第16話 出張版 6
こんにちは。
未開拓地の開拓も一段落ついたので、首都の方へ戻ってきました。
家も都市内にそこそこ大きなものを新築したので、生活基盤もしっかりしています。
下も育って来ている上、大きな仕事もないので余裕ができたわたしは休日を楽しんでいました。
タウミエル戦で破壊された街はすっかり元通りになっており、何処を見ても活気に満ち溢れている。
ついさっき、ダーザイン食堂で食事を済ませたので当てもなく街を散策していたのだけれども何の気なしに足をある方向へと向けた。
向かう先は大聖堂。
そう言えば近くを通ったりはしたけど中をしっかりと見ていなかったなと思ったからだ。
ロートフェルト教団――名前を使うなと怒られてオラトリアム教団に名前を改めた組織の本部でもある。
「改めて見ると凄いなぁ……」
思わずそう呟く。
建物は旧グノーシス教団の施設だった時よりも大きくなっており、裏手には建物よりも背の高い巨大オベリスクが目を引く。 今までに作った分を持って来て移したのもあるけど、それを遥かに超える巨大さを誇るタウミエル戦の勝利を記念したオベリスクは見上げないと全容が見えない。
建物は光沢を放つくらいにピッカピカに磨き上げられており、何故か真っ黒だった。
そして装飾品は黒の中でも映えるように金色。 黒と金という何とも変――ではなく、高級感のある見た目だ。 建物の意匠は首途さんがパルテノン神殿を意識したとか言っていた事を思い出したけど、黒い建物に黄金の柱がずらりと並んでいる姿を見るとこんなのだったかな?と思わず首を捻る。
「おや、珍しい顔がいるな」
中に入ろうとすると不意に背後から声がしたので振り返るとそこにはディランさんが居た。
最近は魔物の討伐や戦闘の教導で忙しいらしいので最後に顔を合わせたのは随分と前だ。
今日はお休みなのか全身鎧ではなく私服だったのは意外だったけど、背負っているものに思わず視線が吸い寄せられた。
「お子さんですか?」
そう尋ねるとディランさんは苦笑。 彼の背中には赤ちゃんが居たのだ。
「いや、俺のじゃない。 アレックスの子供だ」
「そうなんですか!? 結婚されたんですね。 お相手は誰ですか?」
わたしの質問にディランさんは少しだけ遠い目をする。
「…………まぁ、あれだ。 畑で取れた感じだな」
「……えーっと、か、可愛いですね! 名前はなんていうんですか? 男の子ですか? 女の子ですか?」
オラトリアムで余計な詮索はNG!
聞かない方がいいと察したわたしは即座に話題を赤ちゃん自体に切り替える。
「あぁ、男の子だ。 名前はジオグリス。 今日はあいつが仕事で忙しいから、俺が面倒を見ているって所だな。 これから聖堂で育児について教わろうと思ってな」
「へぇ、ジオグリス君って言うんだ。 よろしくね~」
近寄って声をかけるとジオグリス君はあぶあぶと言いながら親指をしゃぶっている。
わたしの声に反応したのかちらりとこちらを向いたけど、興味がないのかぷいとそっぽを向いた。
その反応に少しだけ肩を落とす。
「あ、あー、嫌われちゃったかな」
「いや、こいつは大抵の相手にはこんな感じでな。 唯一、まともに反応したのはサブリナ殿だけだ」
「そうなんですね! 流石はサブリナさん。 慣れているんですね!」
「いや、あれは防衛本能――いや、何でもない。 サブリナ殿は母性溢れる方だから、その辺りが伝わったのだろう」
わたし達は話しながら歩き出す。 目的地は同じなので、話しながら並んで聖堂の中へ。
中は魔石によって作られた照明が柔らかい光で内部を明るく照らす。
足元は柔らかい絨毯で歩いても足音がせず、壁や天井は磨き上げられてピカピカだ。
壁を見ると絵画が飾られている。
無数の天使が跪いてローさんに服従を示しているような構図の絵で、タイトルは「神の威光にひれ伏したグリゴリ」とされていた。 他の絵も似たような感じでこの世界の神であるローさんを崇め奉るようなものばかりだ。 後光が差していたり、凄い玉座に座っていたりと過剰なぐらいにローさんを神聖視しているような絵ばかり。
……これは帰って来ないのも仕方がないかなぁ……。
普段からここに寄り付かないのはそう言う事ではないのかと思ってしまう。
わたしだったら神様扱いされるとちょっと逃げ出したくなっちゃうなぁ……。
特に目的があって移動している訳ではないので、ディランさんと一緒に行く事にした。
「見てもあまり面白くはないと思うぞ?」
「ちょっと興味があって」
器用に肩を竦めるディランさんと一緒に向かった先は託児所を兼ねた場所で、育児を学べるらしい。
そこには様々な種族の子供――子供? 亜人種の子供、特にゴブリンさんはちょっと子供と大人の違いが分からなかったけど、よく分からない見た目なのは改造種の子供かな?
虫っぽかったり動物っぽかったりするので明らかに人型ではない子供達とその保護者が集まっていた。
修道女さんが保護者の皆さんに赤ちゃんを抱いて見せたり、何やらレクチャーをしている姿が見える。
ディランさんはジオグリス君を子供達がいるスペースに下ろすとすぐにハイハイで近くに置いてあるクッションの下まで進むと抱きしめてそのまま横になった。
……何というか、マイペースだなぁ……。
大抵の事は涼しく受け流しそうな感じがする。 そんなジオグリス君に近寄る子がいた。
人間の赤ちゃんだ。 ハイハイでジオグリス君に近寄るとペチペチとその頬を叩く。
これ、止めさせた方がいいのかな? ディランさんは修道女さんと何やら話し込んでいて気にもしない、一応気付いてはいるみたいだけど特に反応はしていない。 もしかするといつもの事なのかな?
ジオグリス君は露骨に嫌そうな顔をしていたけど、叩いて来る子を完全に無視。
叩いている子は反応しないジオグリス君に業を煮やしたのか太鼓か何かを叩くように連続でペチペチと叩き始めた。 これには流石に我慢できなかったのか、ジオグリス君は押し戻すように蹴りを入れる。
それにより転倒した子がわっと泣き出した。
気が付いた修道女さんが慌てて泣いている子を抱き上げてあやす。
「よーしよし、泣き止もうねネリアちゃん」
ネリアと呼ばれた子はしばらく泣いていたけど泣きつかれたのかそのまま眠ってしまった。
対するジオグリス君はネリアちゃんを一瞥し、安全と判断したのか目を閉じるとややあって寝息を立て始める。 明らかに状況を判断できているので、賢い赤ちゃんだなぁと内心で呟いた。
今日もオラトリアムは平和です。
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