第6話 三章②

 ――話を戻そう。

 迷宮内部に関してだが、洞窟のように道が地下へと伸びておりそこには様々な植物が種類を問わずに自生している。

 奇妙な点は普通なら日光の入らないような地底に生える訳がない種類のものもある事だ。 俺の前世から持ち越した死ぬほど薄っぺらい知識でも植物の生育には日光やそれに類する光が必要な事ぐらいは分かる。 

 そのはずなのだが、一寸先ですら見通せないような真っ暗闇でも内部の植物は元気に育っているらしい。 比較的浅い位置はそこまで危険ではないので、相当数の冒険者が薬草を求めて毎日せっせと草むしりに勤しんでいる。 

 仮に丸坊主にしても勝手に生えて来るので採集場所としてならここ以上の場所は世界にもそうないだろう。 お陰で魔法薬関係でもこの街は注目されている。

 迷宮一つで様々な分野から利益が出るのだから経済効果の高さが窺えるな。 このエリアは上層などと呼ばれており、安全なエリアとして気軽に出入りできる。

 問題はその先だ。 奥へ潜ると過去に地上に出て来ていたスケールアップした食虫植物が大量に湧いて出てくるらしい。 配置されているのではなく文字通り湧いて出てくる・・・・・・・のだ。

 壁や天井から唐突に生えて来るらしい。 この辺は逃げて来た連中からの証言のみなので、信憑性は上層の話に比べれば少し低くなる。 理由は逃げて来る連中はかなりのパニック状態で、洞窟は真っ暗。

 何らかの手段で光源を用意して進む必要があるので死角も多い。 その為、本当に壁から湧いて来たのか?と疑問視する声も多いようだ。

 それでも有力とされているのは証言の数が多いからだ。 ギルドでは三十三回目の募集をしていた通り、既に結構な数の試行を繰り返しているのだ。

 その上で得た情報であるのなら信じてもいいだろうといった気にはなる。 その危険なエリアを中層と呼称しており、どうにか突破を試みているのが現状だ。

 一時はグノーシスから上位の聖騎士を派遣してはといった案も出はしたのだが、領主がそれを突っぱねたらしい。 これに関しては何となく分かるな。

 迷宮は突破されていない内が一番儲かる。 仮に踏破者が出て全容が明らかになってしまうと最奥へ挑む者が減る可能性が高い。

 領主の用意したクリア特典は先着一名――いや、一グループか――になる。 次回以降は突破者といった箔は付くだろうが人生を引っくり返せるような豪華賞品は出ない。

 まぁ、最奥に行くに足る何かがあるというのなら別の付加価値が付くだろうが、個人的にはその可能性は低いだろう。

 俺のような異世界でフィクションにどっぷり浸かった人間なら迷宮にどんな印象を持つか?湧いて来る魔物に宝箱、罠にボス、パターンによってはクリア後は出口への転移か。

 ゲーム的――この場合はシステマチックとでもいうべきだろう。 踏破される事を前提とした何らかの機能を備えた構造体。

 俺の認識ではダンジョンはそういったもので、前知識がない状態ではそんな先入観があった。 実際に目にして話を聞いてみるとイメージとは根本的な部分で違うと分かる。

 迷宮ではなく遺跡が俺の語彙ではこの地下へ広がる構造体を的確に表現していると思っている。 自然に出来たのか何かの意思で生み出されたのか不明だが、最奥まで到達した者に褒美を恵んでくれるような優しい場所ではない。

 その一点だけは断言できそうだった。

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