暗殺者 2 side???

 血、血がほしい・・・



 そう求めるようになったのはいつからか。



 確か僕は貴族だった、七歳まで。



 もともと三歳上の優秀な兄と比べられてきた。



『お兄ちゃんがあなたぐらいの時はもっと出来たわよ』

『何でまた間違えるの!あの子なら一回間違えた所は二度と間違えないわよ』

『あの子の時はもっと・・・・・・』

『何で兄弟でこんなに違うのかしら』



 それらの言葉は呪いのように僕に降りかかる。



 父、母、兄全員が称号持ち。それは奇跡のような偶然だったのだが、両親はそれを勘違いした。



 『自分達の家は神に愛されている』



 それならば当然僕にも称号があるはずだ、と。でも僕は持っていなかった。それが普通なのだがこの家では違い、僕は無能の烙印を押された。称号を授かることだけが、家族に認めてもらう最後のチャンスだったのに・・・。



 更にそのショックで貴族の証である髪と瞳の色が灰色になってしまう。



 貴族にとって色は命。それによって爵位が同じでも序列が前後することがあるほどだ。金、銀、黒、白が最上級でもっとも希少。その下に三原色、そしてその派生が続く。すなわち灰色はどこにも属さない、言わば最下層の色。身体や精神に影響を及ぼす魔法はたとえ、魔術師であっても基本的に使えないため色を染めることもできない。



 もともと両親には嫌われていたのだろう。そのため家の恥として、貴族の籍を剥奪され奴隷商人に売られてしまった。



 更にその奴隷商人によって売られた場所は何かの研究施設だった。そこには他にも売られた子が2人おり、当たり前だが僕含め全員泣いていた。



 そこからの生活は別に酷いものではなかった。質素ではあったが三食用意されたし、全員同じ部屋だが寝床もある。だから大丈夫かな、何とかなりそうだ。とその時の僕は、幼いながらに楽観的に考えていた。



 他の二人との仲を深めながらしばらく何もせずに過ごしていたある日、白衣の人達に突然こう言われた。



『おめでとう、お前達全員適合者だ』


 でも、この先の記憶はない。そこからの三年間の記憶だけが抜け落ちたように途切れている。そして気づけば十歳ぐらいまで成長しており、血を求めるようになった。


 身体能力が高い者の血はおいしい。だから最初は騎士を狙った。でもあいつらは一人でも殺すと数を二倍にも三倍にもして捕まえに来た。その時は逃げれたがこの後も狙うには少し危険過ぎる。



 魔力が多い者の血もおいしい。だから次は魔術師を狙った。簡単に殺すことは出来たが、奴らの魔法は厄介だった。どこへ逃げても追ってくる。  



 じゃあどうするか。別に、身体能力が高ければ称号持ちじゃなくてもいい。そして、殺しても誰も気づかず明るみに出ない者。ーつだけ心当たりがある。



 暗殺者。



貴族というのは常に、他の貴族からの依頼を受けた暗殺者に狙われている。僕もそうだった。



 食事をする回数は減るが前より安全だ。一人分確保できれば1ヶ月はもつ。幸いにも何故か身体能力が尋常じゃなく上がっていたので、見つけることさえできれば何も問題ない。何より騎士や魔術師に追われなくていい。



 そして日にも当たれなくなっていたが問題ない。動くのは夜。そのため日中は適当な空き家で過ごし、夜は貴族の屋敷へ向かう。



 そんな生活を続けて約一年、僕は彼女に出会った。



***



 あれは雨が降っている日の夜だった。あの日、僕はアルビナス侯爵邸に忍び込んでいた。魔女がいると聞いていたので暗殺者もいるだろうと思って。



 四天は学園を卒業するまでは生家で過ごすが、卒業してからは国の所有だ。貴族でも、平民でも、王族でもない「四天」という地位を確立する。そのため戦争などの有事があった際は兵器として利用されるが、本人とその家族は多大な富を得る。王族であった場合は、王になることが確約されるほどだ。



 だから貴族にとっては邪魔な存在だろう。それに、強大な力は忌み嫌われるものだ。



 そう思案しながら足音を立てずに、獲物を探す。



「(あっ、ビンゴ。やっぱりいた)」



 声を上げられると困るから、殺すときは双剣で首を裂く。これも、何故か作れるようになった血の武器を使う。



「(でも弱かったし、不味いかな、、)っ!!?」

 いきなり足下に魔法陣が現れた。とっさに飛び退いたが、尋常じゃない発動スピードだった。前見た魔術師でも表れてから一秒の時間はあった。だがそれを下回れるということは・・・



「あら、外してしまったわ。いつもはこれで拘束できていたのに。凄いわね」

『今、見てから反応してたのっ!』



 赤い髪に瞳、今ここに居るはずのない少女。不自然にそこだけ雨が降っていない。予想通り。



「お前、魔女か」



「よく分かりましたわね。あぁ、この雷雨じゃ声が聞こえにくいし暗いわね。お話しにくいわ」



「来なさい」

〈魔導書グリモアール〉

「特別にこの魔法を見せてあげるわ」



 いつのまにか本のようなものが、魔女の手に収まっている。



「何を・・・」

「雨よ、雲よ、雷いかずちよ・魔女フレイヤと精霊王アリスの願いを聞き届けたまえ・水は、母なる大地と父なる宙そらへ還りたまえ・雷は、その怒りを収めたまえ・対価には我が魔力を捧げる・この国に大いなる恵みを!」

「ぐあっ!!」

 何で詠唱してる間に違う魔法使えるんだよ。避けられないだろうと油断していたら、吹き飛ばされた。庭園だから泥だらけだし。しかもめっちゃヤバい魔法な気がする。



〈神器解放〉



「七つの大罪・第五罪」

〈嫉妬の海竜リヴァイアサン〉

《テルセイ》



「やっぱりまだ上手に使いこなせないわね」



 雲が、霧散した。



 満月の月明かりを背景に、虹色に輝くキラキラしたものが辺り一面覆う。種は芽吹き、蕾は花開く。空にはオーロラがかかり、星は煌めく。



 魔力なのか、それとも雫なのか。どちらにしろ、星が降ってきたと言われても信じてしまうようなこの光景は、後に見た者、触れた者に幸福をもたらす、



『神々の祝福』



 と言われるが、真相は僕と魔女のみが知る。

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