第39話
「さてと。今日はマッサージではなくて女性関係の相談だったな。少年の恋愛感情とは何だろうって話だったよな?」
お互い向かい合うようにソファに座ってから、燐さんは本題に入った。
「そうです。俺は恋愛感情を無理やり抑えつけているだけだって」
お姉さん相手にこのことを話すのは色々と問題な気もするが、既に晴翔から聞いているだろうので覚悟を決めて正直に話すことにした。
「そうだね、少年はお姉さんという人種を愛しすぎるがあまり、神格化している節はあると思う」
「神格化……確かにそうかもしれません」
思い返してみると、お姉さんを神と扱うことは割と多かった気がする。でもあれは神格化じゃなくて本当に神だと思ってしまったので仕方がないよね。
「恐らくそれが良くないんだと思うよ」
「と言われましても。神は神なんで……」
お姉さんを神として扱うのを止めろと言われても、本当にお姉さんは神なんだから仕方ないじゃないですか。
「知ってはいたが相当重症だな……」
「仕方ないです。素晴らしいんですから」
別におかしなことを話したわけでは無い筈なのだが、何故か燐さんは頭を抱えていた。
「まあここら辺は想定内だ。で一つ質問だ。少年が内心お姉さんとして接している相手は全員少年が好意を持っている非常に魅力的な相手。これは間違いないか?」
「勿論です」
魅力的だからお姉さん。お姉さんだからこそ魅力的なのだ。どちらが先かは俺にも分からないけど、これは紛れもない事実である。
「次に一つ。そもそも恋愛感情を誰かに抱いたことはあるか?」
「誰かに恋愛感情、ですか?持ったことないかもしれません」
言われてみれば生まれてこの方誰かに恋をしたという記憶が無い。お姉さんを愛するようになってからではなく、それ以前からずっと。
「なるほどな、大体わかった。少年がお姉さんを敬愛する感情。それが少年の恋愛感情だ」
「お姉さんを敬愛する心が恋愛感情……?」
これはあくまでお姉さんを崇拝する心であって、恋愛とは程遠いと思うんだけど。
よく言うじゃないですか。憧れは理解から最も離れた感情だって。
同じように信心は恋愛感情から離れた感情なんですよ。
「ああ。単に少年はその感情に対する折り合いの付け方が分からず、無意識にお姉さんが好きだという癖に結び付けた結果、そんな歪な形になってしまっているだけだ。何故そんな拗らせ方をしたのかは全く分からないけど」
「折り合いの付け方が分からない、ですか?」
「そうだ。一度どうしてお姉さんだと考えるようになったか、ゆっくり整理してみろ」
「はい」
俺はどうしてお姉さんたちをお姉さん認定していたんだっけ?
出会った瞬間は流石にお姉さん認定をしていなかった筈。
だから全員何かしらのきっかけがあった筈なんだ。
こういうのは昔からの知り合いより、最近知り合った人の方が良いな。具体的に思い出しやすいし。
となると一番はっきり覚えている夏目先輩か。
確か初めて出会ったのは入学式から一週間後くらいだったか。その頃はお姉さんが既に現れていて満たされていたからって理由で心身ともに満たされていたな。今と違って人数も適度だったし。
強制ではないけど部活には入っておかないと学校生活を楽しむことは出来ないと感じていた俺は部活を探していたんだ。
しかし、弟的存在であり続けるためにも優秀すぎる姿を見せてはいけないという制約は既にあったため、本気で取り組む他の部員に失礼だからという理由で競技系の部活は選ぶことが出来なかった。
というわけで自然と文化部系から部活を探すことになった。
しかし、文化部は基本的には女子が8割みたいな部活が大半を占めていた。
女子が多いことは学校生活を彩る上では一般的に良い事だとされている。が、そういう部活を率先して選ぶ気にはなれなかった。別に女子を求めて部活を選びたいわけではなかったからだ。
そんなことを考えていたので部活動探しは難航していた。そんな時に話しかけてきたのが夏目先輩だった。
確か、『部活探しに難航しているみたいだけど、私の部活はどうかしら?』だったっけな。
とりあえず部活を決めたかった俺は一旦その誘いに乗って部室に行った。
するとその部活の正体は文芸部だった。
部室に入ってから部活の概要について説明してもらった後、物は試しだということで実際に小説を少し書いてみることになった。
大体の事は上手くやれる自信があったので小説も同様に初回ながら上手く書けるだろうと思っていたのだが、結果としては全然上手くいかなかった。
国語の成績は本来かなり良いので辛うじて文章にはなっているのだが、内容は全然駄目だった。
俺は情景の描写が出来ない。読者をワクワクさせる展開が思いつかない。話の終わらせ方が分からない。
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