緊急会議 side両国

侯爵令嬢二人と王族が三人誘拐されるという今だかつてない程の大事件。何事もなく全員返って来たとはいえ、何か国として対応しなければいけないが、両国共に被害を受けている。そこで両国は、現在アリステリア王国で行われている緊急会議で責任の押し付け合いをしていた。


「其方の国の森に短時間とはいえ監禁されていた上に、獣人化も見られたのですから、あなた方が此方に誠意を見せるべきでは?」


「しかし!あの男達はベリアル皇国の出ではなかったではないか!」


「だが!そちらも・・・」


「何だと!?・・・」


「・・であるから・・・・!」


***


「一旦沈まれい!」


 そう発したのはアリステリア王国現国王ジル・アリステリア・カール。ラインハルトの父である。彼は賢王と名高く、優れた手腕で戦争で目まぐるしい戦果を挙げ、その才覚は政治でも発揮されており、その名は他国にも轟いている。王太子と髪や瞳、顔立ちは似ているものの王族としての覇気(オーラ)は段違い。全てのものを跪かせる力を持っている。


「し、失礼いたしました」


「この誘拐は穴をつけば、いくらでも相手を非難することができるだろう。しかし敵の目的も正体も分かっていない今、そんな無意味な争いはしたくない。そこで3つの提案をしよう。1つ、両国は一部輸入品に規制をかける。2つ、判明した情報は全て共有する。特に捕まえた男が言っていた「あの方」についてや、魔獣化についてのことは最優先だ。そして3つ目・・・」


「神器を息子らに与えるのはどうか?」


 ザワッ


「じ、神器ですと!?」


 神器とは、「勇者」「聖女」「魔女」「魔王」纏めて「四天」にのみ扱うことのできる魔道具のことだ。形状や能力はそれぞれ違うものの全て、この世には存在しないといわれるオルハリコンでできている。現在勇者、聖女の神器をアリステリア王国が、魔女、魔王の神器をベリアル皇国が厳重に国の宝物庫に納めてある。これはかつて、神器を悪用しようとした者がいた際、その力が暴走し大陸が滅びかけたことがあるからだ。


「なぜかお聞きしても?」


「うむ。実は先程分かったのだが、「あの方」というのは竜やエルフの魔獣化についても研究しているらしい。根城は現在国を挙げて捜索中だが、もし完成してしまえば対応できるのは情けないことに、あの四人しかいない。そのための念には念を入れての戦力拡張だ」


「今日は幾度も驚かされてばかりですな」

「(しかし竜にエルフは不味いな・・・。この大陸の五大厄災の一角と二角。そう易々と完成するとは思えないが、最近竜とエルフの死骸が盗まれたと聞く。ここは乗るのが得策か)」


「その提案全て呑みましょう」


「それは有り難いが、皇帝に話を通さずに決めてしまってよいのか?」


「皇帝からこの件に関しての、全ての権利を委任されているのでご心配なさらず」


「そうか。なら早速、一週間後に教会経由で神器の譲渡を行う。細かい段取りはまた後日。それとら

皇子達は安全に送り届けるように我が国の騎士も付けるとしよう。これで本日の緊急会議は閉会とする」


「「「「御意」」」」


***


「・・・という訳です」


「そうか、レイヤ嬢は息子達を命の危機から助けたと聞いた。今は全力で協力するとしよう」


「はっ!では失礼いたします」


「うむ」

「(それにしてもあのマードックの娘に助けられるとはな・・・)」


 十数年前までは、彼が辺境を守っているというのも相まって、よく戦場で戦っては引き分けに持ち込まれていた。正直あまり関わりたくない人物ではあったが・・・


 あの日以来、息孑は変わった。特にルーヴェンスが。今まで部屋に引きこもってばかりで、兄としか喋る事がなかったルーヴェンスが、「立派な皇帝になる」と言い出し、勉学はもちろん全ての芸事に打ち込み初め、その全てで素晴らしい成績を残している。この国は盤石だろう。


 それだけなら良いのだが、二人とも口を開けば彼女の話ばかり。その内、婚約者にしたいとでも言い出しそうな勢いだ。


 しかし、それを叶えて悲しむのは息子達だ。


「はぁ、どうしたものか・・・」


 その呟きは何にも阻まれることなく王座に溶けていく

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