パラダイム・パラサイト 単発エピソード

第9話 出張版 1

 文明が生まれる前、未だに人の手が入っていない大地。

 その世界の南端に巨大な大陸が存在している。 空から俯瞰して見れば似た形の大陸が二つ連なっているように見えるだろう。 異様なのは片方の大陸は建造物や山が存在し、文明の気配を感じられるが残った方は自然が広がり徐々に侵食されるように開拓が進んでいた。


 そこで作業を行っている者達がいる。

 小柄なゴブリン、大柄なオークやトロールそして、そのどれにも当て嵌まらない異形の者達。

 彼等は地面を均し、砕いた石などを撒き、持ってきた物を並べていく。 


 これは今後、鉄道を通す為の線路の敷設作業だ。

 作業員達はじりじりと焼く日光を浴びて汗を流しながら作業を続ける。

 そんな中、近くに置いてあるラジオから音声が流れ始めた。


 『はい、皆さんお久しぶりです。 オラトリアムラジオ、略してオララジ始まりますよ! メインパーソナリティーは毎度おなじみ瓢箪山 重一郎がシュドラス城放送局からお送りします』


 この放送の発信源は大陸に存在する巨大な山中に存在する放送局だ。

 つい先日、大きな戦いを終え、ここ――オラトリアムは大きな傷を負いつつも新天地へと辿り着いた。

 今はそれを癒しながらも新たに得た大地を開拓している最中だ。


 『いやぁ、先日の戦いはマジできつかったですね。 俺も死ぬかと思いました。 生き残った皆さんはお疲れさまでした。 そして亡くなった皆さんのご冥福を祈り、復活した皆さんはこれからもよろしくお願いします。 シュドラス山も結構な量の砲撃を喰らって内部施設もかなりやられてたので、復旧に時間かかりました。 ですが、ご安心ください! 今日から放送を再開いたします!』


 瓢箪山の力強い言葉に作業をしている者達からおぉと僅かな歓声が上がる。

 放送施設が破壊された事により、しばらくの間放送が止まっていたのでこの日を待っていた者は多かった。


 『本当なら梼原さんを呼びたかったのですが、忙しいみたいなので今日は俺一人でお送りいたします。 ――え? 私がいるだろって? あ、はい、そっす――ひっ!? いきなりその目は止めてくれません!? 愛情表現? もうちょっとソフトにお願いできませんかねぇ!? ――ん、んんゴホン。 気を取り直して続けます。 大抵の人には周知の事実かもしれませんが、現在のオラトリアムの状況をざっくりとお伝えしていこうかと思います』


 ガサガサと何かを取り出す音が響く。


 『――えーっと、まずはこの旧グノーシスが支配していたクロノカイロスですが、タウミエル戦終了後からオラトリアム大陸となりました。 神剣の分割によって辺獄だったこの世界に降り立った訳ですが、俺も実際に見て驚いたんですが、マジで前の世界と大陸の配置とか変わらないんですね。 人だけいないからやりたい放題なのでこれから開拓頑張りましょう』


 まだ到着して日も浅いので現在は復興しつつクロノカイロスに該当する大陸の開拓作業を行っている。

 

 『いや、こっちに移動するって聞いた時、正直死ぬかと思ったので、無事に辿り着けてほっとしてます。 ヤバい敵もいない上、タウミエルも出る気配もないのでしばらくは安心ですね。 俺ものんびり放送出来て嬉しいです。 いや、マジで荒事はお腹いっぱいなのでこの平和が長く続いて欲しいですよ』


 瓢箪山の軽快なトークに作業員達は苦笑しながらも作業の手を休めない。

 

 『後は言っとかないといけない事って何かあったかな――っとこれだこれだ。 今日明日の話ではないので今は問題ありませんが、整備が進むと地図やらなにやらを作る関係で街名や地名を付けていくみたいなのでチェックのし忘れがないように。 特に建築関係の皆さんはよろしくお願いします。 さて、これからは恒例のお便りコーナーと行きたい所なのですが、割と急な再開だったので今回はなしです。 本当なら過去の物を読み上げてもよかったんですが、俺の部屋ごと灰になったのでそれもなしになりました。 いや、本当に申し訳ない』


 そんな訳で今回はこのまま天気予報に入りますと、この後の天候情報を読み上げる。


 『はい、そんな訳でしばらくは雨の心配はなさそうです。 ――それはそうとぶっちゃけ、ウチってヤバい装置とか作ってるからその内、天候操作ぐらい当然のようにやりそうだな……。 さて、そろそろ恒例の演奏コーナー行ってみようかと思うんですが、そろそろ練習が形になってきたのでちょっと歌っちゃおうかと思ってます! 聞いてみて良かったら感想とかもらえると嬉しいです。 では聞いてください、曲名は――』


 ラジオから瓢箪山の歌がオラトリアム中に響く。

 聞き入る者、苦笑する者、頷く者、感動する者と反応は様々だが、概ね感触は良いようだ。

 曲が終わり静かになる。 そして瓢箪山が小さく息を吐いた。


 『はは、披露するの初めてなんですっげー緊張しましたね。 どうでしょう? 俺の故郷の歌ですが、転生者の皆さんは聞いた事がある人も居るかもしれませんね! さてさて、今回は久しぶりなんでちょっと早いですがこれぐらいにしておきますね。 またお便りコーナーをやりますんで、良かったら送って来てくれると嬉しいです! ではこれで――な、なんすか? 特に怒られるような事やってないと思うんですけど……。 え? 最後に何か面白い事言え? いやいや、勘弁してくださいよ。 俺ってラジオで喋るお兄さんであって芸人さん的な振りはちょっと――あー……前に言ってたテレビに出るに当たっての練習とかマジで言ってます? いやいや、勘弁してくださいよ! あんたは俺を何処へ向かわせたいんだ! ――あ、ごめんなさい。 こっち来ないで、無言なのマジで怖い、怖い、ひぇ!? 何か今までに見た事のない顔に!? もうあんたが芸人やれよ! あ、本日はこれで終了となります。 お相手は瓢箪山 重一郎でした! ――それはマジで痛いから止めて止め――』


 ガチャガチャと音が響き、放送が終了した。

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