未使用ネタ置き場

kawa.kei

パラダイム・パラサイト二巻 未収録エピソード

第1話 二巻プロローグ①

 「おい、本当にここでいいのか?」

 「あぁ、間違いないはずだ」 

 森の中を進む者達がいる。 人数は四人。

 その中の一人が確認するように先頭を歩く仲間にそう尋ねる。 尋ねられた男は同じやり取りを道中に何度も行っている事もあってややうんざりとした口調でそう返す。

 彼らはメドリーム領を拠点として活躍する冒険者で、少し前にある依頼を請けていたのだが依頼人にトラブルが起こったのか話が決まる前に連絡が取れなくなった。

 依頼人はズーベル・ボンノード。 彼らの拠点とするメドリーム領から北に存在するオラトリアム領領主筆頭使用人。

 要はかなりの大口からの依頼だ。 報酬も高額で彼らからすれば非常に美味しい依頼だったのが、当のズーベルが死亡した事により当人達にはまだ通達が行ってはいないが話自体が白紙になりつつあった。

 彼らは事情こそ知らないが、依頼が白紙になる可能性については薄々だが察しがついていたのだ。 本来なら悪態の一つも吐いてその日の酒の肴にでもして終わりだった。

 だが、今回ばかりは事情が違う。 その理由は依頼内容にある。 ズーベルからの依頼は「オラトリアムの外れで発見された遺跡の調査」だったからだ。

 遺跡と銘打たれているが現状ではそれすらはっきりしていない。 住民が偶然にも入り口らしき物を発見しただけだからだ。

 この世界における遺跡はかなり重要な意味合いを持つ。 歴史的ではなく領にとっての資産的・・・な意味合いでだ。

 遺跡であるなら何かしらの貴重な物品が眠っているかもしれない。 過去にはこの国――ウルスラグナの東部で遺跡が発見され、そこから回収された「聖剣」という持ち主に超常の力を与える武器の逸話は有名だ。

 その手の物品は欲しがる者が非常に多く、金に糸目をつけない収集家も多い。 もしかしたらそれに匹敵する何かが眠っている可能性があった。

 ――これはその何かが遺跡で合った場合だ。

 仮に遺跡ではなかった場合、意味合いは更に変わってくる。 迷宮ダンジョンの可能性が高くなるからだ。

 迷宮。 地上から地下へと続く巨大な建造物で、内部には先述したような宝が眠っているとも、最奥に到達した者は莫大な力を得るともいわれている。

 ウルスラグナで有名なのはメドリーム領の南西に存在する迷宮だ。 現在まで最奥への到達者がおらず謎に包まれており我こそが最初の踏破を成さんと挑戦する者達が後を絶たない。

 それにより何が起こるのか? 周辺に人が集まるのだ。 その結果、冒険者ギルドを始め、迷宮によって発生する副次的な利益を求める者が引き寄せられる。

 人が集まれば金が動く。 迷宮は存在するだけで金を生み出す事ができるので、財源としては非常に有用なのだ。

 上手に利用すれば経営が傾いたオラトリアムを立て直せる程度には。 それを知ったズーベルは領主に報告せず、情報を止めておいたのだが発見された以上は遅かれ早かれ領主の耳にも入る。

 少なくとも現在の領主であるロートフェルトを蹴落とすまでは伏せておき、始末が済んだ後にゆっくりと調査を行って有効利用しよう。 そんな腹積もりだったのだが、当人が死んでしまった以上は皮算用でしかなかった。

 この四人はズーベルが調査を依頼する為に押さえておいた冒険者パーティーだったのだが、予定の期日を過ぎても連絡が来なかったので契約不履行として勝手に動き出したのだ。

 遺跡の調査を行うつもりではあったのだが、その際に取得したものを懐に入れる為に誰にも告げずに独自の行動ではあったが。

 内部にあるかもしれない宝があるなら懐に収め、迷宮であるなら同様に何か価値のある物を見つければ懐に入れる。 仮に手に負えない迷宮であるなら偶然を装ってギルドに報告すればいい。

 そんな打算ありきで彼らはオラトリアムの地に足を踏み入れたのだ。 遺跡の正確な位置までは知らされていなかったが、依頼を請けた時点で場所の当りは付けていた。

 オラトリアムは最北端である事と経済状況が良くないといった二つの要因で開拓があまり進んでいない。 その二点を加味し領民が発見できた事を重ねれば自然と位置は絞られる。

 ――こうして彼らは前人未到の遺跡へ最初の足跡を刻まんと舗装されていない道なき道を進む。

 自然が深くなるとそこは人ではなく獣――魔物の領域となるので移動は慎重に行わざるを得ず、道を阻む草や木々を短剣で切り払う手間もあって進みは遅い。 目的地へと急ぎたいといった気持ちが焦燥感となって彼らを焼き焦がす。

 その焦りは彼らの期待の裏返しでもある。 長期の移動を想定しての重装備に加え、この時期は少し暑い事もあって全員が額から汗を流しながら歩き続けていた。

 移動の間の沈黙に耐え切れずにメンバーの一人が何度も確認するのは無理もない事なのかもしれない。 そんな事もあって少し鬱陶しいとは思いつつも律儀に相手をしていたのだ。

 そんな彼らのやり取りも――

 「おい! あったぞ!」

 ――先行していた斥候役の一声で一区切りとなった。

 彼らの表情は輝き、進む足は一気に早まる。 木々を抜けた先には大きな入口らしきものが大きな口を開けていた。

 明らかに自然にできたものではなく、人為的に作り出されたであろう建造物。 外から見れば小さな屋敷程度だが、斜めに傾いている点を見れば地下へと繋がっているのは明白だ。

 冒険者達は目的地の発見を喜び合う。 リーダー格の男は首から下がっている冒険者である事を示す認識票プレートを握りしめる。

 現在、彼らのランクは青の下位と中位。 冒険者のランクは下から黄、青、赤、金と分けられている。 黄から青までは比較的ではあるが簡単に昇級できるが、赤へ上がるのは難しい。

 金が最高位ではあるが、その地位に就くには功績だけでなく国やギルドから認められた偉業とも言える実績が必要となるので実質は赤が最上位だ。

 その為、赤への昇級はかなり険しい道となる。 功績だけでなく実力を付け、上へと上がる為には経験、実績だけでなく良い装備を整える事も必須だ。

 つまるところ金が必要となる。 今回の遺跡調査で莫大な額の金銭が手に入れば彼らの夢へと大きく近づく。 この調査は彼らにとって飛躍する為の可能性を秘めた人生を変える一歩かもしれないのだ。

 いや、これで確実に何かが変わる。 そんな確信を抱いているからこそ彼らのこの調査にかける意気込みも違うのだ。

 「よし、ここで休息を取ってから調査に入る」

 「折角見つけたんだ。 このまま入っちまおうぜ!」

 「いや、中で何があるか分からない。 行くなら万全の状態で入るべきだ!」

 逸る気持ちを抑えきれないリーダー格の冒険者が仲間を宥める。 彼も遺跡を前に興奮しているが冷静ではあった。

 未知の遺跡に何があるのか分からない以上は可能な限り万全の状態かつ慎重に行くべきだからだ。 他のメンバーもそれを理解したのか大人しく従う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る