第33話

 それから1週間後の土曜日、ゆかりさんの家にて。


「はじめまして!平塚涼香です!」


「私は志田麗華だ。よろしく」


「夏目美玖。どうしてこの女を呼んだの?」


「菅原ゆかりです。今日はよろしくね」


 本当にこの四人が一堂に会してしまった。


 同級生の女の子が皆さんに会ってみたいんですよって言ったら、まさか全員がOKを出すとは。特に夏目先輩は出すとは思わなかった。


「今日は特に何かをしようってわけではなくて、とりあえずお話をしようって会です。渚のお姉さんとしては渚がお世話になっている方とは仲良くしておきたいので」


「あれ、涼香さんって渚くんの同級生よね?」


 皆の前で堂々と俺の姉を名乗る涼香に対して、義姉を知るゆかりさんは不思議そうに聞いた。


「はい。でもお姉さんなんです」


 しかし、涼香は一切ぶれることなく堂々と姉を宣言する。


「まさかあなた、この可愛らしい女の子にそういうプレイをしているの……?」


「夏目先輩、あなたほど変態的な思考はしてないです。ちゃんと事情があるんですよ。涼香とはですね——」


 このままだと夏目先輩に変態認定されそうだったのでざっくりと涼香との出来事を話した。



「なるほど。そんな昔からそんなプレイが好きだったのね……」


「夏目先輩」


「分かってるわ。子供の頃は女の子の方が成長は早いらしいものね。お互いに年齢を勘違いするのは仕方ないわ」


「そういうことです」


 どうにか夏目先輩は納得してくれたようだ。とりあえず一安心。



「ってことは高校に入ってお姉さんが一人じゃなくて二人増えたのね」


「そうなります」


「二人とは?」


 二人と聞いた志田先輩は不思議そうな顔をしていた。


 そういえば志田先輩には言ってなかったっけ。


「高校入学直前に父親が再婚して義姉が実際に出来たんですよ」


「どんな人なんだ?」


「色々と凄い人です。東央大学の生徒で、馬鹿みたいにお金を稼いでいる資産家ですね」


「資産家……?起業家じゃなくてか?」


「はい。あの人株のデイトレードだけで天文学的な額を稼いでいるので」


「結構難易度が高そうだが……まあ後輩君の姉ならそれくらいしてもおかしくはないか」


「渚の姉なら?」


「いや、こっちの話だ。悪い悪い」


 志田先輩。俺を高く見積もりすぎじゃないですかね。確かに俺は優秀な方かもしれませんが、ちゃんと現実的な範囲ですよ。


「そんな義姉が居るのか。是非とも会ってみたいな。新しい小説の参考にしたい」


「駄目です。参考にはさせません」


 俺の姉を勝手にR18に登場させるのは駄目に決まっていますよね。


「別に小説に出すくらい良いんじゃない?主役にしたらかなり映えそうだと思うけど」


 そんな事情を一切知らないゆかりさんは不思議そうな顔をしていた。


「ゆかりさん、こいつの書く小説の登場人物に実在の人物をモデルにしたものを出させるのは倫理的に問題があるんですよ」


 すると、俺が事情を説明するよりも前に志田先輩がゆかりさんに説明していた。どうやらこの人も夏目先輩の小説を読んだことがあるらしい。


「倫理的に?」


「うん。だからこの話題はやめよう」


 涼香も俺たちが必死に止めるのを聞いて事情を知りたがったが、伝えるべきではない。


「まあ、それはともかくとしてあなたの義姉がどんな人間なのか実際に会って確かめてみたいのは事実よ。今から呼べたりしないかしら?」


 あの人色々と属性てんこ盛りだから会いたい気持ちはよくわかる。


「気持ちは分かりますし、呼んだらすぐに来ますが駄目ですね」


 だが、この場面に呼び出すのは確実にNGである。確実に収集がつかなくなる自信がある。


 あの人は本当に何をしでかすか分からないからね。


「この場に居ない人の話は後ですることにして、私たちの話をしましょうか。ゆかりさんは恐らく大学生ですよね。今はどの大学に通われているのですか?」


「私?東央大学の医学部だよ」


「それは凄いですね。ということはかなり勉強されたのですか?」


「うーん。確かにしたと言えばしたのかな」


「私も——」



 とそれから女性陣は30分ほどお互いの話で盛り上がっていた。


 相変わらず志田先輩と夏目先輩の仲は険悪なものの、それ以外はかなり打ち解けていた。


 姉同士が仲良くしている様って素晴らしいね。


「皆さんと一緒に居るときの渚ってどんな感じですか?」


 これで無事に終わるな……と思っていたら涼香が突然俺についての話を始めようとした。


「え?」


 女子会を邪魔しないように少し離れたところから楽しく聞いていたが、思わず声をあげてしまった。


「渚のお姉さんとしてはやっぱり私の前以外の渚を知っておきたいじゃん?」


「別に良くない?」


「ダメ。今日はほぼこれの為に来たようなものだし」


「そうだぞ。姉として弟の全てを知るのは義務だからな」

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