アイドル魂

そしたら、愛ちゃんは、いきなりステージ上で

「よしっ!」

って気合いを入れていた。

客席から見てても、わかったから

「あっ!なんだか気合いを入れたぞ!なんだなんだ?」

っていうふうに思った。


そして1人でステージ中央の前に歩いてきて、マイクを持って語りはじめた。

この部分だけは、いつものライブとは、明らかに違っている。

いつもだと、やはりライブの途中にトークとかも入るけど、その時も、何か面白いことを言って笑わせたり、あとは今後のイベントやライブなどの日程のお知らせをキャプテンとして言ったりしている感じ。


でも、この時は、今後の活動の日程を言ってるわけでもないし、また、メンバーみんなで、ふざけたことを言ったり、やったりして笑わせてるわけでもない。


「アイドルグループとしての魂は、今日で、みんなバラバラに散っていくけれど、いつか、そのバラバラになった魂をまた1つに集めたいっ!」

みたいなことをしっかりと語っている。

キャプテンとして。


この部分だけは、いつものライブとは、明らかに違ってる部分だった。

いつもは、こんなこと言わないから。


ああ、やっぱりラストライブなんだなあ~って思った。

それまでは、もしかしたら、ラストではないかも...また、ライブやるのかも...っていうふうに思いながら、ライブを観ていた。


この愛ちゃんの語りのあと、ライブは一気にエンディングに向かって、突き進んで行っていた。


このアイドルグループの曲の中で、唯一、ファンのことを語っていない曲あって、わたしは、この曲だけはラストにしてほしくなかった。

「バチェロレッテは終わらない」

って曲で、唯一、この曲は、メンバーのつながりは終わらないとは歌っているものの、ファンへの気持ちとかは全く歌われていない。


そしたら、最後はこの曲だった。

この曲で、メンバーみんな、ステージの奥に消えていく演出だった。

わたしは

「そんなに、うまく、まとめなくっても良いんだよ~っ!」

って思った。

「最後の最後に、そんなに、きっちり、きれいに終わらせて消えていかなくても良いんだよ~っ!」

って思った。


この曲のあとに

「じゃあね!」

って曲を持ってきて、それで終わってくれて良いんだよ~っ!って思っていた。


ラストの、メンバーみんな、ステージの奥に消えていく演出よりも、このラストライブで最も印象的で、最も感動的だったのは、やはり愛ちゃんの語りの部分だ。

今日でバラバラになってしまうアイドル魂をいつか、また、もう1度ひとつに集めたいっ!っていう語りの部分。


この語りこそ、ラストライブを最も象徴していたし、ラストライブであることの証しだった。

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