第7話

 結果としては、本当に試合にならなかった。


「リバウンド取った!走って渚君!」


「オッケー!今フリーなのは……晴翔!決めろ!」


「おう!」


「は、反撃だ!」


「おっと、パスは通さないわよ」


「そのシュートは通させんぞ!」


 バスケ部の櫻井がリバウンドに対応し、中央に陣取る俺がパスを受け取って晴翔が的確にシュートを決める。


 そして相手のパスはプロボクサーの超反応で武田が、シュートはハンドボール部の吉田がカットする。


 余りにも完璧な布陣である。


「くそ……」


「なんなんだあいつら……」


 結果として相手のスコアボードが動いたのは、3ポイントのラインからやけくそで投げたボールが入った一度だけ。


 ボール占有率もこちらが8割程だろう。


「こうなったらあの手を使うしか……」


 しかし彼らの恨みはその程度で収まる物ではないらしく、


「どういうことかな?」


「徹底マークに決まってるだろ?」


「いや、人数だよ。これは無謀すぎる」


 俺に3人のマークがついた。5対5のゲームで何やってんだこいつら。2人であの4人を相手出来るわけねえだろ。


「ほいっ」


「おっと」


 1分も経たずに2回もシュート決められているぞお前ら。


「知ったことじゃねえ!俺たちの目的は!」


「「「お前への攻撃だ!!!」」」


 そう宣言した後俺が逃げられないように三方向から俺を囲い込み、ひたすら足だけを攻撃し続けた。余りにも攻撃がみみっちい。



「おいそこ!何やってんだ!」


 そんなアホな事をやっていると、当然教師が気付くわけで。


 俺たちに向かって注意してくる。


「こいつが強いので徹底的にマークしてるんです!」


「そうか!頑張れよ!」


 と思ったら意味不明な言い訳を信じやがった。


 いくら馬鹿だったとしてもそんな言い訳が通じるわけが……


「お前らさあ」


「当然そんなこと想定済みだよなあ!」


「原田はアレが大の好物だからな!」


 再び体育教師である原田の方を見てみると、美味しそうにシェイクを飲んでいる姿が見えた。


 こいつら、事前にシェイクで買収していやがった。


 原田。お前の大好物だとしてもそんなんで買収されるなよ。マッ〇ってことは200円くらいだろうが。


「ってわけで、お前は終わりだ!」


「良いぞ!もっとやれ!」


 シェイクで買収される体育教師。シェイクで買収た程度でドヤ顔し、俺の靴を3人がかりで踏むというみみっちい攻撃しかしてこない3人。そしてその光景を見て盛り上がっている残りのクラスメイト。


「はあ……」


 余りにもしょうもない光景に思わずため息が出る。


「為す術無しだろうなあ!」


「俺たちの計画は完璧だ!」


 俺がため息をついたのを見てさらにテンションが上がる3人。


 このまま放っておいてこいつらの溜飲が下がるのを待っていても良かったのだが、


「邪魔」


 靴が駄目になってしまうのは流石に嫌なので行動に出ることにした。


 いくら三人がかりで俺の足を踏み続けているといっても息が揃っているわけではないので、


「うわっ!」


 一人しか体重がかかっていないタイミングで足を全力で持ち上げれば簡単に転倒させられる。


 そして倒れた男の方から脱出。


 後は捕まらないように立ち回り続けるだけである。


「原田先生!!!」


「ん?何だ?」


「見てないなら大丈夫です!」


 非常事態が起きた為、咄嗟に原田にファールを取ってもらうように呼び掛けていたが、こいつらが渡したシェイクに夢中で試合を見ていなかった。


「追いかけろ!」


 仕方が無いので素直に俺を追いかけ始める3人。


「これなら別に本気出してもいっか」


 3人から逃げ回る時に本気を出したとしても器用って思われるだけで、身体能力が高いのが透けることは無いだろ。


 というわけで時間いっぱいまで身体能力に頼って逃げ続けた。


「ふう。危なかった」


「何で捕まらなかったんだ……」


「こいつ、逃げるのが上手すぎる」


「後は、任せた……」


 俺はかなり余裕だったが、追いかけた側である3人は疲労困憊のご様子だった。


 体作りがなってないぞお前ら。身体能力はともかく体力は男として必須事項だぞ。


 姉と買い物をする時は大量の荷物を持たされるんだぞ。


 その体たらくでやっていけると思っているのか。


「そういう能力を競技で発揮してくれれば年下にモテるのにもったいねえなあ」


 余裕そうな俺を見てそんな戯言を抜かすのはロリコンの晴翔。


 コイツは年下からモテるためだけに常日頃からありとあらゆるスポーツに勤しみ、様々な場所で無双している。


「別に年下にモテること自体は構わないが、スポーツが出来すぎたら姉の気が引けるだろうが」


 別に年下にモテることに関して悪い感情自体は無い。年下は可愛いものだからな。


 しかし、それ以上に姉が上で、俺が下という関係性を構築することが大事なんだ。スポーツで将来有望な所を見せたら勉強と同じようにまだ見ぬ姉になるかもしれない女性に尊敬の念を抱かれる可能性があるだろうが。


 仲良くなる前に尊敬の念を抱かれた時点でその人は姉になり得なくなる。


 仲の良い相手を尊敬することは相手の能力を認めて評価することだが、見知らぬ相手への尊敬は相手より自分を下に置くことなのだから。


「別に年上からどう思われようが関係ないだろ」


 そんな素晴らしい理想を知っている癖にどうでも良いと切り捨てる晴翔。


「関係しかないわ」


 やはりロリコンは駄目だな。思考回路が腐っている。


「まあいいや。お前が本気を出さないお陰で俺が目立てるんだからな」


「そうだな」


 晴翔はそんな風に言っているが、俺が本気を出しても運動だけは晴翔に敵わない。


 理想の妹、年下を得るために日々運動能力の向上だけにほぼ全てを費やしている男に、勉強や家事などのそれ以外の項目にも時間を費やしている俺が勝てるわけが無いだろ。


 まあそんな事はどうでも良い。靴を守ることだけを考えなければ。次の奴らがあいつら並みの体力かどうか分からないからな。

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