第7話

 城での晩餐会が終わり、俺とサロリアは家路についていた。日のある間は溢れんばかりに人が混みあっている王都も、夜になると出歩いている人間は少ない。

 街路を照らす明かりは道の両端に点々と設置された街灯のみである。この街灯は、夜間の巡廻をしている王国の兵士によって定期的に火が点けられ、一晩中明かりを維持している。そのため、街には暗闇が訪れる事はない。

 以前、何故このような大多数の国民が眠っている時間に街路を照らす必要があるのか疑問に思い、父さんに訊いた事がある。

 その時の答えはこうだ。

 『いくら平和な街とはいえ、悪事を働こうとする者は必ずいる。人ではない大きな脅威に存在を脅かされている現状でさえ、同じ人間であり、仲間であるはずの者を出し抜いて、自分だけ得をすればそれで良いと思う奴がいるんだよ。だからこそ、こういった対策を講じなければならない。厳重な警備を外からの脅威ではなく、内側に潜む脅威のためだけに敷かなければいけないのは、王にとっても苦い決断だっただろうな』

 父さんに訊くまで知らなかった。平和な王都の裏の顔。

 魔王という外部の脅威が存在する今、街に住む人間同士でくだらない争いをしている場合ではない事は、どれほど無能な人間にも理解できるはずだ。

 けれども、街の中だけでの問題。味方同士の間で起きる問題は後を絶たない。

 ただ、最近は事件の件数は大幅な減少傾向にある。国王によって兵士達に下された夜間巡廻令が功を奏したようだ。

 俺が幼い頃は両親によって夜間の外出を堅く禁じられていたため、巡廻令が発令される以前の話は噂でしか聞いた事はないが、どうやら凶悪な事件も多数発生したらしい。中でも、もっとも凶悪だったのが、王都に住んでいた六人組の男性による、“レピドゥス一家皆殺し事件”である。被害にあったのは、同じく王都に住んでいた三人組の家族。六人の男性によって家族全員の命が奪われ、家族の住んでいた家には火が点けられて遺体ごと全焼したとされている。この事件のもっとも悪質な要素とされたのは、殺害手段の残虐性ではなく。殺害に及んだ動機である。六人の男達が犯行に至った理由は、被害者家族に対する憎悪からではなく、『人を殺してみたかった』『イライラしていたので、憂さ晴らしにやった』などの好奇心やストレス解消といった日常的に抱く感情の延長線上にあった。

 当然、国王はこれを裁く必要があった。しかし、国民に甘い国王は六人の男達を死罪にするのではなく、城の地下牢に幽閉するのみとした。

 ところが、この六人の男達が牢屋に入って数日後、全員が何者かによって殺害されたらしい。これは、俺が偶然父さんから聞いた話であり、街に住む多くの人間は知らない真実だ。

 いったい、あれは誰による犯行なのか……。

 そんな事を考えながら、隣に並んでいるサロリアと言葉も交わさず、けれども気まずいわけではなく、心地の良い静寂に包まれながら微かな明かりの照らす街路を歩いていた。

 明日の朝には、この王都を旅立つ事になる。

 「夜の王都も、これで見納めだな」

 誰に向けるわけでもなく呟いた言葉に、同じく誰に向けるわけでもない呟きが続いた。

 「私は、一年という短い時間しか過ごしていませんが、この街には多くの想い出ができました。感慨深いですね。このような感情は初めて抱きました。それとレン――」

 呟きは、俺へと語りかける言葉へと変化した。

 「見納めではありません。レンは必ずここに戻ってくるのです。決死の覚悟で挑む事は大事ですが、生きて帰還する事も重大な使命です」

 「もちろん、死ぬつもりはない。だけど、父さんを殺せる程の相手だ。無事に帰れる確証なんてないだろう。命と引き換えに魔王を殺せるならば、父さんの仇を討てるのならば、死んでしまっても悔いは無い」

 「勇者としては立派な考えだと思います。ですが、レン自身の考え――勇者ではなく、この世界に生きる一人の人間としても、同じような考えなのですか? まだ、やり残した事がたくさんあるでしょう?」

 「俺は、この世界に勇者の息子として生まれたんだ。その役目が果たせるなら悔いは無い。勇者としての使命を果たし、必要とあらば勇者として死んでいく。それだけだ。サロリアには感謝しているよ。俺が勇者として戦う事ができるのはサロリアのおかげに他ならない。これで、父さんに恥じる事なく生きていける。……いや、だめかな。まずはサロリアより強くならないと、父さんは認めてくれないかもしれない」

 魔王討伐に俺を連れていくと言ったのはサロリアだ。彼女がどういう経緯でその考えに至ったのか知らないが、言い出したのは彼女だ。俺としては嬉しい提案だったが、同時に俺の命を危険に晒す事に対して、負い目を感じているんだろう。

 だから本当に感謝していると伝えたのだが、サロリアは浮かない顔をしていた。

 「そうですね。まずは私より強くなってください。でなければ、魔王を倒す事など、到底不可能だと思いますので」

 その言葉には、妙な真実味があった。嘘や偽りのないであろう言葉。魔王の力量を知る人間など、誰一人として生き残っていないはずなのに、サロリアは真実を言っているように思えた。

 ――もしかすると、サロリアは魔王の正体を知っているのかもしれない。

 俺がサロリアについて知っている事といえば、幼い頃に母親を亡くした事と王都へ来る前は遠い場所にある小さな町で暮らしていた事。それと、武術を父親から教わった事くらいである。

 「もしかして、サロリアは魔王に会った事があるのか?」

 「それは――話す時がきたら、必ず話します。ですから、今は訊かないでいただけますか」

 サロリアの言葉は、肯定を表していた。会った事があるのだ、魔王に。ならば正体についても知っているはずだ。しかしそれが話せないとはどういう事だ。

 彼女はいったい――。

 いや、やめよう。サロリアが話してくれる時まで、余計な事は考えないようにしよう。それに、確証を得る事ができた。魔王の実力を知っているであろうサロリアが『私より強くなれ』と言うならば、俺はもっと強くなる必要があるのだろう。

 それからまた、沈黙が訪れた。今度の沈黙は少し気まずいものであったが、特に喋る事もなく、家に着くまで二人とも黙っていた。

 

 窓から差し込んだ朝日によって、半ば強制的に起きた。この街で迎えるのは最後になるかもしれない朝。差し込んだ陽光に手をかざすと、心地の良い暖かさを感じた。天も、旅立ちを祝ってくれているようだ。

 立ち上がり、自分の寝室を後にしてそのまま廊下へ出る。俺の部屋の対面に位置するサロリアの部屋はまだ閉まったままだ。彼女は部屋の外にいる時は必ず自室の扉を開けているので、どうやらまだ起床していないようだ。

 視線を廊下に面している階段へ向けると、足下で木材の軋む音を立てながら一段、また一段と下りていく。すると、何やら物音が聞こえてきた。一階まで下りると、物音の聞こえる食卓へと向かった。

 朝食が母さんの手によって運ばれ、机の上に並べられる。しかし、依然としてサロリアが降りてくる様子はない。普段ならば、真っ先に起きて武具の手入れや家事の手伝いをしているのだから、旅立ちの日に限って起きるのが遅いというのは考え難い。

 不安に思っているのは母さんも同じらしく、「様子を見に行ってくれる?」と命令され、先程下りたばかりの階段を再び上る羽目になった。

 不安があった。まさかとは思うが、一人で行ってしまったのかもしれない。けれども二人で行こうと言ったのはサロリアだ。それはありえない。ありえないはずだが、それにしては様子がおかしい。やはり行ってしまったんだろうか。しかし――

 気づけば、サロリアの部屋の前に立っていた。

 「サロリア、入ってもいいか?」

 「ええ、構いませんよ」

 どうやら杞憂だったようだ。胸を撫で下ろし、俺はゆっくりと扉を開けた。

 部屋の様子は、昨日までの状態と大きく異なっていた。既にサロリアの私物は一切存在せず、隅々まで綺麗に片付けられている。それは、父さんが亡くなった知らせが届き、部屋の整理を行なった直後と同じような状態――サロリアと出会うより以前の状態が復元されていた。

 「部屋の掃除をしていたから下りてこなかったのか。母さんが心配していたよ」

 「それは申し訳ない事をしました。この部屋を元の状態に戻そうと思い、掃除をしながら整理していたのですが、少々時間を要してしまったみたいですね」

 「何もここまで綺麗にしなくても良かったんじゃないか? 魔王を倒して、ここへまた戻ってくるんだろう? これでは戻ってくる気がないみたいじゃないか」

 「……私は、戦いが終わったら故郷に帰ろうと思っています。ですから、この部屋を使う事は二度と無いでしょう。故に、こうして私が来る前と変わらない状態に戻しておきました」

 「……そうか」

 故郷に帰るというのは初耳だ。この一年間、当たり前のように毎日を共に過ごしていたサロリアがいなくなるのは非常に寂しいが、彼女が決めた事ならば、俺に止める権利なんてない。そういう理由があるならば、入念な掃除をしていた事も頷ける。

 「それよりレン。私の部屋までわざわざ来たという事は、何か理由があるのでしょう?」

 「ああ、朝食ができたから早く下りてこいって言うつもりだったんだ」

 「そうでしたか。エニル殿の手料理も今日で最後ですね。早速下りて頂きましょう」

 それから、母さんとサロリア、俺の三人で朝食を摂った。


 三人で食べる最後の朝食を終えると、母さんは「渡す物がある」と言って食器を片付けると、早々に食卓を出て行った。

 暫しの間待っていると、両手で何かが包まれた布を抱えて戻ってきた。その上には折り畳まれた紙が添えられている。

 「これはサイが街を出て行く前夜に私に託した手紙よ。これを渡す時、サイは『次の勇者が誕生したら渡してほしい。それが俺からお前への最後の頼み事だ』と言ってたわ。きっと、レンに宛てた手紙だと思うけど、結果として勇者になったのはサロリアなんだから、手紙は貴方が読むといいわ」

 手に持っていた物を地面に置き、添えられていた手紙を手に取ると、母さんはそれをサロリアへ差し出した。

 「良いのですか? これはレンに宛てた手紙ですよね? 私が読むべきではないと思うのですが……」

 「構わないわ。それにサイはレンに宛てた手紙だとは明言しなかったわ。もしかすると、最初からサロリア宛てに書いた手紙かもしれないわよ?」

 「さすがに、それはないと思いますが……」

 手紙を手にしたまま硬直しているサロリアが、申し訳なさそうな顔で俺を一瞥した。

 「いや……」「ですが……」などと独り言を漏らしながらちらちらと俺の様子を探るサロリアには依然として手紙を読み始める様子はなく、このままではいつまで経っても出発できない気がしてきた。

 ――何故そんなに躊躇うのだ。

 このままでは埒が明かない。

 「俺は後から読ませてもらうから、遠慮せず読みなよ」

 「そ、そうですか。わかりました。では、失礼します」

 頬を赤く染め、照れた様子のサロリアが折り畳まれた手紙を開く。その様子を、俺と母さんは黙って見守った。

 手紙を開いた直後、サロリアの表情は真剣なものへと変わった。

 やがて、視線を手紙に落としていたサロリアが顔を上げ、微かな笑みを浮かべながら俺を見据え、手に持っていた手紙を開いたままの状態で差し出した。

 俺は無言でそれを受け取り、視線を落として中身に目を通した。

 それは、手紙と呼ぶにはあまりに短い文章だった。

 <この剣を、貴殿に託す>

 「……この世界には、剣にまつわる逸話があるわ。長年使い続けた剣には持ち手の想いが乗り移り、その剣の使い手に助力するという逸話がね。サイは、魔王を討伐するためにはこの初代勇者・シンの使っていた剣が必要不可欠だと言っていたわ」

 母さんは穏やかな優しい口調で、しかし悲しげな顔を浮かべながら聞いた事の無い逸話とやらを教えてくれた。

 ――では、何故――

 「その話は私も知っております。レンが急速に剣の腕前を上げる事ができたのは恐らくサイ殿の剣に込められた想いの助力による効果と、レン自身の強さへの切望が剣に宿ったからだと私は考えております」

 ――そうだったのか。

 「ですが、どうしてサイ殿は魔王討伐に必要である初代勇者の剣を持って行かなかったのでしょうか?」

 「私にもわからないわ。ただ、王都を旅立つ日の朝、サイは私に永遠の別れを告げたわ。きっと、旅立つ前から敗北する事を知っていたのかもしれないわね」

 父さんは、自分が魔王に敗れると、殺されると理解して旅立ったのか。けれど、どうして自分の力が魔王に劣っていると理解できたのだろう。

 「そうですね……。今の魔王は二代目です。そして、サイ殿も二代目の勇者でした。初代の勇者と魔王は引き分けたと伝えられていますから、確実に魔王を葬るため、自らが犠牲となって三代目の勇者に全てを託そうとしたのかもしれません」

 ――ならば――

 「父さんの意志は受け継ぐ。俺は、この手で魔王を倒してみせる」

 「私も勇者と呼ばれる身となった以上、全身全霊を賭けて魔王討伐に挑みます。……エニル殿、初代勇者の剣を見せて頂いてもよろしいですか?」

 母さんは俺とサロリアの言葉を聞くと、床に置いていた布を拾い上げ、それをサロリアに渡した。

 受け取ったサロリアが布の先端を捲る。すると、少し錆の付いた鉄製の剣の柄が姿を現し、その柄を握った彼女は残りの布を一気に捲った。

 布に覆われていた部分から全容を現したのは、同じく錆び付いた鞘だった。その鞘をもう片方の手で握り、納められていた刃を引き抜くと、刃にも所々に錆が付いている事が分かった。

 こんな物が本当に役に立つのだろうか。どう見ても使い物にならないと思うのだが。

 剣を凝視していたサロリアが錆び付いた刃を鞘に納め、俺の顔を見つめた。

 「レン、この剣、私が持っていても構わないでしょうか?」

 「あ、ああ。構わないけど……」

 ――構わないが、それは本当に必要なのか。

 父さんの言葉を疑いたくはないが、この剣はどう考えても実用には向いていない。庭に生えた雑草すら刈れるか心配な程だ。

 「ありがとうございます。感謝いたします」

 けれどもサロリアは、俺の心配は他所に満足そうな笑みを浮かべながら剣を深く握りしめていた。

 

 出発の準備を終えた俺は、一足先に玄関でサロリアが来るのを待っている。俺が先に準備を終えたのは、単純に持ち物が少ないからだ。

 持ち物はたった二つ。一つは布で作られた小さな袋。これは食料と飲料を保管しておくための入れ物だ。今は一日分の食料と水が入っている。一日もあれば隣の村へ到着できる予定のため、持って行く量は必要最低限とした。

 もう一つは、腰に巻いた帯に括り付けた長剣。紅蓮の模様が彩られた亡き父親の剣を腰に携えた。

 他にも非常食や代えの服を持っていこうとも考えたが、魔者と遭遇した時の状況を想定し、咄嗟に動けるよう片手で持てるだけの荷物とした。非常食は必要となる事態に陥らなければ不要であるし、服については立ち寄る村で着替えればいい。

 「お待たせしました、レン」

 サロリアが玄関に姿を現し、その後ろから母さんも顔を出した。サロリアの持った荷物も少なかったが、俺よりはほんの少しだけ量が多い。

 サロリアの持ち物は三つ。一つ目は、俺の持っている物と同じ布袋。中身については確認していないので定かではないが、恐らくは最低限の飲食物だろう。

 二つ目は、サロリアが最も得意とする武器である、普段から愛用している長槍。その全長は彼女の身長より長く、銅で造られた柄の先端にある穂先は、錆を防ぐために長槍用の鞘に納められている。

 三つ目は、初代勇者の剣。この錆び付いた剣は、俺と同じように、サロリアの腰に携えられていた。

 「さて、それじゃあ行くとしよう。街のみんなをこれ以上待たせるわけにもいかないしな」

 「ええ、そうですね」

 サロリアが首肯してみせた。どうやら、彼女もこの“音”に気づいたらしい。

 玄関に備え付けられている扉の向こう側からは、既に大きな歓声が聞こえていた。一年前と同じように、王都に住む人々が勇者の旅立ちを祝福してくれるようだ。

 扉に手をかけ、家の外へと一歩踏み出そうとした時、背後で母さんの声が響いた。

 「少し待ちなさい、レン」

 「どうしたんだ? 母さん」

 「一つだけ言っておきたい事があるわ。これは、父の言葉ではなく、貴方の母としての、私自身の言葉よ。――レン、たとえどんな結果になろうと、貴方は貴方の為すべきだと思う事を行いなさい。勇者としてではなく、貴方として」

 その言葉に、素直に頷けなかった。

 勇者として為すべき事は、当然魔王を倒す事だ。それは明確な事実だけれど、俺自身が為したい事とは何だろうか。昨日サロリアに言った通り、俺自身の願いもまた、この手で魔王の首を討ち取る事なのだろうか。

 ――俺は、どうしたいんだろうか。

 「別に何か答える必要はないわ。ただ、心の内に秘めておいて。そうすれば、いざと言う時に自分が何をするべきなのか、旅の途中で分かるかもしれないわ」

 「わかったよ。ありがとう、母さん」

 母さんは口元に小さな笑みを浮かべた。

 「サイには一年前の旅立ちの折、今生の別れを告げたけれど、レンには告げる必要ないわよね。サロリアと一緒なら、必ず魔王討伐をやり遂げる事ができると信じているわ。……レン、そしてサロリア。貴方達二人がこの街に帰還する事を願っています。行ってらっしゃい」

 「感謝します、エニル殿」

 「行ってくるよ、母さん」

 玄関の扉に再び手をかけ、静かに開くと、扉と壁の隙間から暖かな日差しと共に俺達の旅立ちを祝福する声が響いてきた。

 扉が完全に開いて、正面の街路を確認すると沿道には観衆が溢れていた。けれども、俺達が通るための空間はしっかり確保されている。

 周囲の歓声に時折答えながら、俺とサロリアは、その空間を悠々と歩いてゆく。しばらく進むと、正門が見えてきた。正門の前にも、多くの人々がつめかけているようだ。

 更に歩みを続けて正門に接近すると、今度は兵士の大きな声が周囲に響いた。

 「開門!」

 その号令に従い、鉄製の扉が黄土色の壁を擦りながら開いていく。同時に、鉛色の鎧と兜を身につけた兵士達が何人も集まり、正門の両脇に列を成し始めた。

 俺達は兵士達が両端に立つ場所まで着くと、観衆に手を振り返したりする行為をやめ、足並みを揃えて先程よりも勇ましく歩くようにした。視線は、開いた扉の先に広がる浅葱色の平原を一点に見つめている。そのまま歩き続け、街と外界の境目を越えた後も、俺達は振り返らず、規則正しい足並みで平原を歩いた。


 平原を暫く歩いていると、突如として背後から聞こえていた歓声が鳴り止んだ。きっと城門が閉まったのだろう。その真偽すら確認せず、ただ前だけを見て歩き続ける。

 「レン。必ず勝ちましょうね」

 サロリアは視線を前方に向けたままの状態で言った。横顔から見えた彼女の瞳に何が映っているのか、俺には分からない。分からないが、彼女の金色の瞳からは強い意志のような物を感じた。

 「ああ、もちろんだ」

 迷う事なく俺はそう返した。その言葉に、嘘偽りはない。


 この日、勇者として魔王を討伐するための戦いが遂に幕を開けた。

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