第7話 三章③

 その植物による奇襲を受けた冒険者達は混乱の渦に叩き落とされた。 蕾のような外見をしているが開いた時に出てくるのは花ではなく種だ。

 高速で射出されたそれは銃弾のような速度と銃弾以上の破壊力を以って牙を剥く。 安物の軽鎧程度なら容易く貫通して対象の体内に潜り込むと内部に致命的な破壊を齎す。

 「種だ! 種を飛ばしてくるぞ!」

 この碌に視界が利かない中で攻撃の正体を見切った者の洞察力は優れてはいたが、知った所で放たれた後では意味のない事だった。

 指揮を執っていたホンガムは突然の奇襲に頭が追いついて来ていなかった。     

 彼は青一級という比較的、高ランクの冒険者ではあったが、ここまで上がれたのは運があったからだ。

 パーティーメンバーに恵まれ、明確な格上と対峙する事もなく順調に戦績を重ねて昇級。 苦労はあったが明確な命に危機に遭遇した事がなかったのだ。

 その結果、彼は自分達の実力を過大評価し、身の丈に合わない名誉を求めるようになってしまった。

 今回の依頼も迷宮の踏破者といった箔付けと名誉、とどめに莫大な報酬まで手に入るので受けない理由がない好条件の依頼。

 しかし、彼は致命的な部分に思い至れなかった。 冒険者を束ねる者には高ランクを当てる。

 至極もっともな話だが、ホンガムは青の一級冒険者なのだ。 つまり最高ランクの金を除けば上から数えて四番目・・・の位になる。

 上位である赤の冒険者達は何故、この依頼を請けないのか? 簡単な話だ。 上位の冒険者は自らの力量を正確に把握し、身の丈に合わない危険な依頼は断るからだ。

 その点を理解できなかったホンガムと彼に率いられた者達は自らの失敗を自覚する事なく死地へと足を踏み入れる事となる。

 この時点で既に終わりに片足を突っ込んでいるが、彼らは更に大きな見落としをしていた。

 植物による奇襲は全て罠に分類される。 なら魔物はどこから現れるのか? その疑問に行きつけなかった。

 動く植物ムービングプラントそう呼称される何かは出現こそは確認されているがどのような経緯で現れるかがはっきりしていない。

 それには理由があった。 視界の利かない洞窟内、突然の奇襲、そして包囲された事による混乱。

 この三つの要素がこれまでに訪れた全ての者達の理解を阻んだ。 動く植物の発生条件、それは――

 ――不意に死体がビクリと痙攣するように動きす。

 彼はホンガムに撤退を強く勧め、つい先ほど額に風穴を開けられて即死した男だ。

 額の傷からパキパキと何かが軋む音が響き、傷口や目や鼻などの開口部から木の枝が噴出。 そのまま全身を覆い尽くす。

 彼らだった存在は肉体に僅かに残った機能を奪われ、仲間だった者達へと襲いかかる。

 「動く植物ムービングプラントだ! クソッ、いったいどこから湧いてきやがったんだ!?」

 意識が死体に向かない事もあって唐突に湧いて来たかのように見えるのだ。

 「付き合ってられるか! 俺は逃げさせて貰うぞ!」「誰か! 誰か助けてくれ足に、足に蔦が!」

 「止めろこの化け物、触るな、触っぁぁぁぁぁぁ!!!」「相棒ぉぉ、どこに行っちまったんだよぉぉぉ」

 こうなってしまえば統制など取れる訳もなく、冒険者達は蜘蛛の子を散らすように逃亡を始める。

 立て直しを行うはずのホンガムが呆けているので根本的な部分でどうしようもなかった。

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