第2話 二巻プロローグ②
数時間の休憩を挟んで彼らは入口から内部へと足を踏み入れる。 斥候役が先頭で罠を警戒し、数歩分離れた距離を残りが付いて行く。
二人が武器を構えて不意の状況に備え、最後の一人が魔法で光源を生み出して一行の道行きを照らす。
建材は石材かなにからしく、武器で少し強めに突いてみると僅かに削れる。 罠の類はないらしく、移動はスムーズだった。
少し歩くと突き当りに地下への階段が見える。 斥候が小さく頷くと階段を軽く調べて危険がない事を確認。 小さく手招きして安全である事を伝える。
小さく頷くと一行は階段をゆっくりと降りて地下へ。
「なぁ、ここって遺跡って事でいいのか?」
「断定はできないがその可能性は高そうだ」
彼ら自身、迷宮へ潜った経験がない事もあって言い切れないが伝え聞いた話では迷宮はどこも独自の魔物が生息しているらしい。
階段を下りきったにもかかわらず襲撃される気配がない事を考えれば迷宮ではない可能性は高かった。 正直、仮に迷宮ではなかったとしても金目のものがあればそれでいいので、どちらでもいい。
前人未到の遺跡を踏破したといった少し誇張した事実を吹聴すれば箔も付く。 どう転んでも彼らにとっては美味しい話なのだから。
――ただ、一点。 生きて帰れるといった前提を疑わなければだが。
斜めに傾いているので緩い坂を下って行くと広い空間へと出る。 奇妙なホールだった。
正面に先へ進む為の通路が見えるが、灯りの光量を上げて空間全体を照らすと異様さが際立つ。 壁のあちこちに巨大な穴が開いているのだ。
自然にできたものではなく、綺麗にくり抜いたかのような穴だったので意図して作り出されたであろう事は理解できるが意図が分からない。 ここを作り出した者はどういった意図でこんな穴を作ったのだろうか?
「なんだあの穴は? 上にもあるな」
「どうする? 何かあるかもしれんし見てみるか?」
「――あぁ、そうだな。 いくつか中を覗いて――」
リーダー格の冒険者がそう言いかけた所で途切れる。 理由は奥の通路から物音が聞こえたからだ。
足音ではなく何かを引き摺る様な異様な音だった。 それがゆっくりと近づいて来る。 全員が即座に武器を構え、前衛を務める二人が前へ出て斥候は少し下がって警戒。
「迷宮だったって訳か。 どうする?」
「一当てして行けそうなら仕留める。 無理そうなら一旦引き上げる」
方針を簡単に伝えると異論はないのか全員が小さく頷く。 その短いやり取りの間に異音は近づき、通路からその姿を現す。
間違いなく魔物だろうといった確信はあったが、その姿は彼らの想像からは大きくかけ離れていた。 最も近い形状は芋虫の類だろう。
線虫のように長い体躯に全身は甲殻に覆われているのか、硬質な印象を受ける。 全長は一メートル前後、人間の感覚で見るなら小型だ。
魔物は彼らから少し離れた位置で停止した。 身構えるが動く気配はない。 少しの間、彼らの間に沈黙が落ちる。
「どうする?」
「分からん。 ひとまず相手の出方を見よう」
冒険者達は小声でそうやり取りすると魔物がどんな動きをしても対応できるように些細な動きも見逃さないと意識の全てを集中する。
魔物はしばらくの間、彼らを見つめて――いや、眼球の類がないので見ているか不明だが、様子を窺っている事は確かだ。
「――――。 ――――?」
不意に魔物が何か言葉らしきものを発した。 それを聞いて冒険者達が目を見開く。
何を言っているか理解はできなかったが、ニュアンスから何かを尋ねているように聞こえた。
「おい、何か言ってるぞ?」
「誰か。 あいつが何を言っているか分かるか?」
「いや、分からん」
困惑を浮かべる彼らに構わず魔物は更に言葉を重ねる。
「――――。 ――――?」
内容は似た内容だと思われるが明らかに言語が違う。
「――――。 ――――?」
再度、質問。 やはり知らない言葉だった。 内容が理解できないので彼らには何も答えられずに沈黙。
魔物は何故か小さく溜息を吐くと踵を返すと元来た通路へと引き上げて行った。 その魔物の異様さに彼らは何もできずに見送る事しかできなかった。
通路に消える直前、魔物が小さく何かを呟いたような気がしたが、彼らにはそれを考えている余裕はなかった。
何故なら次の瞬間、後衛の光源を管理していた魔法使いが音もなく忍び寄った何かに上半身を丸呑みにされていたからだ。
「――は?」
誰かが呆けた声を上げたと同時に魔法で生み出されていた光源が消滅。 視界が真っ暗に染まる。
一瞬だったのではっきりとは認識できなかったがさっきの魔物を大きくしたような何かが――それが最後の思考だった。
彼らが行動を起こすより早く闇から音もなく忍び寄った何かに喰らいつかれ、その存在は冒険者として大成するという夢と共に誰にも知られずそっと消え去った。
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