誘拐 5

魔法で照らしながら石の階段を上っていく。


 どうやら捕まっていたのはどこかの屋敷の地下らしい。地下に部屋は私達が捕まっていた所の一つだけ、教室ぐらいの大きさだった。そして薄暗かったので気付かなかったが、よく見れば壁や床、天井に血がこびりついていた。何があったのか考えたくもない。


 ゴンッ


「いでっ!」

 頭に何かぶつかった。魔法で照らしてみると、そこだけ正方形に木になっている。

 押してみれば・・・


 ガコンッ


 外れた、大人一人分くらいの穴だ。


「よいしょ」


「ごほっ!」


「埃が多いな」


 どうやら書斎のようで、だいぶ古くなっているが、本棚や机がある。めくれた絨毯の周りに大量の埃が溜まっている所を見ると、この隠し通路、屋敷は長い間使われていなかったようだ。


「えっ!?」

 部屋を見て周っていると机の上に何か乗っていることに気付いた。いや、他にも色々乗っているのだが。なぜそれが目についたのか。それは、そこには色褪せた文字で『日記』と書かれてあったのだ。


 久しぶりに見る、日本語で。


***


「どうかしたのか?」


「あっ、あ。何でもありませんわ!早く行きましょうか」

 そう言ってとっさにその本を空間魔法で作った空間に放り込む。これがあると、何も持たなくていいし、そのままの状態で保存されるから便利だ。


「・・・?」


 バァン!!


「殿下!」


「ロックではないか」


 勢い良く扉を開けて入って来たのは、ラインハルトの護衛騎士(見習い)のロック・パペル・スバル、攻略対象で騎士の称号持ちである。年は確か私達の二歳上だったはずだ。


 代々王太子、国王の専属護衛騎士は称号を持っている、持っていないに係わらず、アルビナス侯爵家かパペル辺境伯爵家の男児と決まっている。今代はアルビナス家に男児がいなかったため、パペル家の次男が専属護衛騎士になったという訳だ。ちなみに国王の専属護衛騎士は私の叔父である。


「なぜここが分かったのだ?というかここはどこなのだ?」


「殿下方を捜索していたところ、膨大な魔力を感知し、一時はそれを無視しようと考えていたのですが、アルビナス侯爵がその魔力がご息女のものだとおっしゃったので、その魔力をたどると此処までたどり着けました。そして此処は、魔の森中央部にある屋敷です。強力な目くらましの魔法が張ってあったため、発見が遅くなりました。申し訳ございません」


 魔の森とは、アリステリア王国で唯一魔物が出る広大な森だ。普段は冒険者ぐらいしか近寄ることのない場所だが、私は特訓のために結構な頻度で行っている。屋敷があることは全然気付かなかったが。


「外で騎士達が待機しております。取り敢えず全員、アリステリア城ヘお連れいたしますので此方へどうぞ」


「うむ!」


 何か忘れているような・・・


 あっ!


「地下に私達を誘拐したと思われる者達を捕まえておりますので、後は宜しくお願いいたします」


「えっ!?」


***


 では帰るぞ、と皆が外へ出て行く時私は、


「ねえ、その力忌々しいとは思わないの?」


 今回ほとんど言葉を発っさなかったルーヴェンスに話しかけられていた。

 

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