第19話 出張版 9(クリスマス)

 こんにちは。 梼原ゆすはら 有鹿あるかです。

 皆さんはいかがお過ごしでしょうか? 神都オラトリアムはすっかり冬で景色は雪で真っ白です。

 この体なので寒さには多少は強いのですが、寒いものは寒いので外に出るのが少し億劫と感じてしまいますね。


 そんな中、わたしは雪の中を歩いています。 そろそろ日も暮れる時間なので冷え込みも厳しくなってきた。

 ここは神都オラトリアムにある研究所へと向かう道。 オークさんやトロールさんが除雪作業を行っている傍を通って目的地へ。 入口で要件を伝えると巨大なゲートが開いてそのまま入る。


 敷地内では魔導外骨格やエグリゴリシリーズが動き回っていた。

 何やら叫んでいる声に耳を傾けると雪上作業などの訓練中みたい。

 

 「えーっと確か場所は二十番格納庫だったかな」


 そう呟きながら敷地の外れにある格納庫へ向かう。 壁に大きく二十番と書かれた倉庫のような建物を見つけたので念の為、近くにいた警備の人に確認すると合っていると言われたのでノックして中へ。

 

 「お、来たな。 待っとったで」

 「いらっしゃい。 来てくれてありがとう」


 そこに居たのは首途さんとアスピザルさん、後は夜ノ森さんと瓢箪山さんだった。

 夜ノ森さんは小さく手を振っていたのでわたしも振り返す。

 瓢箪山さんはどうもと小さく頭を下げていたのでわたしもこんにちはと頭を小さく下げる。


 「さて、面子も揃ったし早速始めよっか」

 「いや、その前に何で俺と梼原さん呼ばれたんですか? 俺、まだ収録のノルマが残ってるんですけど……」

 「グアダルーペさんの許可は取ったから大丈夫だよ。 睡眠時間を削るから問題ないって」

 「……鬼かよ。 帰りてぇ……」


 無情な現実を突きつけられた瓢箪山さんはがっくりと肩を落としていたけど、疑問はもっともだった。 わたし達はいったい何の用事で呼ばれたんだろう。

 アスピザルさんは腕を組んでうんうんと頷く。 


 「さて、梼原さんと瓢箪山さんの二人に来て貰ったのは他でもない。 君達にしかできない事があるからだよ」

 

 わたしと瓢箪山さんとで思わず顔を見合わせる。


 「はぁ、なんっすかね」

 「ところで今は冬だね」

 「冬っすね。 ぶっちゃけ寒いんであったかい部屋に行きたいです」

 「冬と言えば何かな?」

 「……あー、雪かき?」

 

 咄嗟に出てこなかったのでわたしも何だろうと首を捻る。

 アスピザルさんはわたし達の回答を待たずにビシッと指を立てた。


 「ズバリ、クリスマスだ!」

 「あ、あー、そういう事か。 オチ読めて来た」

 

 わたしもだった。 

 以前にローさんがやらされていた事を今度はわたし達がやらされる未来が即座に脳裏に浮かぶ。

 首途さんが持っていた謎のスイッチを押すと床が開いて大きなソリが上がってくる。


 ソリの横にはアスピザルさんの飼っている頭が二つある犬――タロウがいた。

 

 「さて、二人にはこれからサンタさんとしてこのオラトリアムにプレゼントを配るんだ」

 「ですよねー……。 ってか俺と梼原さんだけでやるんすか? ここどんだけ広いと思ってるんですか!? 回り切るのは無理っすよ!」

 「あぁ、それは大丈夫。 他にもサンタは用意してるから手分けしていく感じになるよ。 君達は割り当てられた場所を回るだけでいいから」


 あ、そうなんだ。 それだったらそこまで難しくないかも。


 「いやー、今回もローに頼もうと思ったんだけど、今あんな感じだからちょっと、ね」


 この世界の王であるローさんは少し前に旅を終えて帰って来たけど、その後はある場所へ行ったきり出てこない。 その為、あの人に何かを振るのは基本的にNGだ。

 

 「分かりました! 瓢箪山さんと頑張ってサンタさんやりますね!」


 変な方向に流れた話題と断っても無駄な事は分かり切っているのでここははい喜んでと動くのが吉!

 遅くなるともっと寒くなるので早めに片付けよう。 そんな気持ちでソリの方へと向かう。

 わたし達が並んで座れるサイズで、後ろには転移魔石内蔵のプレゼント袋。 座席にはサンタの衣装があったので袖を通して準備完了だ。 瓢箪山さんもわたしと同じ結論に至ったのかそそくさと着替えて席に着く。 


 「やる気になってくれて嬉しいよ。 道はタロウが知ってるから二人は到着先にいる相手にプレゼントを渡すだけでいいから」


 タロウがワンと鳴いて位置に付き、夜ノ森さんと首途さんがソリとタロウの体を固定。

 後はわたし達が座って準備は完了だ。 


 「じゃあよろしくね~。 報酬は弾むから期待しててね!」

 「ういー、できれば次からは心の準備をしたいから前日には教えてくださいよ~」


 格納庫の扉が開き暗くなった外の景色が見える。

 タロウが走り出しソリが引っ張られて前に進む。 クリスマスの夜の始まりだ。

 ソリは軽快に雪道を進む。 風で寒いかと思ったけど何か仕込んでいるみたいで魔法で風は防御され、ソリ自体が熱を発しているので暖かい。


 「あ、吹き曝しじゃなくて良かった~。 あ、梼原さん、今日はよろしく」

 「こちらこそ。 お互い、大変だね」

 「そっすね。 ま、宅配の仕事だと思えば気楽にやれるんで頑張っていきましょう。 で? 最初はどこっすか?」

 「えーっとリストを貰ってたんだけど――えっとなになに――」


 サンタ服のポケットに入っていた回る場所のリストに目を通し――固まった。

 わたしの様子を見て瓢箪山さんがやや訝しむ。 わたしは無言で書いた紙を彼に差し出す。

 受け取った瓢箪山さんはリストに目を通し――固まった。


 「あの、帰っていいっすかね?」

 「家の方だよ?」

 

 わたしの返しに瓢箪山さんはがっくりと項垂れた。


 


 「め、めりー……クリスマス」


 瓢箪山さんは泣いているような震え声で袋から取り出したプレゼントの入った箱を差し出していた。

 相手はグアダルーペさん。 彼女は差し出された箱をそっと受け取る。

 瓢箪山さんは恐怖を感じているのか呼吸が荒くなり体は小刻みに震えていた。


 わたしはその様子からそっと目を逸らし見て見ぬ振りをする。

 わたしは寡黙なサンタさん。 何も見えない聞こえない。

 

 「ありがとう。 とても嬉しいわ」


 グアダルーペさんはにっこりと笑って見せる。

 顔がファティマさんと同じだから笑うと凄い可愛いんだよねこの人。

 わたしからすれば魅力的な笑顔だけど瓢箪山さんにはそうではないようで、笑顔を見た瞬間にひいと小さな悲鳴を上げていた。

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