第36話

「ありがとうございます」


 それでも二人は喜んでくれているみたいだし良いか。



「にしても今日来てくれた子達だがかわいい子揃いだったな」


「そうだね。どんな子が来るのかなって思ってたら全員美人だから驚いちゃった」


 そして当然のように話題は今日来てくれた3人についてになった。


「で、どの子が彼女なんだ?」


「彼女って。全員違うよ。ただのす……仲良くしている人だよ」


 危うくただの素晴らしい姉だと言ってしまうところだった。危ない危ない。


「そうなのか。の割には二人でショッピングに行ったり弁当や朝ごはんを作ってもらったりしているようだが?」


「別にショッピングは荷物持ちに駆り出されただけだし、弁当はただのお礼だよ。で料理は一人暮らしの俺を心配してくれているんだよ」


 別にこれはただの姉弟としての関係だ。恋仲とかは一切関係ないよ。


「言いたいことは分かるけど、それこそ恋愛関係ってやつじゃない?」


「え?」


 と否定する俺に追撃をかけてきたのはなんとゆかりさん。


「私自身はこれまで恋愛に縁が無かったけど、流石に分かるよ。恋人関係じゃないと絶対にそんなこと起こらないよ」


 この間膝枕で耳かきしてくれた人が言いますか。


「全くだ。まさかここまで関係が進んでいるとは。素晴らしいではないか」


「え?」


 このノリ的に嘆かわしいとか言うのかなと思っていたらまさかのそっちですか。


「今日話して確信したが、あの人たちは弟の彼女、その先の伴侶として素晴らしい女性たちだった」


「かもね」


 あの3人、特に先輩2人は俺をやたらと振り回して来るが、女性としては素晴らしいとしか言いようがない。


 だけど、姉なんだよね。


「それでもくっつく気は無いと」


「うん。あまり考えられないかな」


 恋愛関係になってしまった瞬間、姉弟の関係が崩れ去ってしまうじゃないか。


 くっつけば崩れ去ることはないと考える人もいるかもしれないが、その場合残りの姉との関係は崩れ去る。


 バレないようにすればセーフと考える人も居るだろうが、真っ当な精神構造をしている一般的な男子高校生には無理だ。


 もしそういうことを考える人が居るのであれば男性の象徴を捨て去ることを推奨する。


「そうか。弟はあの3人に友人以上の何かを見出しているように見えるのだがな」


「そう?」


「ああ。友人関係というよりは、まだ私たちを姉と慕う感情の方が近い」


「え?」


 もしかしてバレてる?全員に姉性を求めているってこと。ここの二人にその感情を向けているのがバレるのは別に問題ないけど、あの三人にバレるのだけは絶対に駄目だ。


「この場面がどうだったって指し示すのは難しいけれど、言葉とか立ち振る舞いからちょいちょい出てるよ」


「そうなんだ」


 完全に油断していた。あの三人は割と自身に向けられる感情に無頓着だからつい普通に振舞ってしまっていたようだ。


「まあ、渚くんがどういう選択を取ったとしても私たちが渚くんの事を見放すことは無いから安心してね」


「ゆかりの言う通りだ。思うように行動するがよい。あの三人の誰かと付き合うも良し、アシスタントを務めている漫画家の所に居る女性の誰かと会うのも良し。もしくは例の金髪少女でも良いしな」


「……え?」


 今金髪少女って言いました?金髪少女って隣のクラスに居るイギリス人の女の子だよね?多分。


 確かに美人だもんね。まだ高校に入って1年も経っていないのに50人以上の男に告白されたって話らしいし。京さんが目を付けていたとしても不自然じゃないよ。


「定期的に会っているだろう?何をしているかまでは知らないが、随分と親密だったじゃないか」


 違った。不自然な方だった。


「どうして知っているの?」


「姉だから」


「説明になってないよ。なんなら姉は普通弟の女性関係は知らないものだよ」


 同じ高校に通っているとかなら分かるが、京さんは大学生で俺は高校生だぞ。どうやって知るんだよ。


「いや、この前弟に偶然出くわす姉をやりたかったから弟の後ろをばれないように尾行していたことがあったんだ」


「ちょっと待って。そこの説明からお願い」


 謎の説明の中で奇行を登場させないでください。


「そこ?」


「尾行していた経緯だよ。それ以外無いでしょ」


「先ほども言った通り弟に偶然出くわす姉をやりたかったからだが」


「それが意味不明なんですが」


 弟に偶然出くわす姉をやりたいって日本語おかしすぎませんか。


「言葉の通りだ。弟と偶然出会ったということにして記念に高級料理店に連れて行きたかったんだ」


「それ別に普通に食事行くぞで良いでしょ。既に予約済みだって説明したら流石に断れないし行くよ」


「偶然出会った記念というのが大事なんだ。女性は記念日を大事にしがちだという話は聞いたことがあるだろう?」


「分かるけど、別に偶然出会う事なんて記念でもなんでもないよ」


 それを記念だというのはナンパ目的で女性に近づく男と愛が重すぎる彼女だけだよ。


 ……愛はちゃんと重いから別に正しい在り方か。偶然を装って尾行している時点で滅茶苦茶重いし。


「そうか?」


「そうだよ。まあそこは良いや。続けて」

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