第35話
「と自己紹介はそこまでにして先ほどの話題に戻ろうではないか。私が居ない所での渚はどんな感じなんだ?そうだな、麗華から聞かせてくれないか?」
「私ですか?そうですね、後輩君には生徒会の会計として活躍してもらっています。皆さんはあまりご存じないかもしれないですが、本当に優秀な子で助かっています」
「そうか、確かに弟は相当優秀な上に優しいものな。つい頼りたくなる気持ちもよくわかる」
「志田先輩、俺は会計じゃないんですけど。生徒会とは無関係なただの一般生徒ですけど」
「ちっ、何も言わなければそのまま通ったものを」
しれっと俺がさも生徒会であるかのような事を言っているけど全然違いますからね。勝手に外堀から埋めようとしないでください。
「仕事を手伝っているんだったら生徒会に在籍していた方が良いんじゃないの?内申点とか上がるよ?」
会計であることを嫌がっている俺に対して、そんな疑問をぶつけてきたのは涼香。割とごもっともな話である。
「それはそうだけどさ、1年生時点での生徒会入りって今後生徒会長とか副会長になるって宣言しているようなものでしょ。だから嫌なんだよ」
生徒会長、副会長という立場はどうあがいても弟ではないからね。だから東央大学の生徒になってしまうことと同じくらい避けるべき事柄なのである。
「やはり強情だな。そこまで目立つのが嫌か」
「はい。俺は平穏な学生生活を歩みたいんですよ」
「そうか」
志田先輩は俺が生徒会入りを拒んでいることを最初から知っているので、そこまで抵抗もせず引き下がってくれた。
「なるほどな。ありがとう、良い話を聞けた。じゃあ次は美紅。話を聞かせてくれ」
「私か、私と渚は——」
それから俺の姉たちは俺の話題やそれぞれの日常についての話でかなり盛り上がっていた。
志田先輩と夏目先輩みたいな感じで仲悪い組み合わせが生まれるかもしれないと危惧していたのだが、流石は全員姉属性持ちだった。
「そろそろ時間だからお開きにしましょうか。長居してもアレですし」
という志田先輩の発言で気づいたが集まってから既に5時間くらい経っており、高校生はそろそろ帰宅しなければならない時間帯になっていた。
俺は姉鑑賞で幸せだったからあっという間だったけれど、姉達はただ談笑しているだけで5時間なんて凄い。男だけで集まったら絶対にゲームするか各々スマホ弄って寛いでいるぞ。
「そうだな、ではタクシーを呼ぶから待っていてくれ」
「え、大丈夫ですよ」
「そんなに遠くないですしまだ6時手前だから大丈夫ですよ」
すると京さんは当然のようにタクシーを呼ぼうとしたので、志田先輩と涼香は全力で阻止しようとした。
「気にするな。これは単に私がそうしたいだけだ。それにお金はかなり余っているからこの程度無と同じだ。謙遜するよりもお礼を言ってくれた方が嬉しい」
「はい、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
京さんがそう言うと、二人は素直に引き下がってお礼を言った。
恐らく京さんの全財産について知ってしまったせいでそれ以上言い返すことは出来なかったらしい。
正直気持ちは分かる。俺も初めて会った時に全財産の入った通帳を見せられて腰が抜けかけたし。
「じゃあ今日はありがとうございました!」
「またお話ししましょう」
「さよなら」
「またな!!」
「お気をつけて!!」
「またお話ししましょう」
それから数分後にタクシーが到着したので、志田先輩、夏目先輩、涼香はタクシーに乗って帰宅した。
「ふう、じゃあ今からご飯を作りますね」
「良いのか?5時間も私たちの話に付き合って疲れなかったか?」
「そうだよ。途中から一切喋っていなかったでしょ?」
いつも通りに飯を作ろうとする俺を気遣う二人。
「俺もちゃんと楽しかったから疲れてないですよ」
「そうか?確かに疲れていないようには見えるが」
「そう見えるなら気にしないでください。そもそも食材は既に冷蔵庫に入っているので使わなきゃダメになるんですよ」
「ならお願いしようかな」
「はい、待っていてください」
ゆかりさんの家に戻った俺は事前にゆかりさんの冷蔵庫に入れていた食材で夕食を作って二人にふるまった。
「じゃあ食べましょうか」
「「「いただきます」」」
今日の献立はハンバーグ、味噌汁、ご飯、漬物のいわゆるハンバーグ定食というやつだ。
今日はゆかりさんが料理を振舞う流れになってしまうことを危惧して、念のため色々と誤魔化しやすいようにしておいたのだ。
味噌汁は誰が作ろうと大差ないし、漬物は事前に準備するだけ。ご飯は炊くだけなので特に問題ない。
そしてこの中で難易度高めなハンバーグについてだが、ゆかりさんは料理は手先は器用な方らしいので成型だけの状況までサポートすればどうにかなる。
成型は家庭科というよりは図画工作に近いしね。
という感じで誤魔化し力に特化した今回の献立だが、実力とかがほぼほぼ味に影響しないのでどれだけ頑張っても味には上限があるのが難点である。
「相変わらず美味しいね」
「そうだな。まるでプロみたいだ」
「ありがとうございます」
それでも二人は喜んでくれているみたいだし良いか。
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