回想
私を生んだ父の家は比較的、裕福だったと思う。だが、残念ながら私はその恩恵にあずかれなかった。
何でも私の母は父の不倫相手だったらしい。母は自分が不倫相手だとは知らなかった。そして知らずに父を愛し、私を生んでしまい、私を一人で育てることになった。
家は常にお金に困窮していた。でも母は私を愛してくれ、生活するために必死で働いた。「私のせいでごめんなさい」と毎日のように繰り返して。だが、私が五歳になったとき遂に病気で倒れてしまい、入院することになる。
幼い私に何もできるわけがない。母の両親は既に他界しており、兄弟もいない。そこで、私を引き取ったのが私の父だった。
私は父の家に着いたとき、こんな立派な家に住めるのかとはしゃいでいた。だが、実際用意されたのは狭い屋根裏部屋、一日一食の最低限の食事と服、布団はタオル一枚、体は水に濡らして拭くだけの生活だった。
それからは必要な時以外、部屋から出るのを許されない生活だった。時々、義母や義姉が呼びにくることがあったが全て、教育と称して私に暴力を奮い、罵声を浴びせることが目的で、「お前やあいつがいなければっ!」「あんたの母もばかよねぇ!光を織りなすって書くんでしょ、あんたの名前?あんた不幸しかばら撒いてないじゃない!」それらは私の心を折るのに充分だった。
小学校や、中学校には通えたがこんな私に友達なんてできるはずはなく、イジメの対象になってしまう。それでも家にいるよりはいくらかましだったし、その頃には義母や義姉も私への興味が失せたのか、呼び出されることも少なくなっていった。
高校では家から逃げるため、寮のある学校へ特待生で入学し、母のお見舞いに行き、バイトを頑張りながら友人にも恵まれ楽しくすごせた。
そして聖戦もこの時に買って、やり込んだことで成績が落ちたのは今では黒歴史である。
私は高校を卒業すると同時に家に呼び戻され、家に行ってみると家の調度品が全てなくなっており、あんなに威張り散らしていた両親達は妙に静かだった。
入った部屋には20代くらいの顔立ちの整った男性がいて、
「この方は三条グループの御曹司、三条清隆(さんじょうきよたか)様だ」
「初めまして」
「は、初めまして」
「突然なんだけど、私と結婚してください」
「・・・え?」
「実はね、君を街で見つけて一目惚れしたんだ」
この時の私は頭がおかしかったんだと思う。こんな不自然きわまりない話あるわけがない。そう分かっていても目の前の男性を拒むことができずに了承し、結婚してしまった。
そこからの生活は案外良いものだった。三条さんは本当にお金持ちだったらしく、贅沢な生活ができた。それに、私を愛してくれた。幼少期に両親の愛などほとんど感じることがなかった私にとってそれは、私を心酔させるのに充分なものだった。
ある夜、喉が渇いたので水を飲もうとリビングへ行くと三条さんの電話する声が聞こえた。邪魔してはいけないと思い立ち去ろうとした時、衝撃的な内容が聞こえた
「あぁ、概ね順調だ。それにしてもあの女も馬鹿だよなぁ、俺はお前のことをなんて愛していないのに「大好き」とか毎日言ってくるんだぜ?鳥肌立つわ!」
な、何を、言っているの?
私はその会話を息を殺しながら聞いていた。
「そもそも、求婚したのだってアイツの親の会社を貰うためだしな」
私はもう何も考えられなくなって一目散に自分の部屋へ戻った。
確かに何か理由があるのかもとは感じてた、でも少なくとも私のことを愛してくれていると思っかたのにっ!!
そして私は一晩中泣いた。
そして次の日の朝、私は言った。
「私と離婚してください」
「え?」
「何で、俺何かした?」
「しらばっくれなくて結構です。昨日の会話を聞いていました」
「!!?」
「全部、嘘だったんですね。私に言った今までの言葉全てっ!!」
そう私が告げると彼は黙り込んだ。
「・・・・」
「あははははははは!」
「な、何がおかしいんですか」
「俺も迂闊だったよ、聞かれてしまったのか」
「そうだよ。お前に優しくしたのはその方が反抗されなくて楽だから」
「あの女もだが、お前も相当バカだな」
「あの女?」
「あぁ、お前の母だよ。あの女、金をかせげるいい仕事があるって言ったら平気で体売ったんだぜ?それで病気になったんだけどな」
「っ!!」
確かに母はいつも夜中にどこかへ行っていたが、てっきり仕事へ行っているものだと思っていた!
「ほんで、それ経由でお前の父のことを知ったんだが、あいつの会社倒産しかけてたんだ。だから『会社を助けてやる代わりにお前の娘をもらう』って言ったら、喜んでお前のこと差し出してきたぜ?もう一人いるのに、躊躇いもせず」
あの時、妙に静かだったのは私のご機嫌取りのためだったのか、でもこの話を聞いて決意は固まった。
「出ていきます!」
そう言って家を出ようとするも、鍵が開かなかった。すると、
「あぁ、その鍵内側からも外側からも俺しか開けられないんだよ」
「それと、外に行っても俺のことバラされたら困るからお前もあの女も殺すよ?」
「こ、殺すなんて・・・・」
「できるよ。俺には優秀な部下がたくさんいる」
「で、どうする?残るんなら生かしてやるよ。俺に逆らったらどうなるかは、自分で想像してみな」
する、この男は絶対に実行する。私はまだ、自業自得だからしょうがない。でも、それに母を巻き込める訳がない。だったら答えは一つだ。
「の、残ります」
それからの生活は酷かった。あの男は私を召使い、いや奴隷のように扱った。衣、住は一応確保されたが、食べ物などは食べれない日の方が多かった。そして言い付けられていたことを破ったり、少しでも反抗すると母のことで脅されたり、すぐに暴力を奮われた。子供のときもそうだったから大丈夫だと思っていたが、やはり大人の男性は桁違いにキツかった。
その中での唯一の救いは聖戦をあの男が仕事へ行っている時に出来たことだろう。結婚した時、恥ずかしいからと隠しておいたことが功を奏した。
***
「転生したショックで忘れてたけど思い出してみたら、なかなか壮絶な人生ね」
「人間不信になってないことを誉めてほしい」
でも、ここでは環境に恵まれた。両親達は私を愛してくれるし、使用人達もよくしてくれる。
そう幸せを噛み締めながら私は再び眠りにつくのだった。
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