第15話

「とりあえずこれからご飯作るつもりなんだけど、姉さんも食べる?」


「出前取らないのか?良い感じの所を何個か見繕ってきたんだが」


「それは有難いんだけど、お隣さんの分も作らないといけないから」


「お隣さん?」


「うん、実はね————」


 事情を知らない姉さんにゆかりさんについての説明をした。


「そうか、流石だな」


 何か文句でも言われるかなと思ったけれど、全くそんな事は無くただただ頭を撫でられた。


 ちょっと幸せ。


「ありがと。で、姉さんは食べる?」


「勿論。弟の手料理なんて最高の贅沢品。絶対に食べたいに決まっているじゃないか」


「そっか、じゃあ出来るまでここで寛いでて」


「手伝わなくても良いのか?」


「大丈夫。いつも一人でやってるし、2人で分業できるほどキッチンは広くないから」


「そうか、ではありがたく寛がせてもらうぞ」


 そう言って姉さんは一切の迷いなく俺のベッドに飛び込んだ。


 その光景を見た俺は倫理観と欲望を戦わせた結果、欲望が勝ったので何も言わないことにした。



 にしても天才が変わり者って本当なんだなあ。


 どうして出会って2カ月足らずの義弟をここまで可愛がってくれるんだろう。


 まあ血のつながった姉弟だったとしても過剰だけど。


「いやあ、寛げるなあ!」


 なんか俺の枕を抱き枕みたいに強く抱きしめながら言っているよ。




「考えるだけ無駄だわ」


 料理しよ料理。



 元々夕食は二人分の食材しか買ってこなかったので、朝食分に買ってきた分も使って強引に3人分の夕食に仕立て上げた。


 朝食分が足りなくなったら買い足すだけだからね。


「出来た」


 一人暮らし用の道具で三人前が作れるかは怪しかったけれど、意外となんとかなるもんだ。


「おお!世界一美味しそうだ!」


「せめて見てから言ってくれないかな」


 料理している間ベッドから一時たりとも出ていないでしょうが。


「匂いで分かる!」


「さいですか」


 確かに今回の料理は良い匂いだとは思うけどさ。


「じゃあ早速食べに行こうではないか!行くぞ!」


 食べるのが待ちきれないらしく、俺を急かしてきた。


「分かったよ」




「こんばんは」


「こんばんは~渚君、とそこの美人さんは?」


「私は渚の姉である春川京だ!よろしく!」


「ああ、お姉さんね。はじめまして、菅原ゆかりって言います」


「ではゆかりさん、早速お邪魔しても良いか?」


「勿論。渚君のお姉さんならいつでも歓迎しますよ」


「そうか!では!」


 かなりタイプが異なる2人だが、特に喧嘩することも無さそうで良かった。



「「「いただきます」」」


 そして机を用意し、そのまま夕食を食べ始めた。


「美味い!!!」


「渚くんの作る料理だからね。やっぱり美味しいよ」


「それは良かったです」


 朝食用の食材を無理やり使った関係で、半分くらいが即興で考えたものだったので少し不安はあったけれど、好評みたいで良かった。


「こんな素晴らしい料理を毎日食べられるゆかりは幸せ者だな!」


「姉さん、恥ずかしいからやめて」


 友達が言うならともかく、家族が言っちゃうと恩の押し売りみたいになっちゃうから。


「本当に幸せ者だよね。ねえ京さん、弟君を私にいただけませんか?」


「駄目に決まってるだろ!弟はどこにもやらんぞ!!!!」


「姉さん、それは娘に言う奴だよ。そしてゆかりさん、そんな冗談は言わないでください」


 勘違いで舞い上がってしまうじゃないか。


 そういう美人のお姉さんの一言で人生が狂ってしまう人が居るんですよ。自分の発言には気を付けてください。


「あらら、振られちゃった。別に冗談ってわけじゃなかったのに~」


「え?」


 勘違いではなかった?


「私専属の料理人としてずっと一緒に居て欲しいなあって」


「ああ、そういうことですか」


 普通に勘違いでした。


「それでも駄目に決まっているだろう。専属の料理人になってもらうなら私以外ありえない。なあ弟よ」


 そう言って京はその豊満な胸で抱きしめてくる。


「ご飯を食べている間は抱き着かないで。危ないから」


 普通の力なら問題無いかもしれないけど、姉さんの力が強すぎるのでフォークとか箸を巻き込んだ際にワンチャン死ぬ恐れがある。


「おっと、すまない」


 流石に弟の危険は案じてくれるようで、すぐに開放してくれた。


「二人とも仲良いね~。でもなんか姉弟っぽくはないような気がする」


 そんな俺たちの様子を微笑ましそうに見つつ、やたら鋭い感想を述べた。


「割と最近姉弟になれたばかりだからな。そう思っても仕方ない」


「親の再婚ってこと?」


「そういうことだ。姉弟歴はまだ2カ月足らずだ」


「そうなんだ~」


「羨ましいだろう?ゆかりよ!」


「そうだね~」


 割と驚きの事実だった気がするのだけれど、ゆかりさんは明日の天気を聞いた時くらいのリアクションだった。


「ごちそうさま、2人は今の内に朝食の食材を買ってくるから食べてて」


 2人が話している間にご飯を食べきった俺は、そのまま食材を買いに行くことにした。今の様子を見る限り喧嘩することは無いだろうしね。



 買い物を済ませ、自分の家に食材を詰め込んだ後ゆかりさんの家に戻る。


「戻りました~」


 俺が居ない間に男が入ってはいけない状況になっていたら不味いので、そこそこ声を張った。


 反応は無かったが、姉さんの大きな笑い声が聞こえてくる。多分この笑い声なら健全な状態だと思う。


 ゆっくりと扉を開くと、

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