第11話 一つのベッドで


 夕食を食べ終わり、すぐ部屋には戻らず温かいミルクを飲みながらホッと一息つく。


 先ほどから自分の席には戻らず、イヅナたちに街のことを話してくれていたガンツがお酒のような物を飲みながらイヅナたちに話しかけてる。微かに蜂蜜のような匂いを感じることからミードと呼ばれるお酒だろうか?


 イヅナが異世界の酒を羨ましそうに見ながら話を聞いていると、お酒で少し顔を赤らめたガンツが料理の感想を求めてくる。イカつい男の赤らめた顔より、可憐な美女の酔った姿を見たいと思ったのはイヅナだけだろうか……


 そんなことより個々の料理のことだ。

 

「っで、どうだったよここの飯は」


「うむ、大変美味しかった。これで銅貨5枚は安すぎるくらいじゃ」


「はい、私も大変美味しくいただきました」


 本当にここの料理は、嘘偽りなく美味しかった。

 初めは格安だからそこまで美味くはないと思ったが、銅貨5枚とは思えないほどの味だった。

 これから毎日ここの料理が食べれるかと思うと異世界でも頑張れると言うものじゃ。


 イヅナたちの美味しいという返答に、ガンツはまるで自分のことのように嬉しそうな顔で頷いている。

 料理を作った本人ではないというのに、なぜここまで嬉しそうなのじゃろか? もしやっ! ガンツこそがミーナの父親ということか!? ……いやそれはないな。


 そんなくだらないことを考えていると、ガンツが意味深なことを言いだす。


「そうかそうか、それは良かった。俺も狩ってきた甲斐があるってもんだ」


「ん? それはどう言うことじゃ?」


 不思議そうに首を傾げるイヅナ。


「ん? それはなさっきウサギの肉を食っただろ。それは俺が依頼の帰りがてら取ってきた奴だ。比較的簡単に取れる奴だからなよく取ってきてここに持って来るんだよ」


「なんと!?」


 さっき食べた美味しいウサギ肉はガンツがとってきた物らしい。たまに、この宿に自分の分と宿に泊まった人たちの分を差し入れてくれるという。


 しかし肉をとって来るとは、ガンツはよく解っておる。やはり肉だ! 肉こそが一番元気が出る! 肉を食って力をつけるのが一番良いのじゃ!


「なんともありがたい事じゃ、拝んでおくか、ありがたやーありがたやー」


「ははは、照れるじゃねーか」


 ガンツは褒められるのは慣れていないだろうか照れ臭そうに自分のツルツルの頭を撫でる。恥ずかしくなったのか、席を立ち上がりそのまま帰ろうとする。


「まぁ、これからも頑張ってくれや」


 そう言うと手を振りながら、外に出ていった。決して後ろは振り返らず、その見事な背中を見せながら。


 ガンツ最後までいい男じゃった。


 ガンツが帰ったのを皮切りに、そろそろ自分たちも部屋に戻ろうとする。その時、通りかかったミーナに料理の感想を言う。

 

「ご飯美味かったぞミーナよ」


「本当に美味しかったです」


「ありがとねー、お父さんにも伝えておくよ」


 感想を言った時のミーナの顔は本当に嬉しそうな顔をしていた。料理の感想を言い終えた二人は自分の部屋に戻って

いく。




「はぁ〜、美味かったのじゃ」


「本当ですね」


 満腹になったイヅナは既にベッドで横になっており、ぽっこり膨らんだお腹を休める。

 ベッドに横になったイヅナは、目が今にも閉じそうになっており今にも眠りそうだった。


「ちょっとイヅナ様、まだ寝ないでくださいよ。これからすることが残っているんですから」


「んー、何かあったかのぅ?」


 返事も曖昧になっていき、今の眠りかけたイヅナの脳は半分も機能していない。驚きの連続で疲れたのもあるのだろうが、一番の原因は小さくなってしまった身体だろうか、小さい子供の身体はご飯を食べて既に寝る準備に入っていた。


「本当に心当たりはないんですか? はぁー、これからの生活のことを考えないといけないじゃないですか」


 呆れたように言うツバキの話を聞いたイヅナは、大事なことなのでまだ眠そうな顔をしているがゆっくりとベッドに座るように体勢を変える。



 話し合った結果、イヅナとツバキはこれからの異世界生活について、ひとまず目標を立てる事にした。


「私達の目標は元の世界に戻ること。そして、この世界で生き抜くために強くなること。お金についてはギルドで依頼を受ければいいとして、情報を集める方法を探さないと」


「ん〜」


 お金はルーカスに売った服の代金があるが使えばいつかは無くなってしまう。まずはお金を稼がない事には何も始められない。


「…………ん? ちょっと待て、ツバキや」


 さっきまでは眠そうな顔をしていたのに、大事な事を思い出したのかさっきの眠そうな顔はどこへやら真剣な顔つきに変わる。


「なんですかイヅナ様?」


「もう一つ大事なことが残っておるじゃろ」


「何かありましたっけ?」


 ツバキはキョトンとした顔をしており、なんの心当たりもないと言う感じだ。さっきとは状況とは真逆だ。


「妾の体を元に戻すのもあるじゃろ!」


「あっ……!」


 どうやら本当に忘れていたようだ。


「でも、今のイヅナ様も小さい体で愛嬌があっていいと思いますけどね」


「えへへ、そうかの〜。それならいいか……って違う。この体を見よッ! 全体的に縮んだ体、少なくなってしまった九本の尾、これでは威厳も何も無いではないか!!」


 怒った風に言うが今の姿のイヅナでは全く怖くない、逆に駄々をこねる幼女のようで愛らしさを感じるほどだ。やっぱり戻らなくてもいいのではないかとツバキであった。


「ふぁーー、その話はまた今度にして、もう寝ましょうよ。私も流石に色々ありすぎて眠くなってきました」


 ツバキは用意されていたベッドに潜り込む。なんだかんだしっかりしたツバキも流石に眠くなっているようだ。


「って話を聞けー!」


 そう言いながらツバキと一緒のベッドに潜り込む。その行動に呆れながらもイヅナの寝る場所をしっかりと開けるツバキ。

 

 なぜ素直にツバキが場所を明け渡したかと言うと、ツバキはイヅナの尻尾をもふもふしながら寝るのが前の世界からのお気に入りだからだ。そのため尻尾の変化には本人以上に敏感だった。


「イヅナ様の尻尾のふんわり感が少なくなりましたね。もしかして思った以上に疲れていますか? 九本の時の抱き締められないほどのふんわり感も良かったですが、今の収まりきる尻尾も……ん? イヅナ様?」


 反応がないのを不思議に思ったのかイヅナの方を見てみると、もう既に眠りについていた。


「おやすみなさい、イヅナ様」


 その日、イヅナとツバキは一つのベッドでお互いを温め合うように眠りについた。




 お読みいただきありがとうございました。


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