暗殺者 3
オリハルコンは、どんな素材、性質にも変化できる物質だ。そして、普通の魔道具と同じように魔法を込めることができる。そもそも魔法は精霊の力を借りるか、魔法陣を構築する事で発動できる。まあ、後者の場合は魔術と呼ばれるが。どちらにしろ一般人が使うには、どうしても時間がかかってしまう。
そこで役立つのが魔道具だ。これはあらかじめ魔法を込め、特別な金属に記憶させることで、魔力をこめるとそのまま魔法を発動させることができるというもの。
しかし、これらは少量の魔力で使える魔法しか込めることができない。では、オリハルコンで作られた神器には何か込められているのか。
―――武の神サイラスは己の剣に刻み込んだ。平和を象徴する虹の加護を。
―――愛の女神ディアナは己の杖に刻み込んだ。人々を導く月の加護を。
―――名の神ネムルは己の槍に刻み込んだ。世界を繋ぐ空の加護を。
―――理の神デリアは己の書に刻み込んだ。悪しきを裁く星の加護を。
この世界では星の数だけ悪があるとされる。その中でも特に輝く七つの星には、五大厄災である悪魔が住んでいるとされ、それらにはそれぞれ、暴食、色欲、強欲、憤怒、怠惰、傲慢、嫉妬を司る悪魔がいる。
前世でいうところの〈七つの大罪〉だ。
こんなことが、あの日記に書いてあった。まぁ、他の神器についても書かれていたが、それらは国の書物にも記されているらしい。
ともかく、その力の一部を借りることができるのが私の神器。だが、その扱いはとても難しく暴走しないようにするのも三年くらいかかってしまい、今はもう十二歳。やっと三つ分だけなら使うことを国に許されたのだ。その日に彼が来たので、少しはしゃいで魔法を使ってしまった。
ところで、ずっと思っていたが灰色の少年はどこか変な感じがする。彼の魔力の巡りに何か別のものが混じっているような。
「(いや、これは見たことがある。確か、・・・魔獣化したあの男っ。でも何でだろう。一回鎌を掛けてみようかな)」
「ねえ、あなた。半分人間じゃなくなっているけど気づいてるのかしら?」
「は?何、言ってるん、だ。そんな、訳なっ・・・」
「(もの凄い動揺してる、多分これは当たり。ならば)」
「何か心当たりがありそうね。あっ、そうね。一度私と来ない?」
「いや、だから、は?何で」
この魔力の感じ、血の瞳。私の予想では彼と同化している魔物は、
しかしこの事が国に知られれば、身柄を引き渡さないといけない。そうなれば身体をいじくり回され実験され、挙げ句の果てには殺されるだろう。それは流石に可哀想だ。
ならば存在が露見しないよう手元に置いておき、対策を考えるほうがまだましだ。そのためにはこの少年を此方に勧誘しなければ。
「衣食住、三食保証。私の護衛として働いてくれればお給料も出すわ。他にも望みがあれば、出来るだけ叶えるようにもする」
「・・・・。本当に?」
「(うわ、目の色が変わった)」
「えぇ。疑うなら今試しに言ってみなさいな」
「じゃあ、おいしい、ご飯が、食べたい」
「家の料理人は腕が優秀なの。きっと今まで食べたことのない、おいしい料理を食べられるわ」
「ふかふかの、べッドで、寝たい」
「勿論いいわよ。後で準備するわ。横になったらすぐ寝てしまうほど良いものよ」
「勉強して、本も、読みたい」
「私も本が好きなの!我が家にもたくさん本があるから、楽しみにしておいて」
「食事は、いらない。その、変わり、毎日、少し、でいいから、血が、欲しい」
「誰の血でもいいの?」
「うん」
「じゃあそれ、私の血でもいいかしら」
「っ!?こっちは、嬉しい、けど」
「じゃあ成立ね」
「髪の色、変えて、ほしい」
「何色がいいの?」
「えっ?、できるの?人の、身体に、干渉、する、ことは、出来ない、って、聞いてた、けど」
「私を誰だと思っているの。出来るに決まっているじゃない。で、何色がいいの?」
「赤い・・・、いや、紺色」
「三原色とか上の色にも出来るけど、本当にその色でいいのかしら?」
「だって、今日から、あんたの、影、だから」
「嬉しいこと言ってくれるわね」
「(というかそんなに、衣食住三食つきが魅力的だったのかな?まぁ、引き受けてくれるならいいけど)」
「じゃあ、アリスっ」
『はいなのっ!』
「彼の者を苦しめる呪縛・負の連鎖はこれでお終い・灰色のキャンパス・私が夜空を描くから・でも憎まないで・勘違いしないで・忘れないで・塵も積もれば山をも凌ぐ・要らぬ色など一つもない・それは今までの軌跡でもあるから・自分の色を愛してあげて」
「人体干渉」
《
「変わった、の?」
「ええ。今見せてあげるわ」
《水の
「本当、だ・・・っ。えっ?目の色、赤色。変えた、のか?」
「もともとよ、気づかなかったのね。そんなに落ち込まなくてもいいじゃない、私とお揃いよ」
「お、落ち、込んで、ない!」
「あらそう。他にはもうないの?」
「あと、名前、付けて、ほしい」
「それは・・・」
「前の、名前は、捨てた、から。神の、名前も、使い、たく、ないし」
「そうなの、ね・・・。いいわ、つけてあげる」
「ありが、とう」
「どんな名前がいいの?」
「別に、何でも」
「そんな適当な・・・、一番困る回答じゃない。ちなみに神の名は何なのかしら?」
「クレイヴ」
「そうね、んー。あっ、じゃあ〈ナハト〉はどう?遠い国の言葉で夜という意味なのよ。今の、いえ今日からのあなたにぴったりの名前だと思うのだけど」
「ナハト、ナハト・・・。いいよ、気に入っ、た」
「じゃあ、あなたは今日からナハト・クレイヴよ」
「・・・っ。うん」
***
「見捨て、ないで、っほしい」
「今さらそんなことしないわ」
ずっと感じていたこの既視感。
「売ら、ないで、ほしい。嫌わ、ないで、ほしい。認めて、ほしい。肯定して、ほしい。褒めて、ほしい」
ああ、この子は
「僕をアイしてほしい」
私と同じなんだ。
悪役令嬢の異世界転生記 @865
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