第15話 出張版 5
二つの大陸が連なるクロノカイロス改め、神都オラトリアム。
元々、この世界に存在し、手付かずの自然だった左側の大陸はその中心に巨大な大樹が天へと伸び、そこを中心に広大な畑が存在している。 そこでは様々な種族の者達が収穫作業に従事していた。
最も多いのはゴブリン、オーク、トロールの亜人種達。 彼等は首にタオルを巻き、頭には麦わら帽子を被り背負った籠いっぱいに詰まった野菜や果物を運搬していた。
そんな彼等の何名かが腰に下げている箱型の魔法道具から軽快な音楽が流れる。
『はい、皆さんこんにちは。 オラトリアムラジオ、略してオララジ始まります。 メインパーソナリティーは毎度おなじみ瓢箪山 重一郎がシュドラス城放送局からお送りします』
携帯型のラジオからはこの日常とは切っても切り離せなくなった住民の娯楽――ラジオが始まる。
『ところでオープニングテーマを入れてみたんですが、どうでしょう? 個人的にはいい感じだと思っています。 良かったら感想をお便りで送ってくれると嬉しいです。 さて、随分と開発も進み、他の大陸へ手を付け始めてるみたいですね。 旧ヴァーサリイ大陸への開拓船団に参加する皆さんは頑張ってください。 ――まぁ、前置きは置いておいて、今回はゲストが来てくれました。 やったぜ! はい、では自己紹介をお願いします!』
『ども! こんにちは! マリシュカ・ガライ・フニャディです! ファティマ様の護衛をやってます! よろしくね!』
響いたのは快活な印象を受ける女性の声。
瓢箪山は嬉しそうに「いいね、いいね」と相槌を打つ。
『いやぁ、作戦とかでちょっと絡んだ事はあるんだけど、落ち着いて話すのは初めてですね。 よろしくお願いしますよ』
『よろしくよろしく。 ヒョウタンヤマ君のラジオはいつも聞いてるから一回出てみたかったんだよね~』
『マジで? いやぁ、そう言ってくれると嬉しいなぁ。 折角来てくれたし、言える範囲でいいから仕事の事とか教えてよ』
『いいよー。 ただ、何でもは答えられないからね』
『勿論、普段はファティマさんの護衛やってるのは知ってるけど、護衛の仕事ってどんな感じ?』
『昔だったらファティマ様に付いて回ってあちこち行ってたけど、今は専ら身の回りのお世話とかかな?』
『ごめん、身の回りの世話って俺みたいな一般市民には上手く想像できないんだけど、具体的に何するの? 着替え用意したりとか?』
『それも偶にやるけど城に居る時はメイドがやるかな。 供回りはエルとルカがいるからあたしはスケジュールの管理や手が足りない時に代行で現場行ったりとかだね』
『挙がった名前はいつも一緒の同僚さんかな?』
『そうそう。 長い付き合いの親友でもあるよ』
『あぁ、そういやオフルマズドの時からだったけか』
『一応、記憶上では聖騎士の養成学校時代からだね。 そう言えばヒョウタンヤマ君もオフルマズドの後に入ったんだっけ? テュケとの絡みって殆どなかったから辛うじて面識はあったぐらい?』
『あー、そういやそうか。 いや、申し訳ないんだけど、聖殿騎士と聖堂騎士って皆、全身鎧だからあんまり個人の見分けが付け辛いから精々、聖堂騎士の人ってぐらいの認識だったな』
『そっかー、そうだよね。 あたしも異邦人って一括りにしてたと思うわ』
『あの時は割と行動に制限がかかってたから無理ないかぁ。 ――にしても振り返ってみれば遠くまで来たなぁ。 正直、タウミエル戦では死ぬかと思ったからなおさらだよ』
『大変だったねー。 あたしらは本格的に戦いに出たのは終盤だったから割とマシだったけど、前線は損耗率エグかったからねぇ……』
『まぁ、今だからこうして振り返れるって感じですね。 さて、暗めの話題は置いといて何かあるんじゃなかったかな?』
『あ、そうそう。 実はですね、ダーザイン食堂では気軽に食べられる食事をと異邦人的にいうならファーストフードを始めたんでそれの宣伝をしに来たんだよ!』
『……いつかは来るとは思ってたけどついにバーガーとポテト来ちゃったかぁ。 で? 何でダーザインと関係ないのに宣伝やってるの?』
『宣伝したら食券くれるっていうから!』
『すっげぇ力強い返事来たな』
『ちょうど仕事も休みだし、あたしってダーザイン食堂の常連だし? 宣伝したら試作品の試食もさせてくれるって言うから二つ返事で引き受けたね!』
『そういや、梼原さんから聞いたけど入り浸ってるんだっけ?』
『言い方がちょっと引っかかるけど生活の一部と言っても過言ではないね! 丼、揚げ物、オムライス、カレー、異邦の料理は常にあたしの心を捕えて離さないのよ!』
『分かる。 あそこの料理を食っちまうと他では満足できないんだよなぁ』
『そうなの! 最初に食べた時の衝撃は忘れられなくってさぁ……。 アレを知ってしまったらもう知らなかった頃のあたしには戻れないわ』
『そのレベルなんだな。 俺としては懐かしい故郷の味だからって意味が強いかなぁ。 つーか、バーガーとかマジで食いたいんだけど、良かったら今度一緒に行く?』
『えー? ヒョウタンヤマ君ってメイヴィス様狙いじゃないの? もしかして節操ない感じ?』
『人聞きの悪い事言うの止めて貰えませんかねぇ!? 普通に飯行こうって話なんだけど、これモーションかけてるって判定なの!?』
『……ごめん。 別に容姿に偏見とかないんだけどほら、サイズ的に厳しいかなって』
『あれぇ!? 何で飯行く話から飛んじゃってんの!? つーか、異性にその手の話するの止めて貰えませんかねぇ!? 反応にマジで困るんですけど!?』
『え? ごめん。 てっきりヒョウタンヤマ君が食事にかこつけてあたしを誘ってるものとばかり……』
『マジで止めろ! そんな事言うと――ほら来たぁ! 今の話聞いてましたよねぇ!? 俺、何も悪くないでしょ? だからその笑顔止めて貰えません? 何で仕切り窓にべったり張り付いて笑ってんの? 夢に出そうなぐらい怖いんですけど!?』
『あっはっは、グアダルーペ様おもしろーい。 ヒョウタンヤマ君すっごい愛されてるね!』
『明らかに弄って遊んでるだけですよね!? マイクが拾わないからって窓をバンバン叩くの止めて貰えません!? つーか、それどこで覚えたんすか!?』
ガタガタと瓢箪山が席を立つ気配とマリシュカの笑い声が響く。
『あー、面白かった。 そろそろ時間なので締めますねー。 オラトリアムラジオ、本日のお相手はヒョウタンヤマ君とゲストのマリシュカ・ガライ・フニャディでした。 またねー! うわ、グアダルーペ様、足はやいなぁ』
そうしてブツリと接続が切れ、放送が終了した。
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