皇太子の苦悩 sideルビウス/フレイヤ
僕は生まれながらに王になることが決まっていた。洗礼を受けずとも周囲は分かった。強大な魔力を持ち、あらゆる才に秀で。誰もが僕を褒め称えた。だが、誰も僕をを見ようとしなかった。見ていたのは王族としての、魔王としての僕だけだった。
そんな中、双子の兄は僕自身を見て可愛がってくれた。年々口数が減っていった僕に対しても・・・
何度僕の力を兄様に渡せたらと思っただろう
魔法や剣術などは並みだが、目標のために努力を惜しまない。そして、社交的で人を惹きつける何かを持っており、周囲には絶えず優秀な人材があつまる兄様。口下手で、自分の力が怖いからといって努力をやめた僕。どちらが王にふさわしいかなんて分かりきっている。でも、魔王という称号がそれを許さない。兄様も将来自分を支える為に頑張ると言う。
一層僕は惨めだ
本当なら先に生まれた兄様が王なのに・・・
そんな葛藤を抱えていたからこそ不思議でならなかった。
彼女が、僕達全員を助けたことが。
目の前で人が死んだのにも動じない。でも、兄様が殺されそうになった時、危険を省みずに助けてくれた。相手が眠った時一人で逃げることもせず、大量の魔力を消費して捕縛してくれた。あれは、発動した本人でないと解けないぐらい強力なものだろう。
でもそれを誇示することはなく、僕達が皇族なのもあるかもしれないが、常に気を配っていた。貴族の、しかも七歳という事実がその異常さを物語っていた。
僕はそれに嫉妬したんだと思う。そんな自分にも嫌気が差した。
「確かに一人、転移魔法で逃げることも可能ではございました。しかし、我が領には『真の強者とは、ただ力が強いものではなく自分の身、家族、大切なものを守ることのできるもののことである』という言葉がございます。力があってもそれが人の為に使えないのなら、ないのと同じ。私はそう解釈し、それに基づいて行動したまでです。それに、誰かを助けるのに特別な理由がいりましょうか?」
「・・・・ですので、令嬢が戦うのはどうなのかとかは、余り考えないでくださると嬉しいです」
心の臓を射抜かれた様な衝撃が走った。
頬を染めて、満開の笑みでそう言う彼女はとても美しかった。
暁の髪の少女が僕の夜を明かし、彼女いや、フレイヤの色で染め上げられるような錯覚を起こす。
「暁の戦乙女ヴァルキュリー」
「・・・・?何かおっしゃいました?」
「何でもない」
立派な皇帝になろう。
せっかく恵まれた力があるのだ。出来ないことを嘆いても仕方がない。兄様の方がこのは力が相応しいとかじゃなく、自分が相応しい人物になるのだ。フレイヤのように・・・
なぜ唐突にそう思ったのかは分からない。この時は憧れを抱いていると思っていたのかもしれない。
僕はまだ、この気持ちの名前を知らない。
***
「疲れたー!」
そう言って布団の上にダイブした。幸い誰も見ていなかったのでセーフだろう。少し魔力を使い過ぎた。
「ルビウスへの答えあれで良かったのかなぁ」
あの後、なぜか顔を赤くしたルビウスは走り去ってしまったので、真意は分からない。
王宮に着いた時、既に夜になっていたので誘拐された四人は泊まることになった。明日は色々大変だろうが、取り敢えず束の間の休息を満喫しよう。
そうして、誘拐事件はひとまず幕を下ろしたのであった。
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