第40話
まあそれでも人生で初めて書く小説だったので提出する前は仕方ないだろうなと思っていた。上手く書けるのはプロだからで、プロじゃなければ大体酷い出来だろうと。
しかし、現実はそんなことは無かった。
夏目先輩曰く、今まで見た小説の中で一番の駄作だったと。つまりこれまでに文芸部を訪れたどの初心者よりも才能が無かったということらしい。
自分の才能に自負があった俺はそんなことは無いだろと思い食い下がった。
そしたら夏目先輩の書いた小説を見せられた。内容は相変わらずのR18だったが、素人とは思えないレベルで上手だった。
どうしようもないほどに俺と実力で差があった。
そこでどれだけ全力でやろうとも圧倒的な実力を見せてしまうことは無い確信が産まれた。だから俺は文芸部に入った。
圧倒的な実力者になってはいけないというのが一番にあったのだが、全力を出せる環境というのも無意識下で求めていたんだろうな。
……もしかして、この時点で夏目先輩の事を姉認定していないか?絶対に敵わない圧倒的強者として。
「憧れ……?目標……?いや……」
恐らく俺が夏目先輩に抱いている感情は恐らくそれである。ただし、涼香に似たような感情を抱いているとは思えない。
涼香には絶対に勝てないなって思うことは……いやあった。
バドミントンに対する熱量とあの性格は憧れにしていたかもしれない。
「なるほどな。憧れか。純粋な性癖ということもあるだろうが、それが一番の理由なのだろうな」
「だと思います」
「ならば、恋愛関係に発展するのがおこがましいと感じている理由は横に並べていないと感じるからではないか?」
「横に並べていない……?」
「ああ。お姉さんを立てるために大体の事柄では本来の実力を発揮していないだろ?」
「かもしれないですね」
「だから本気。少なくとも実力を隠すような真似を止めれば、自然と恋愛感情が表に出てくると思うぞ」
「でも本気を出したら弟的立ち位置が……」
東央大学の生徒になったり、プロ顔負けの料理の腕前を見せたりしたら今の関係が崩れ去ってしまうかもしれない。
「大丈夫だ。少年に相手を尊敬する気持ちが残っている限り、今の関係が崩れ去ることは無い。話している限り、少年が本来の実力を発揮したところで嫉妬したり怒ったりするような人物では無いだろう?」
確かに。俺が凄い成果を出して来たら素直に誉めてくれるかもしれない。
「なら問題ないだろ?本気を出せ」
「はい、分かりました」
「良し。じゃあこれからマッサージの練習台になってくれ」
「やっぱりそれはするんですね……」
この日は燐さんから極上のマッサージを受け、心身ともに充足した状態で帰宅した。
それから俺は本来の実力を周囲に隠すことはやめた。
ゆかりさんには本来の学力を開示して東央大学を目指すことを伝え、涼香には本気の料理を振舞った。そして志田先輩には正式に会計になることを伝えた。
まあ小説を書く能力は既に最高値を叩き出しながら頑張っていたので夏目先輩に開示する情報は特になかったけど。
そして最後に、
「勝負しよう、姉さん」
俺は京さんに勝負を挑んだ。
「勝負?何のだ?」
「色々だよ。スポーツとか勉強とか芸術とか諸々。判定はゆかりさんと涼香にやってもらおうかなって思っているよ」
「別に構わないが、手加減してやることは出来ないぞ?」
「大丈夫。これは俺の実力を見せることが一番の目的だから」
本気を出した俺は全体的に優れた能力を持つ。
そのため大半の相手に対しては勝利を収められるのだが、目の前に居る相手は全体的に優れている程度ではどうにもならないレベルの化け物である。
だからこの勝負は京さんに勝利を収めるために挑むのではなく、俺が元々どの程度の実力を持っていたのかを示すこと。そして今後は実力を隠さずに本気の俺を見せていくことを宣言するための戦いだ。
「そうか、遂に見せてくれるのか。弟よ、私に真の実力を見せるがよい!!!」
京さんは高笑いした後、ラスボスのような口調で戦いを受けてくれた。
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