第14話 出張版 4
こんにちは。
長かった戦場跡地の片づけが終わり、家の新築も済んでいつもの業務に戻れるかなと思っていたのですがそうでもなかったようです。
「よーし! ゆっくり降ろしてくれ、ゆっくりだぞ!」
見ている先では貨物列車に巨大な苗木が積み込まれようとしている所でした。
あれが何かというとパンゲアの苗木です。 パンゲアと言うのはオラトリアムの食糧事情の大半を支えていると言っていい巨大な植物で収穫物は全てパンゲアの一部。
つまりわたし達はパンゲアの恵みによって日々の糧を得ていると言える。
オラトリアムは現在、隣接するもう一つの大陸の開拓を進めている最中だ。
人が増えれば食料も相応の量が必要となる。 その為、新しい食料生産プラント――要は畑が必要になるみたいなのでこうしてパンゲアの苗木を送り出す運びとなりました。
何故苗木の状態かというと種は発芽という過程が必要なので、それを省略する為に植えたら比較的すぐに使える苗木まで育ててからの輸送という流れだ。
ただ、地面から引き抜かれて養分が不足している状態なので、下手に触ると枝に絡め取られて養分を吸い取られるので積み込みと運搬はくれぐれも慎重にときつく言われている。
……だ、大丈夫かなぁ……。
わたしははらはらとした気持ちで積み込み作業中の苗木を見守っている。
他に任せるという選択肢もなくはなかったけど、責任者として最後まで立ち会って置かないとと同行する事にしました。 扱いさえ誤らなければなんの問題もない上、頼りになる護衛もいるので心配は杞憂に終わるとは思うけど……。
「あ、来た」
ちらりと振り返るとその護衛の人が来たので思わずそう呟いて駆け寄る。
「どうも、今回はよろしくお願いします」
「よろしくお願いします!」
来てくれたのは馬と人を合わせたような姿の転生者――
その傍らにはエンティカちゃんも一緒にいる。
積み込みの監督もあったけど、弘原海さんの到着を待つのがメインだったので、二人を伴って車両へと乗り込む。
列車の中は日本で乗った電車を思わせる内装だ。
弘原海さんとエンティカちゃんが並んで座り、わたしがその向かいに腰を下ろす。
「こうして顔を合わせるのは久しぶりですね! 弘原海さんはどうしてました?」
黙っていると間がもたなかったので話題を振ると弘原海さんはエンティカちゃんの頭を撫でる。
「こっちに来てすぐは魔物の討伐とかですね。 向こうの世界と切り離されて聖剣が力を出せなくなったので色々とパワーダウンしてますけどタウミエルに比べれば大した事のない相手なので割と余裕でしたよ」
わたし達生産職と違って弘原海さん達戦闘職の人達はタウミエル戦後は訓練と開拓関係の仕事に従事している。 特に戦闘能力の高い人達は有事の際には即座に駆り出せるようにと待機させられているみたい。 その為、弘原海さんはあまり出番がなく、訓練ばかりしていた。
「まぁ、何もしていないと思われたくないから色々と見つけては何かやってますよ。 そっちはどうです? 例の戦場跡の片付けに行ってるってのは聞いてたんですけど、その後は畑に戻った感じですか?」
「はい、転移があるので収穫以外で出番がなくなったから畑を弄ってました」
「はは、平和でいいですね。 そういえば今回の輸送って転移使わないんですね」
「そこまで急ぎじゃないって事もあるけど、施設関係の資材が優先されてるから列車での輸送になったんです」
「あぁ、なるほど。 食糧事情の改善とか言ってたから結構急ぎなのかと思ってましたよ」
「だったら転移を使ってますって。 苗木を植えたら次の瞬間には収穫ができる訳でもないので、少し長い目で見た改善計画になってるんです」
即座に必要な食料は転移で送っている状態だけど、将来的には賄えなくなるので賄えている今の内に自給自足できる土壌を作っておきましょうというのが今回の目的になる。
一通りの設備が完成すればダーザイン食堂の支店も置かれたりするので、現場では期待が高まっているとか居ないとか。
「あぁ、食堂ですか。 慣れると普通の食事じゃ満足できなくなりますね」
「そうなんですよ。 わたしもすっかり自炊しなくなっちゃって……」
「はは、俺は最近、エンティカが作ってくれるのでそっちがメインですよ」
「相変わらず仲がいいね。 料理はどう? 上手くできそうな感じ?」
「……はい、顯壽さまの好みは把握しました。 なんの問題もありません」
「個人的にはレパートリーを増やしてくれると嬉しいな。 流石に半月ずっとカレーは勘弁してくれ」
「頑張ります」
この二人も少し変わったなと思う。
初対面の時はエンティカちゃんのスキンシップに弘原海さんがくねくねと悶えている絵面的に非常に危険な有様だったけど、余裕ができたのか今では自然に頭を撫でたりしている。
そんな事を話しながら考えているとズシンと小さな振動。
どうやら積み込みが完了したみたい。 同時に通信魔石から作業完了の連絡が入ってこれから発車の準備に入ると連絡が入る。
「――そろそろ出発ですか?」
「うん。 二、三日で到着予定だからちょっとした旅行とでも思って楽しみましょう」
「一応、護衛なんであんまり気の抜ける事言わないで下さいよ」
「いやいや、この列車、食堂車があってですね。 ダーザイン食堂の料理が出てくるんですよ」
「あ、そうなんですか? そりゃ楽しみですね」
ピーと笛を吹く音が響き、列車がゆっくりと動き出す。
「こっちで列車に乗るの初めてだから結構楽しみですよ」
「わたしもですよ。 首途さんがちょっとムラがあるから揺れるって言ってましたから、乗り心地は日本に比べるとちょっと微妙かもしれませんね」
「俺としてはもう一生触れる事がないと思ってた故郷の文化に触れるだけで嬉しいですよ」
「ですね。 わたしもそう思います」
その後は互いに持ち寄った話題で盛り上がった。
最近、首途さんが魔導外骨格の技術を応用した玩具を売ろうとしている事、ダーザイン食堂の需要が高まり過ぎて深刻な料理人不足に悩まされ、ガーディオさんが中心になって技術を学ぶ料理教室を開こうと画策している話。 トラストさんとハリシャさんが極伝と呼ばれる超高等技の習得に向けて山籠もりを始めたとか、内容はこれまでにあった色々だ。
旅は始まったばかり、窓から流れる景色は美しかった。
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