第11話 クリスマス①

 雪が静かに降りつもり、ジオセントルザムの街は白く包まれていた。

 この街を占領したオラトリアムは来るタウミエルとの決戦に備えての準備中ではあったのだが、悪天候によって一部の作業が中断されている。


 そんな中、首途研究所の一室。 

 そこでは巨大な掘り炬燵を囲んで四人の人物がカードゲームに興じていた。

 

 「うーん。 ツーペア」


 夜ノ森がカードを並べる。


 「がっはっはこれは儂の勝ちやなストレート」


 隣の首途が笑いながらカードを放る。

 

 「残念、フルハウス」


 アスピザルが笑みを浮かべてその上を行く。

 

 「……」


 最後の一人――ローが無言で役無しのカードを放る。


 「またローの負けだね」

 「がっはっは兄ちゃん強い手ばっかり狙うからブタばっかやな。 どっかで妥協すれば何回かは勝てたんとちゃうか?」

 

 ローは無言で肩を竦める。

 アスピザルは笑みを深くしてローへと視線を向けた。


 「さて、始める前に言った通り負けた人は罰ゲームってルールは覚えてるよね?」

 「……好きにしろ。 それで? 俺に何をやらせたいんだ?」

 

 この雪で作業が休みになっているので退屈しのぎに遊ぼうと話を持ちかけて来たのはアスピザルだ。

 偶々、暇になって研究所にいたローはまぁいいかと了承したのが事の始まりだった。

 アスピザルはすぐに首途と夜ノ森を引っ張ってきてポーカーが始まったのだ。

 

 純粋な殴り合いならこの場ではローが最強ではあるが頭を使うゲームではただの雑魚にしか過ぎなかった。 一回負け、二回負け、気が付けばローは全敗という酷いスコアを叩きだしており、夜ノ森は怒り出しやしないかとはらはらし、首途は笑っている。


 罰ゲームは開始時に緊迫感を持たせようとアスピザルが言い出した事だった。

 お遊びだと了承したのだが、この結果を見るとローは嵌められたのではないかと疑念を抱く。

 

 「……お前、まさかこの状況に持って行く為に仕込んでいたのか?」

 「イカサマはしてないよ?」 

 

 つまりローに何かやらせる為にポーカーを仕掛けたのは間違いないようだ。

 

 「さて、罰ゲームの内容だけど――ところで季節は冬だよね?」

 「……そうだな」

 「冬と言えば何かな?」

 「知らん」

 「ズバリ、クリスマスだよ!」

 「そうか」


 時期を考えるなら似たようなものかとローはどうでも良さそうにそう呟いた。


 「で、何だけど、我々ダーザイン食堂はある企画を立てていてね!」

 「ね、ねぇ、アス君。 本当にやらせるの?」

 

 夜ノ森はローとアスピザルを交互に見てやや不安げに言うが、特に相手にはされていない。

 首途はニヤニヤと笑うだけで何も言わない。

 ローはこれは嵌められたかと小さく溜息を吐いた。



 「さて、まずはローとサベージにはこれに着替えて貰うよ!」


 場所は変わって作業所。 現在は使用していないので人気はなく、その中央にはとある物が置いてあった。 ソリのような物で、引けるように持ち手まで付いている。

 そして用意された衣装には赤を基調とした白いモコモコした装飾が着いていた。


 どう見てもサンタクロースが着ているような服だった。

 サベージ用にトナカイを思わせる付け角まである。


 「……これを俺に着ろというのか?」

 「うん。 君はこの夜サンタになってオラトリアムの皆に幸せをばら撒くんだ」

 「そうか」

 

 ローは遠い目をし、連れて来られたサベージは嫌そうに小さく唸る。

 

 「ところでどうやったら拒否できるんだ?」

 「無理だよ?」

 「そうか」

 「そうなんだ」


 ローは小さく溜息を吐くと受け取った衣装に袖を通した。

 

 

 「さて、兄ちゃんにはこれを持ってオラトリアムを回るんや」

 「何だこれは?」


 首途から受け取ったのは謎の白い袋だ。 

 大きく膨らんでいるが、骨のような物が入っているらしく中身自体は空だった。


 「これは中に複数の転移魔石を内蔵しとってなこっちから任意で袋の中に物を送れるっちゅう訳や」

 「……つまりは配るプレゼントを送って来る訳か」

 「そうやな。 モノはアスピザルの坊が用意しとるから誰に渡すかだけを教えてくれたらこっちで送る。 要は兄ちゃんは新聞配達みたいにあちこち回るだけでええ」

 「そうか。 で、ここまで手回しがいいって事はお前もグルか?」

 「ま、兄ちゃんに勝ったらサンタにできるって話は持って来られたな。 一応、言っとくと兄ちゃんが勝っとったら儂か坊のどっちかがサンタやっとったな」

 「……そうか」


 この状況に持って行くように狙いはしたがフェアな勝負だったと納得して沈黙した。

 関係ないのに労働させられるサベージはテンションが大きく低下し、帰りたがっていたが首途が袋から巨大な肉の塊を取り出すと元気を取り戻した。


 ソリを掴んで出発準備は完了だ。 ローは袋を背負ってソリに乗り込む。

 

 「移動ルートは頭に入っとるな」

 「あぁ」

 「じゃあ、よろしくねサンタさん!」

 「が、頑張って」


 ローは諦めるとサベージに行けと指示を出すと引かれたソリが軽快に雪の上を滑り出した。



 外は雪と夜の闇によって閉ざされており、凍えるような冷気が満ちている。

 だが、その場所は設置された暖房と多くの声によって賑わっていた。

 ここは酒場でライリー達が仲間と一緒に盛大に飲み食いしている。


 笑いながら酒を浴びるように飲み、嬉しそうに並んだ料理をバクバクと食っていた。

 カウンター席ではディランとアレックスが静かに酒を飲んでいる。

 

 ――そんな中、バンと大きな音を立てて何者かが入ってきた。

 

 その場にいた全員の注目が集まり、騒がしかった酒場が静かになる。

 何だと目を凝らすと奇妙な恰好をした――ローだった。

 真っ先に気が付いたディランとアレックスが駆け寄って跪く。 


 やや遅れてライリー達がそれに倣う。

 ローは奇妙な白い袋を背負って店内に入って来る。

 

 「あ、あのロートフェルト様。 このような場所に一体、どのようなご用で――」


 ディランが恐る恐るそう尋ねるとローは無言でカウンター席へ向かい、店主に袋から大量の金貨の入った袋を取り出して置く。 店主はかなりの葛藤を見せた後、袋を受け取る。

 それを確認したローは頷くと振り返ってライリー達に一言。


 「今日の飲み食いは自由だ」


 そう言って店を後にした。 

 しばらくの間、その場にいた全員がぽかんと固まっていたが、ややあって喜びの声が爆発し、オラトリアム万歳の声が響き渡った。

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