第12話
俺は内心ウキウキしながら自分の机に向かうと、
「なんですかこれ」
俺が使っている机が大量の造花で綺麗にコーディネートされていることに気付いた。
「あっごめん。昨日アシスタントの子達と遊んでたのを片付けてなかったよ」
そう言って次葉先生はいそいそと造花を撤収していた。
「遊ぶって何が目的なんですかこれ」
何かが机の上に載っていた痕跡も無く、どうみてもただ机をコーディネートしただけなのである。
「昨日これを読んでね」
そう言って見せてきたのは『心が見える後輩と、無口な先輩』という漫画だった。
記憶が正しければ、心が読める後輩女子と無口で感情が読みにくいけど、実は思いやりに溢れた優しい先輩男子の日常を描いた漫画だったはず。
「これがどうかしたんですか?」
「この漫画、感情が文字で現れるのと同時にそのキャラクターの周囲に花が現れるんだよね」
「そうなんですね」
「その表現凄くいいなって話になってね。じゃあ別の漫画のキャラクターだったらどんな感じだろうって絵を描いて遊んでいたんだけど、それだけじゃ満足できなくなりまして」
「で、どこかから造花を買ってきて、俺の机を使って遊んだってわけですね」
「そういうことです」
「ちなみにどんなキャラクターなんですか?」
「これ」
そう言って渡してきたのは国民的漫画のNA〇UT〇の主人公の妻の画像。
「だから全体的に紫だったんですね」
「そういうこと」
もし俺をモチーフにして作るなら紫一色ってのは流石に変だしね。今まで紫の服とか物とかを持ってきたことは殆どないし。
「仕事終わったらそれ俺にも読ませてください」
「良いよ~」
「ありがとうございます」
俺はその漫画を楽しみにしつつ、仕事にとりかかった。
今回のネームはかなり丁寧だ。ということは今週のヒ〇アカはヤオモモさん大活躍回だったんだろうな。
次葉先生の仕事は、基本的にヒ〇アカかブラク〇の内容に影響される。他作品の出来に影響されるのは漫画家としてどうなのかとは思うが、内容が良かった時の爆発力が余りにも高すぎるので俺もかあさんも文句を言えない。
今日の仕事は楽そうだなと思いつつ、淡々と仕事をこなし始めて10分程経った頃、
「ちゃオッス」
「私が来た!!!」
「こんにち殺法!!」
というどこかで聞いたことがある挨拶をしながら三人の女性が入ってきた。
「こんにちは~」
「いらっしゃい」
「「「居たの!?!?!?」」」
あんなんでも一応は挨拶なので俺と次葉先生が挨拶で返すと、3人は次葉先生を完全にスルーして俺が居ることに驚いていた。
「別に居ても良いじゃないですか。どっちかって言うと俺の方が驚きたいですよ。普段あんなことしてたんですか」
初めてあんな挨拶をしている姿を見たが、全員余りにもキレッキレだったのでここに来るたびに毎回やっていると思われる。何をやっているんだあんたたち。
「うん。楽しかったから」
とあっさり認めたのはオール〇イトの挨拶をしていた森園夏希さん。
彼女はオール〇イトの真似をしていたが、当然筋骨ムキムキなわけもなく青髪ショートカットでスポーティな印象を受ける普通のお姉さん。
ただし極度の運動音痴らしく、高校生の時に行ったハンドボール投げは驚異の5mを記録したらしい。
「言わなければ無かったことに出来たかもしれないのに……」
と森園さんを恨めし気な目で見ていたのは国崎佐紀さん。ちなみに藤〇書記の挨拶を真似していた人で、多分一番テンションが高かった。
彼女もまた藤〇書記とはかけ離れた雰囲気の女性である。赤紫のセミロングで、両目が髪の毛で隠れており、服もどちらかと言えば暗めだ。凄く似合っているから良いんだけれど。
「いくら欲しい?」
最後に財布を取り出して、俺を買収してこようとしている女性はリ〇ーンの真似をしていた江藤結花さん。銀髪のボブで、全体的にゴージャスな雰囲気を纏っている。
ちなみに次葉先生曰く、江藤さんの実家は化け物みたいな金持ちらしい。
「お金は大丈夫です。別にお金に困っているわけではないですし。それにバレた所で俺が打ち明けられる相手は居ませんよ」
これで主導権を取った所で碌なメリットが無いことはよく知っているので、適当にフォローして流すことにした。
正直もっと見たいし。
「良かった。最終手段を取る必要が無くて」
「国崎さん、最終手段って何ですか」
そしてその手に持っているロープはどこから出したんですか。あなたバッグも何も持ってませんよね。
「今は気にしなくて良いよ」
「今は!?」
つまり将来的に最終手段を取られる可能性があるってことですかね。
「佐紀さん。わざわざ自身で手を下す必要はありませんよ。その時は私が力を持って処置いたしますので」
と言いながら人生で一度も見たことが無い形状の機械を鞄から取り出した。
えっと、俺消されるんですかね。キャラクターの挨拶をしている様子を見ただけだよね……
「そんなことより仕事始めようよ。また帰るの遅くなるよ?」
と言いつつ手をパンと鳴らした森園さん。
今繰り広げられている会話はそんな事で済む話じゃないんですが。
江藤家直属の殺し屋が暗殺しに来るかどうかの瀬戸際に居るんですよ俺。
「そうですね」
「うん」
しかし二人にとってはそんな事だったらしく、何事も無かったかのように普通に仕事に入っていった。
まあ命が助かったから良いか……
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