第13話 出張版 3
首途研究所の朝は早い――というよりは眠らない。
欠伸をしながら朝まで勤務していた者達が、同様に欠伸をしながら起き出して来た者達と交代する。
引継ぎを済ませて各々が勤務を開始し、工場は休まずに稼働し続ける。
そんな中、工場の一角に設置された装置から音声が響く。
『はい、皆さんこんにちは。 さっき放送されていたオララジナイトをお聞きの皆さんはさっきぶりですね。 朝のオララジ始まります。 メインパーソナリティーは毎度おなじみ瓢箪山 重一郎がシュドラス城放送局からお送りします』
お昼のオララジ、夜のオララジナイト、そして早朝勤務の者達の要望によって実現した新番組、朝のオララジが始まった。
『いやぁ、これ収録なんですけど、一日に何本撮らせるの? もう今日だけで十本ぐらい撮ってるんですけど――え? 今まで休んで来たから取り返す為に頑張れ? いや、俺、シュドラス山の復興作業に参加してましたよ!? 遊んでたみたいな事言うの止めて貰えません!? ひっ!? 怖いからその顔は止めて貰えませんかねぇ!?』
作業に従事する者達の一部は熱心なリスナーで勤務時間に聞けない事を残念に思っている者も多く、この番組の実現に喜びの声が上がっていた。
『ま、まぁ、ともあれ、最近は開発ラッシュで特に研究所は大忙しみたいですね。 取りあえず旧クロノカイロス大陸――今は神都オラトリアムですが、開発が一段落したので次の大陸へ取りかかる準備期間中みたいです。 ぶっちゃけ、この世界にオラトリアムの敵は居ないので兵器関連は開発はしてるみたいですが、生産は抑えめみたいですね。 平和が一番なので個人的には出番は少なめでいいと思っています。 さて、何で研究所の話をしたのかというと、今回はゲストがいらっしゃるからです。 では、ご紹介しましょう。 首途研究所所長の首途さんです!』
『おぅ、首途 勝造や今日はよろしくな』
『いやぁ、まさか来てくれるとは思いませんでしたよ』
『なんや? 来ん方が良かったか?』
『いやいや、すっげー助かります。 さっきも言いましたが、もうこれ十本目なんですよ。 梼原さん忙しいから二本しか付き合ってくれないし、話しのネタがないのでお願いですからいてください。 いや、もうマジで……』
『お前半泣きやないか、ほんまに一日ここに居んねんなぁ。 仕事とはいえ大したもんやな』
『いやぁ、分かってくれます? 一人ぼっちでマイクに向かって喋るのって結構辛いんですよ。 いや、収録するのが嫌だって言ってるんじゃないんですよ? ただ、一日、十本は多すぎないかなぁって思ってるんですよ。 ほらこれって一時間番組じゃないですか? 実質、十時間喋ってるんですよ? 分かります俺の苦労? この体じゃないと喉とかかっすかすになりますよ』
『そっちのプロデューサーはお前と一緒でめっちゃ楽しい言うとんぞ』
『そこに俺の気持ち一ミリも介在してませんよね!?』
『がっはっは、お前おもろいなぁ』
首途は完全に他人事と言った調子で笑う。
『誰か……誰か、俺に優しくしてくれる人どこ? 梼原さんどこ? 助けて……』
『さーて、いい感じに弄った所で儂がここに来た話をしてええか?』
『あ、弄ってる自覚はあったんですね……。 聞いてるんでどうぞどうぞ』
『さっき言うてた通り、研究所の兵器関連の予算が削られてなぁ。 歩行要塞も再建の目途が立っとらんのや』
『あぁ、あのデカブツですか。 主砲、凄かったっすね。 俺、割と後方にいましたけど、百メートルクラスの怪獣みたいな化け物が跡形もなく消し飛んだのはなんの冗談かと思いましたよ』
『凄かったやろ? 聖剣、四本分の魔力をぶち込んだとっておきやからな。 いやぁ、ぶっ放した瞬間、最高に気持ちよかったぞ』
『はは、そっすか。 脱線してるんで本題をお願いします』
『おぉ、そうやったそうやった。 儂はアレを更に強力にして作り直したいんや! でやな、何をするにも先立つものが要る。 ――要は銭やな』
『なるほど。 上から予算が下りなかったんですね』
『男のロマンが分からん奴が多くて困るでぇ』
『いや、あれの維持費聞きましたけど、とんでもない額ですね。 気持ちは分からなくもないんですが、俺からすると正気ですかって感じですよ。 ぶっちゃけ城を買った方が安いんじゃないですか?』
『アホ、お前、銭なんぞやる事やってれば勝手に入って来るんやから、銭で買えんロマンを優先するに決まっとるやろうが!』
『でも、作るのに金が必要なんですよね?』
『…………さて、最近は魔導外骨格とエグリゴリシリーズが重機としての運用が求められとってな。 パイロットの需要が高まっとるんや。 で、訓練用に有用なもんを作れ言われてな。 そこで儂は閃いた。 ――これや!』
『放送を聞いている皆さんには見えてないと思うんで解説しますと、魔導外骨格のフィギュアみたいですね』
『は、儂がそんなしょぼいもん作る訳ないやろうが、これはなぁ。 従来の操縦システムを応用したラジコンや。 最近やとドローンとかの方が分かり易いか?』
『はー、あ、腕とかちゃんと動きますね。 フューリーでしたっけ? 下半身が戦車タイプの』
『おう。 百聞は一見に如かず、ちょっと遊んでみろや』
『はい、えっとこのヘルメットみたいなのを被るんですか? ――痛っ、被ったら針みたいなの刺さったんですけど』
『些細な事や気にすんな。 接続に成功したらランプが点灯すんねんけど……お、いったか。 動かしてみ?』
『あの……どうやっ――は? え? すご、念じたら動いた。 ヤバ、えぇ……』
瓢箪山が戸惑った声を上げ、マイクから何かが動く音が微かに響く。
『うわ、すっげー、え? マジで? なにこれ、面白れぇ』
『どうや? 従来の操縦システムを簡略化して誰でも扱えるように改造した。 あんまり離すと止まるからその辺は要改良やけどおもちゃとして売りつつ、実機の訓練にも使える優れものや!』
『うわ、すっげ、ヤバ、え? 旋回とかもできるのか。 テンション上がるー!』
『やろ? 研究所の次期主力商品や。 こいつを売りまくって歩行要塞の建造費に充てる! っちゅう訳で皆、買ってやー!』
『はは、すっげ、すっげぇ。 これで戦わせたりしたらテンション上がるなぁ。 いやぁ、無限に遊べ――え? もう時間? 了解っす。 はい、今回はお別れのお時間となりました。 近々、発売予定みたいなので余裕のある人は皆買おうね。 以上、朝のオララジ、瓢箪山 重一郎と』
『首途 勝造や』
『――で、お送りしました。 またねー! いやぁ、これマジで面白れぇな。 出たら絶対買おう』
ブツリと音声が途切れ、放送が終了した。
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