第10話
今回の小説のタイトルは『精神破壊————(自主規制)』
ふんわりと今回の内容を伝えると、女性が男の脳をなんやかんやしてからあれこれする話である。
「相変わらず残虐な内容で」
この人の書く小説はR-18の中でも残虐性が高い事が多い。
ミステリー小説と違って誰かが死ぬことは無いのだが、大抵は死んだほうがマシな目にあっている。
「面白かったかしら?」
「はい」
夏目先輩が書いたという事実が若干のバフをかけているとはいっても、純粋に読み物として面白かった。
文量としては3万字と通常の単行本と比べるとかなり少ない分量だが、それに匹敵する満足度があった。
R-18だったけれど。
「そう。なら早速アップするわ」
そう言って夏目先輩はパソコンを操作し、あっという間に投稿を済ませた。
今回も出来が良かったので、夜までにはランキング1位を獲得するんだろうな。
「じゃあ、次はあなたの番よ」
「読むんですか?」
「勿論。あなたも文芸部員なのだから」
「そうですけど……」
確かに俺は文芸部員である。
まあ入りたくて入ったわけではなく、夏目先輩に半強制的に入らせられたのだけど。
「なら見せなさい。あなたの事だからどうせ書いてはいるんでしょう?」
「書いてはいますけど……」
今度文芸部に来るときまでに書いておくように言われているので当然執筆済みである。姉を失望させるわけにはいかないからね。
だけど、人に見せられたものかという点においては別だ。
一応俺の持っている能力を全て使って書いた。だけれど、夏目先輩には遠く及ばないし、なんなら小説を書いたことが無い人よりも下手な自信がある。
勉学、運動、料理等、ありとあらゆる方面に才能を見せる春川渚15歳だが、小説を書くという一点だけは才能が無かった。
理由は分からない。それが才能なのだから。
そんな俺が書いた小説をいくら命令といっても、夏目先輩に見せたくはなかった。
お互いの為にならないからだ。
俺の小説を読む時間があるのなら、ミステリー小説の一冊や二冊でも読んだ方が確実に良い。
夏目先輩は才能があるんだから。使いどころは置いておくとして。
「分かったわ。じゃあ勝手に読むわね」
そう言って何故か夏目先輩は自身のノートパソコンを見始めた。
「え?」
何が何だか分からなかったので、夏目先輩のパソコンを覗き込む。
すると目に飛び込んできたのは、
『恋愛という不可侵の条項について』春川渚
という俺が頭を抱えながら書きあげたゴミみたいな小説だ。
「なんでデータを持っているんですか?」
「拉致している最中にあなたのスマホからデータを回収したからよ」
「はい?」
なんかこの人拉致よりもヤバい犯罪を堂々と宣言しているんだけど。
「安心して。あなたのワード以外には手を付けていないから」
「そういう問題じゃなくてですね」
俺のスマホ、顔認証どころか指紋認証すらオフにしているんですが。パスワード入力しないと開かないんだけど。
「080506。自分の電話番号の頭6桁にするのは良くないと思うわよ」
「え?」
エスパーなのかなこの人。誰にも言ってないんだけど。
「だから010819に変えておいたわ。私の携帯電話の番号なら他の誰にもバレないわ」
「何故国外からかける前提なんですかね」
010は国際電話をかける際、電話番号を入力する前に必要になる番号。
81は日本の国際番号で、080から始まる電話番号にかける場合、最初の0を81に書き換えて8180となる。
つまり国外から日本に国際電話をかけたい場合、【01081+電話番号の二桁目以降】を入力する必要がある。
ここから推察される夏目先輩の電話番号に関する情報は、090から始まるという一点のみ。
「当然あなたが海外に行くからに決まっているじゃない」
海外行くの俺なんだ。こういうのって夏目先輩が突然海外に行く伏線じゃん。確かに日本に国際電話してるから正しいけどさ。
「何故俺って顔しているけど当然じゃない。私は日本語以外話せないんだから」
「そんな自信満々に言わないでください。そして俺も日本語しか無理ですよ」
少しくらいなら分かるけど、流石に外国で生きるのは無理です。
「あら、残念だわ」
「レベルの高い所で失望しないでください」
日本人の大半は海外移住できるほどの言語力は無いんだから。
「と、そんな事はどうでも良いわ。私は今からあなたの書いた小説を読むからそこで黙って座っていなさい」
「ちっ」
流れで小説を読まなくならないかなとか思ったけど無駄だったか。
仕方ないので読み終わるのを待つことに。
やっぱり様になるな……
ソファに座り、一人小さな文庫本を読んでいる姿のパワーには若干劣るが、ノートパソコンを穏やかな表情で眺めているのも中々に素晴らしい。
こんな神の御姿を一人で独占出来る俺は幸せだなあ……
そんな幸せな時間を過ごして早10分。
俺の書いた小説を読み終わったらしく、ノートパソコンをパタンと閉じた。
「早くないですか?」
出来ない出来ないと思いつつも、小説を書くのは夏目先輩の指示だったので結構な量を書いた筈なんだけどな。
「この量だったらそんなものよ」
そんなものって。俺が同じくらいの量読んだら30分はかかるんですが。
「流石夏目先輩です」
まあ夏目先輩だからな。これくらいやってもおかしくはない。
「ありがとう。で、早速感想を話そうかしら」
と穏やかな笑みを浮かべながら悍ましい事を言ってきた。
鏡で見ていないのではっきりとは分からないが、多分俺の顔はかなり青ざめていると思う。
「結論としては、まあまあだったわ」
そんな俺の顔色を気にしてくれるわけもなく、感想を言い始めた。
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