第6話

「ははは、本当に肉塊にするぞ?後輩君の体は程よく引き締まっていて美味しそうだからな。良いハンバーグになるんじゃないか?」


 そう言いながら妖艶な顔で舌なめずりする志田先輩。


 俺は咄嗟に椅子から立ち上がり、生徒会室から脱出するために扉に向かってダッシュする。


 今は姉がどうとかいう問題ではない。自分の命があってこその姉なんだ。


 そして扉に辿り着き、手をかけたが開かない。どうしてこんな時に!!!


「仕事から逃げ出さないようにと鍵を閉めておいたのだが、まさかこんな形で功を奏すことになるとは」


 にやりと笑いながら机に腰かけ、人差し指にかかっている鍵をくるくると回している志田先輩。


「まさか、本気じゃないですよね……?」


「どうだろうね」


 俺は再び扉に向き直り、鍵を開く別の手段が無いか模索する。


 志田先輩の家は金持ちだ。人一人が消えた事件でさえ簡単に揉み消してしまうだろう。


 大丈夫、ここは高校だ。災害対策の為に内側から閉じ込められても脱出できるように設計されているはず。多分。


 しかし鍵を開けられそうなボタンなどはやはり見当たらない。


 ってことは扉以外から脱出しなければならない。


 何か無いか……


「はっ!」


 脱出する方法は見つけた。生徒会室の窓からだ。火災の時にここから滑り降りる為の器具が窓の奥に見える。


 しかし、志田先輩はその近くに陣取っている。


 つまり万事休す。俺は絶望に打ちひしがれ、膝をついた。


「ははは、冗談に決まっているじゃないか。ほら、早く弁当を食べるんだ。昼休みが終わってしまうだろう」


 そんな俺の様子を見ていた志田先輩は腹を抱えて笑っていた。どうやら助かったらしい。


「目がどう見ても本気だったじゃないですか」


「そうか?」


「そうですよ」


 そもそもこの人は冗談抜きでやりかねない前科があるんだよ。


 俺たちが入学する前、志田先輩に告白して振られたサッカー部のエースが逆切れして胸倉をつかんでしまったらしい。


 そしたら丁度一週間後、退学させられた後に家族ともどもアフリカに飛ばされてしまったらしい。


 しかもその飛ばされた人はただのエースじゃなくて、県選抜に毎回選ばれていたような将来プロになる事を約束されていた凄いエースだった。


 突然ニュースで見なくなったから変だなあとは思っていたけど、まさかそれが原因だとは思わなかったよ。


 そんな人が『ハンバーグにしたら美味しそうだ』だよ。ビビるでしょ?


「大丈夫だ。後輩君にそんな日は来ない。だって私のお気に入りだからね。手放すわけがないじゃないか」


 お姉さま!!!!!!!


 さっきまでの恐怖心が帳消しになるくらい最高の言葉です本当にありがとうございます。



 それから俺は昼休みが終わってしまうまでに急いで弁当を食べきった。


 信じられない位美味しかったです。




 昼休み明け最初は体育。内容はバスケットボール。


 当然のことながら男女は別々なのだが、同じ体育館での授業のため見ようと思えば見れる。というより見ようとしなくても目に入ってくる。


 だから普通ならクラスの男子共は浮足立っているのだが、今日に限っては何かが違う。


 やる気に満ち溢れているというか、やってやるぞ!という意思を感じる。


 アレか?昼休み、俺が居ない所で何か賭けでも設定したんだろうか。


『なあ晴翔、何かあったのか?』


 事情が掴めないので、先生が話している最中だけど晴翔に聞いてみた。


『色々な。やる気らしいぞ』


 なるほどな……


『昼休みのアレ、しっかり見られていたのか』


 で、皆に嫉妬の炎を燃やされていると。


『そういうことだ。ただの被害者なのにお前も災難だよなあ』


 晴翔は俺の肩をぽんぽんと叩き同情してきた。


『アレは被害じゃない』


 こいつはクラスメイトに嫉妬の炎を燃やされていることではなく、志田先輩に手を繋がれた上に仕事にまで付き合わされた事の方を可哀そうに思って同情してきている。


 ロリコンを拗らせすぎだろ。


『紛れも無くセクハラだろ。想像しただけでもぞっとする』


『ゾッとするんじゃない。歓喜に打ち震えろ』


 まったく、分かっていないな。



 そんな事を話している隙に教師の話は終わり、バスケのチーム分けが始まっていた。


「晴翔、さっさとチーム決めよう」


「そうだな」


 お互いに利害が一致しているので2人で組むことは最初から確定だった。


 そして残りの3人を決めようとしていたのだが、


「お前は敵だ!」


「ナギサ、タオス」


「爆発させてやる!」


 と悉く断られていた。俺を直接倒すためにどうしても敵に回りたいらしい。



「何でアレに嫉妬出来るんだろうなあ」


 その様子を後ろから見ていた晴翔は笑っていた。


「お前と違って普通の人間だからだよ」


「俺はどうみても真っ当な人間じゃないか」


「外面だけな」


 ロリコンの時点で真っ当な人間ではない。


「お前もだろ」


「ただ人よりもこの世の真理に近いだけで普通だ」


 全人類は姉に帰結するんだよ。


「それよりもさっさと決めないと不味いぞ」



 そしてありとあらゆる男に断られ続け、


「これ、本当に良かったのか?」


「クラスの男子の総意なんだから良いんじゃね?」


「これはこれで面白いしね」


「いやあ愉快愉快」


「皆が私達に向けて熱い感情を向けてくるのね。楽しみだわあ」



 俺たちと組むことになったのは、彼女持ちA(バスケ部)、彼女持ちB(ハンドボール部)、オカマ(プロボクサー)の3名。


 名前は順に櫻井隼人、吉田修平、武田啓介である。



 俺を倒すために嫉妬心に溢れる男達だけで固まった結果、クラスの最強メンバーが俺の元に集まる結果となった。


 加えて晴翔はバスケ部以上にバスケが上手いし、俺もクラスで中の上くらいは出来ることになっている。


 クラスメイトの方々はそれでも十分にやる気みたいだけど、下手したらボールすら持てないんじゃないか。

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