第10話 異世界の飯は美味い!
時間も丁度いいので二人は夕食を食べる為、一階にある食堂に向かう。
二人が階段を降りると、厨房と思われる場所からお肉の焼けるいい匂いが食堂に漂っていた。どうやら夕食には期待できそうだと思っていると、イヅナたちを見つけた看板娘ミーナが目の前にやってくる。
「ちょうど降りてきたんだね。もうすぐ出来るから適当に座って待っててね。ウチの宿にメニューは無いから、その日に決まった物しか食べられないけど、二人は食べられないものとかない?」
「うむ、妾とツバキに食べれないものは無いから大丈夫じゃよ。ところで聞いていいかのぅ?」
「どうしたの?」
「そのじゃな……今日の夕食はなんなのか気になって仕方がないのじゃ!! こんなにいい匂いさせておいてなんとけしからん!」
イヅナは瞳をキラキラさせながら、今日の夕食について想いをはせていた。さながら、母親に夕食を聞いている幼子のようだ。
ツバキも冷静を装っているが微かに頬が上がっており楽しみにしている事を隠せていない。
二人の様子を微笑ましく思いながらミーナが夕食について教えてくれる。
「はははっ、そうだよね。いい匂いだから気になるよね。今日はね……プチラビットの香草焼きに野菜たっぷり特製スープだよ。実は私も楽しみにしてたんだ。プチラビットの香草焼きは、あたしの大好物でもあるからね」
味を想像しているのかミーナは顔をゆるゆるに緩ませながら今日のメニューを教えてくれる。それ程までに上手いのかと二人はごくっと唾を飲み込む。
夕食のプチラビットとは異世界の肉か、普通のウサギのような味なのか、もしくは異世界ならではの特別な味なのか、どんな味か想像もつかん。
ご飯を楽しみに待ちながら適当にその辺りの椅子に座る。二人以外にも椅子に座り夕食を待っている人がおり、パーティーでも組んでいるのか数人で固まって楽しくお喋りをしている。
その中には、明らかに初心者っぽくない人もいるが、この宿はご飯だけでも売っているのだろうか?
しばらくツバキと話して時間を潰しているとミーナが大人になったらこんな感じと思われる人が待ちに待った料理を運んできた。年齢は30代ぐらいだろうか? 恐らくミーナの母親でこの宿の女将なのだろう。
女将さんがドンッと目の前にウサギの肉と思われるものと、深皿に野菜がゴロゴロと入った透明感のある茶色のスープが置いてくれる。置かれた料理からは、食欲を増進させるスパイシーな香りが漂ってくる。
「はいお待ち、プチラビットの香草焼きと野菜たっぷり特製スープだよ。パンはお代わり自由だから何個食べてもいいよ」
「うぉおおおお〜、すごく美味そうじゃ」
「本当ですね、これだけでもこの宿に来てよかったと思えます」
「嬉しいこと言ってくれるね〜。料理を作ってる旦那にも言っておくよ」
二人が料理について褒めると嬉しそうにミーナの母?は頬をかく。その照れた姿は歳に反して可愛らしく感じる、何も知らずに20代と言っても気づかれないだろう。
「それより、さっきから気になっておったが……もしやお主はミーナの母上殿か?」
「えぇ、そうだよ。あたいはミーナの母親のサーシャって言うんだよろしくな!」
男勝りな口調で名前を教えてくれるサーシャ。看板娘ミーナの明るい性格は恐らく母親譲りなのだろう。
「それより、あんたたちミーナと仲良くしてくれてありがとね。この辺りには同年代の友達が少ないからね。ご飯は大盛りにしておいたから、これからもミーナを宜しくね」
「うむ! 任せておくのじゃ」
サーシャのお願いに笑顔で答えるイヅナ。後ろの方でミーナが嬉しそうに笑っているのを母親だけは見逃さなかった。
そして、いよいよ待ちに待った時が来た。
あまりの期待にイヅナの尻尾が制御不能に陥りブンブンと激しく揺れる。その様子は、まるでご飯の前に待てをされた犬のようだった。狐だが。
「では早速」
「「いただきます!」」
「う、うまぁあああああーーッ!!」
「ほんとッ! このお肉、美味しいです!!」
早速とばかり、美味しそうな香りを発していた肉にかぶり付く。
「………う、うまぁあああああーーッ!!」
「ほんとッ! このお肉、美味しいです!!」
パリパリの皮、溢れ出す肉汁、鼻を突き抜ける香草のスパイシーな香り、噛むたびに口一杯に幸せの味が広がる。ここでお米でも有れば完璧だったのだが、無いものは仕方がない。今はこの幸せを噛み締めよう。
次に野菜がたっぷりと入ったスープに手を伸ばす。
トロトロに煮込まれた野菜がゴロゴロ入っており、大変食べ応えがありそうだ。熱々のスープをふぅーふぅーと息を吹いてから充分に冷まし口に頬張る。口に入れた瞬間、よく煮込まれた野菜はスープをよく吸っており、柔らかくほろほろと舌の上で崩れていく。
「こっちのスープもうまぁ〜!」
「スープがよく染みていて美味しいですね。それにスープには、野菜の旨味がよく出てます。これなら小さな子供でも食べれそうですね」
スープも肉も両方とも美味しく異世界の食事も悪くない、唯一の不満があるとすれば無料の黒パンが少し固かったと言うところだろうか。
夢中になって料理を食べていると、イヅナたちのテーブルに誰かが近づいてきた。
「よぉ、新人さんたち」
二人が声を掛けられた方を向くと、そこにはスキンヘッドの頭、筋肉の鎧に包まれた頑強な肉体、目元には一本の傷跡が付いたイカつい男がいた。
突然の男の登場にイヅナたちは目を丸くする。
そして、瞬時にイヅナの脳裏にある展開が駆け巡る。
これは、まさかテンプレ的あの展開か!!
冒険者ギルドでは何も起きないと思ったら、まさかこんな所でテンプレが起きるとは……。やはり異世界物の定番と言ったらこれじゃろ! 荒くれが文句を付けてきた所、それを見事に返り討ちにする。これぞ異世界のテンプレ!
目を丸くしているツバキをよそに、イヅナがそんなことを考えていると、話しかけてきたイカつい男が近くの椅子に座り話し始めた。
「お前たち、今日この町に今日来たばかりだろ。見ればわかるぜ田舎から出てきて目新しいものに目を輝かせてやがる」
中々的を得た発言をするイカつい男。だが訂正するとしたら田舎からではなく異世界からだが、概ねあっている。
男がニヤつきながら続きを話す。
「なぁ、新人さんなら……分かっているよな」
「ま、まさか! 妾たちを手篭めにしようとしているのか! だがそうはさせぬぞ。なぜかって、それは……」
「何言ってんだ、お前?」
「へっ?」
そんなやり取りをしていると、イヅナたちのテーブルにミーナがやってきた。
こちらに来たミーナの顔をよく見てみると何がおかしいのかクスクスと笑っている。この状況を楽しんでるような笑いだ。
「ははは、違う違うイヅナちゃん。この人はガンツさんって言って、よく宿に差し入れをしてくれる人なんだよ。顔はこんなのでもこの街じゃみんなのアニキって二つ名で有名なんだよ」
「……なん……じゃ…と…」
確かによくよく見てみれば優しそ……って見えんわ! どう見ても支援する側じゃなくて略奪する側にしか見えんわ!! ヒャッハーとか言いながら、町を襲撃する顔じゃろ!
「おいおい勘弁してくれよミーナちゃん。こんなのは無いだろう、こんなのは。一応、これでもCランクの冒険者なんだぜ」
ガンツは困ったように苦笑いをする。
「お主、本当は盗賊の頭とかではないか!?」
「ちょっとイヅナ様、失礼ですよ!」
「はははッ、冗談はよしてくれよ。俺はこれでもれっきとした冒険者なんだぜ、ほらっ」
そう言ってガンツは首元から銅色に輝くギルドカードを見せてくれた。
冒険者のランクはギルドカードの色で分かると、ギルドの受付嬢マリーがさっき教えてくれた。
上から順に白金、金、銀、銅、鉄、木、となっている。
銅のギルドカードという事は正真正銘Cランクの冒険者、ベテランの冒険者と言うことだ。
「なんと!? 本当に冒険者だったとは、これは申し訳ない事を言った。まさか妾たちの先輩じゃったとは」
「はははッ、気にするな、いつものことだ。俺のことを初めて見たやつは大体そんな反応をするからな。慣れてるよ」
イヅナの失礼な発言も気にすることなく楽しげに笑うガンツ。なんとも懐の深い男じゃ………二つ名がアニキと言われるだけのことはある。
お読みいただきありがとうございました。
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