第10話 出張版 2

 お久しぶりです。 梼原ゆすはら 有鹿あるかです。

 タウミエルという恐ろしい危機を乗り越えてオラトリアムは平和になりました。

 戦いが終わった後に待っているのは戦後処理。 新大陸側は現在、開発が進んでいるけど、旧大陸南側――主戦場になった場所はまだ片付いていない。


 辺獄が消えた事で遺体が消える事もなくなったので早めに処理しないと腐って酷い事になるので死体の捜索とリストアップは真っ先に行わなければいけない仕事だ。

 死んだ人達の一部はローさんによって復活――正確には別個体として再生されたとの事。

 

 だから死んでしまったトラストさんやハリシャさんも出撃前までの記憶はあるけど、それ以降の記憶はない状態で帰ってきた。 どういう形でも再会できた事は嬉しいけど、少しだけ寂しい気持ちになる。

 今、私は何をしているのかというと、収穫班から出張で残骸の撤去や地面の整地作業だ。


 場所はタウミエルとの主戦場になった平地だった場所なのだけど、激しい戦闘に晒されて地面は砕け、めくれ上がり、開戦前は綺麗に均されていた土地は見る影もない。

 わたしは皆と一緒に地面を均しつつ魔導外骨格やエグリゴリの残骸を回収したり、遺体を回収して身元の確認を行っている。 以前なら気分が悪くなっただろう――今も悪いけど、死体を見ても余り気にならなくなってしまった。 大破したエグリゴリを発見し、皆でコックピット部分を抉じ開けて遺体を慎重に引っ張り出す。 


 そっと地面に横たえて手を合わせる。 持ち物から身元を確認してリストに纏めて回収指示を出す。

 大破した機体はグリゴリから移植した部分は維持ができずに消えてあちこちが剥き出しになっている状態だけど、素材としてリサイクルを行うみたい。


 他の皆も掘り出した遺体を並べて手を合わせた後、確認作業に入る。

 やりなさいと言った覚えはないけど、死者に対する敬意を表すものと説明すると皆が真似をし始めた。

 良い事なのかどうかは今のわたしにはわからなかったけど、今ここで生きているのは運が良かった事と前線で彼等が頑張ってくれたお陰である事は間違いない。


 だから私は死んでいった皆の頑張りを無駄にしないように精一杯やろう。

 そんな気持ちで作業を続けた。 



 「――はーい、食事を配るから集まって―!」


 朝から無心で作業を行っていると拡声器かなにかで響き渡るジェルチさんの声に手を止めた。 

 振り返るとダーザイン食堂の皆が巨大なトラックに食事を満載して現れる。

 食堂の皆は朝昼夕と深夜の四回に分けてこうして食事を持って来てくれていた。


 わたしも受け取って頂く。 


 ……あ、ハンバーグが入ってる。


 好物が入っていて少しだけ嬉しい気持ちになった。

 作業が嫌だとは思ってないけど、中々終わらないから少しだけ気が滅入っていたのでこういったささやかな幸せを噛み締めてモチベーションに繋げている。 


 「ユスハラ!」

 

 食事を黙々と食べていると不意に声をかけられた。

 振り返るとジェルチさんが小さく手を上げて小走りに寄って来るのが見える。


 「あ、ジェルチさん! こんにちは」

 「姿は見てたけど、こっちも忙しかったから声をかけられなかったわ。 隣、いい?」

 「どうぞどうぞ」

 

 ジェルチさんはわたしの隣に腰を下ろして持ってきたお弁当を広げる。

 

 「最近、どう?」

 「特に変わりはないですね。 進捗としてはまだ三割に届いてないのでもっと頑張らないと。 そっちも忙しいんじゃないですか?」

 「あ、わかる? 全員分の食事、四食分も用意しないといけないから食堂も休まずに動き続けて、ガーディオが悲鳴を上げてるわ」

 「はは、無理はしないで下さいね。 流石に死ぬまで働けなんて言われないと思うから、相談したら何とかなると思いますよ」

 

 ファティマさんも鬼じゃないからできない事はやらせないと思うので素直に助けを求めたら何かしてくれると――な、何だろう? ジェルチさんのわたしを不思議そうな目で見ている。

 

 「ユスハラ。 あんた、何か変わったわね」

 「そ、そうですか? 特に自覚はないですけど……」

 「何と言うか、前はあわあわ言ってるだけだったのになんか落ち着きが出て来たというか、貫禄が着いたというか……」

 「うーん? どうなんでしょう? ちょっと自覚がないから分からないです」


 落ち着きかぁ……。 

 確かに慣れて来た感はあると思うけど、貫禄と言われるとそんな事ないですよと言いたくなる。 

 

 「いやぁ、本当に成長したわねぇ。 ほらあたしってアンタが引き籠ってた頃から見てたから、それ考えたら今のアンタは結構なものよ。 いつの間にか収穫班の責任者に納まってるし、戸建ての家持ってるし、給料とかあたしより多いんじゃないの?」

 「あはは」


 笑ってごまかすけど確かにわたしの預金額はかなりの物だ。

 外食多めで支出は当初に比べて増えたような気もするけど、今では全然余裕だし、絶対に言わないけど多分、ジェルチさんより貰ってる自覚はあった。 ちなみにわたしの家は前の戦闘で全壊とは行かないけど壊れてしまったので今は修繕を兼ねたリフォーム中だ。


 多分、帰る頃には綺麗になっているはず。 

 

 「まぁ、あたしとしてはアンタはいっぱいお金落としてくれる上客だから大歓迎だけどね!」

 「こちらこそお世話になってます。 ダーザイン食堂のご飯はいつも美味しいから、ついつい通っちゃいますからね!」

 「はは、こいつぅ! お世辞を言えるようになっちゃって、成長したなぁ!」


 ジェルチさんは笑いながらわたしに抱き着く。

 わたしは本音ですってばとつられて笑う。 ジェルチさんがくすぐってくるので別の意味でも笑い声をあげる。 戦いは終わってオラトリアムに平和が訪れた。


 勝ち取った平和ではあるけど、失ったものも多い。 

 でも、それを無駄にしない為にもわたし達は精一杯、日々を過ごすんだ。

 だって、今も笑えているんだから。 わたしはこの戦いで亡くなった人達に内心で感謝を捧げる。


 ありがとうございます。 あなた達が繋いでくれた未来でわたし達は笑えていますと。

 わたしは残った食事を一気に平らげてジェルチさんをくすぐり返す。

 彼女も笑い声をあげる。 未来はきっと明るい。

 

 そう信じてわたしは今日も頑張ります。 

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