。妾たちは冒険者登録をしたくて、ここに来た」


 イヅナが冒険者登録をしたいと言うと受付嬢は困ったように苦笑いをする。


 何か妾たちでは不都合があるのじゃろうか? ルーカスが言うには、冒険者は誰でもなれると聞いていたのじゃが。確かに妾たちの見た目は幼い子供に見えるだろうし、防具など着けていないから危ないかもしれないが。

 

「本当に登録するのですか? いくらこの町の依頼が簡単とは言っても、中には危ない依頼もあるんですよ。お二人共まだまだ若いんですから、今すぐ冒険者にならなくてもいいんでは無いですか」


 受付嬢は二人を心配していた様だ。

 なんとも優しいお姉さんなのだろうと感心する。


 しかし妾たちにできる仕事と言ったら冒険者ぐらいしかきっと無いじゃろう。この世界に帰る場所もなければ身元も詳しくは言えぬ、怪しい妾たちをどこが雇ってくれると言うのか。


「優しいお姉さんよ、心配しなくても良い。妾はこれでもそれなりに強いから大丈夫じゃ。ツバキも直接の戦闘は分からぬがサポートなどは出来る。それにいきなり外での依頼などせぬよ、最初はゆっくり町の中の依頼を受けるから安心せよ」


 心配そうな視線をイヅナたちに向けてくる受付嬢のお姉さんに、覚悟の決めた視線を返すイヅナたち。


 イヅナたちの目を見て受付嬢も決意が曲がらないと分かったからなのか、ため息を吐きながら了承してくれた。

 このお姉さんの不安そうな顔を見れば、妾たちを本当に心配してくれてるのが分かる。


「……分かりました。では冒険者登録すると言う事でよろしいですね。登録するのは後ろの方も含めてお二人でよろしいですか?」


「うむ」


「ギルド登録は初めてのようなので簡単にギルドについてお教えしますがよろしいですか?」


「「お願いします!」」




 ーー冒険者をするにあたっての禁則事項ルールーー


 1,冒険者ランクはE〜Sランクまであり、依頼は自身のランク以下までしか受けられない。


 2,依頼を失敗した場合、違約金を支払わなければいけない。5回、依頼の失敗を重ねるとギルドランクを一つ下げられる。一部例外有り


 3,冒険者同士の争いは基本禁止。ギルドを通して決闘という形を取る事。




「以上がギルドの規則といったところです。細かい部分は省きましたが分からないところがあればギルドの職員に声をおかけください」


 そう言って、受付のお姉さんは2枚の紙と羽ペンを取り出した。これは冒険者登録に必要な書類だそうだ。


 紙に書かれている項目は、名前、年齢、性別、得意な事、戦闘方法、希望する職業……



「この職業というのは何なのじゃ?」


「あっ!それはですね」


 早速分からないところがあったのでお姉さんに聞いてみると、依頼を受ける際モンスターと戦う場合があるので合同パーティーの時に参考にするため、どのように戦うのかを書くらしい。


 例えば、剣を持って戦う場合は〈剣士〉、魔法を使って戦う場合は得意な魔法〈〇魔法使い〉、戦闘だけでなく荷物運びの〈ポーター〉と言ったところ。


 分かりやすい説明を聞きイヅナは、魔法と剣を使う万能職、悪く言えば器用貧乏の〈魔法剣士〉、ツバキは結界などのサポートもできる〈サポーター〉ではなく槍を使って戦う戦闘職の〈槍士〉にすることにした。

 ツバキには『弓術』のスキルもあったのだが弓矢の代金がかなりかかると思い、今は槍を使うことにしたのだ。


 書類には他にも書く項目はあったのだが、必須ではなく書かなくてもいいらしいので必要事項だけを書き提出する。


 軽く一通り見た後、書類を受け取ったお姉さんは奥の方に素早く戻っていく。

 少しすると、手に一抱えはある水晶のような物を持って戻ってきた。若干汗をかいているがそんなにも水晶は重かったのだろうか? 


 それよりこの水晶じゃ! これはまさか、異世界ものでは定番のギルドに存在すると言われている不思議道具ではッ!


「ふぅ〜、これはですねギルドカード作成装置です!!」


 うぉおおーー! 来たのじゃーー!! まさか、まさか本当にあったとは異世界のギルドと言ったらギルドカードじゃろ! 登録する際に能力の高さでギルドにいる冒険者たちを騒がせるというお約束ッ!! まぁ、妾のレベルは1なんじゃが……


 イヅナの興奮をよそに水晶の設置を終えた受付のお姉さんは、着々と説明を始めた。若干イヅナの見る目が生暖かいのは気のせいだろうか?


「ではギルドカード登録の説明をさせていただきます。まず、この水晶に手をかざすと持ち主の魔力を記憶します。そのため遭難しても魔力を追って捜索することが出来るます。その為、冒険者はギルドカードの所持が義務付けられています」


 なるほどの、ギルドカードはGPS機能搭載のハイテクマシンじゃったか。異世界にも便利な機械はあるんもんじゃのぅ。


「そして、このギルドカードは身分を証明する際にも使われます。その為、紛失した場合は注意してくださいね」


 ギルドカードのしっかりした作りにイヅナが感心していると、登録の準備を終えたのか受付のお姉さんは順番に手を置いて登録してくださいとイヅナたちに促してくる。


 言われた通りにイヅナが水晶に手をかざすとぼわぁと水晶が緑色に淡く光る。

 これで魔力が登録されたのだろうか? そう思っていると、受付のお姉さんが緑の光が灯る水晶に白いカードをかざすと、なんと白いカードだったのが木を連想させる茶色のカードに変化した。


 どうやらこれで本当に登録完了のようじゃ? しかし、なんとも簡単なものじゃ。


 イヅナは茶色に変化したギルドカードをツバキより先に受け取る。渡されたカードを手で持ってみると思ったよりズッシリとしており、簡単には壊れなさそうでかなり頑丈だ。


 カードを観察している間に、先ほどの手順でツバキも登録を終え晴れて二人は身分がある冒険者となった。


「これで登録は完了です。もし紛失した場合にはギルドに報告し再発行となります。その際に銀貨5枚かかりますので注意してくださいね」


 軽く紛失した際の注意事項を説明し、これで無事に終わったかと思いきや…


「あっ! すいません、お二人に言い忘れていました。ギルドの登録料はお二人で銀貨2枚となります。お金はお持ちですか? 無ければギルドが建て替えしますよ」

 

 そう言うことは最初に言って欲しかったのじゃ。

 無料と思っていたら、後から金を取られると損した気持ちになる。


「これで本当に登録は完了です。これから依頼を受けていきますか? もし受けるならおすすめの依頼を紹介するのですが……」


「まだ宿も決まっておらぬからな。そうじゃギルド直営の宿があるんじゃろ。そこは空いておらぬのか? 安くて美味い飯が食べられると聞いたんじゃが」


 ルーカスに教えてもらったおすすめの宿は、ギルドが経営している宿、冒険者ギルドの職員に聞けば空いているかどうかは分かるだろう。そう思いイヅナが聞いてみると。


「えぇ、今日は空いてますよ。初心者の人にも優しいお値段で泊まれます。まぁ、寝るところは狭いんですが」


 聞けばその宿はギルド直営の宿で冒険者ギルドからお金が出されてる為、初心者が格安で泊まれるらしい。他にも宿で世話になった冒険者などが差し入れなどをしてくれ料理も量がかなり多いと言う。


 初心者が中堅になって、ベテランになっていく。

 過去のお礼に差し入れを入れてまた初心者の子が助かる。 それが巡り巡って次の世代へと受け継がれていく。


 なんとも良いシステムじゃ……




 お読みいただきありがとうございました。


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