第18回 書き出し祭り

3-17 その命より愛してる

18-3-17 その命より愛してる

https://ncode.syosetu.com/n3140ie/18/



感想をお読みになる場合は、以下の事を念頭に置いて読んでいただけますと幸いです。



①タイトル・あらすじの感想について

今回は、本文を読んだ後にタイトル・あらすじを改めて読んで、

『本文(作品)のよさをうまく読者にアピールするためには、どのようにタイトルとあらすじを書けば効果的か』

という観点で書いています。


②本文感想について

 純粋な感想(所感)の他に、本文から私・野菜ばたけが読み取れた内容と一部考察を記載しております。

 こちらに関しては、合っているから必ずしも良い/悪いとは一概には言えません。

 作者さんが知ってほしいと思っている情報がきちんと読者に伝わっているか、冒頭では隠しておきたかった情報が読者に気取られていないか、などを知るための一つの物差しとして、本感想をお使いいただけると幸いです。


③注意事項

 おそらく個人の趣向や好みが作用する感想箇所もあると思います。

 あくまでも『私がこれから綴る事が必ずしも答えという訳ではない』という事、そもそも小説執筆において、答えなどどこにも存在しない事を念頭において使いただけると、感想主・野菜ばたけも喜びます。




★タイトル感想★

 『その』と付いている事によって、人の命を塗り分けている(区別している)事が分かるタイトルである辺り、森谷のキャラクター性をよく表していていいな、と私は思いました。


 敢えて何かを言うとしたら『その命』がどの命なのか、冒頭では分からなかった事くらいですが、純文学よりで問題提起型の作品だと思うので、物語を一冊読み終えた後にどの命だったのかが分かれば成立するかなと思います。


 ※もしタイトルの意味が『るみさんの命そのものより、るみさんの存在を愛している(るみさんが命を失っても、その存在をずっと愛している)』という意味である場合は、ちょっとタイトル改良の余地があるかもしれません。


★あらすじ感想★

 どこに出す作品かによって評価が変わるかなと思います。

 現状は公募に出す梗概寄りなあらすじなので、公募に出すていで、その前半部分を出しているなら、このままでよし(むしろ端的に筋が説明されていて素晴らしいと思います)。

 Webで出すのなら、出してある情報は足りていると思うので、引き算するといいと思います。ちょっと書きすぎて本文のネタバレが過ぎている印象。めっちゃ勿体ない!!



★本文感想★


【冒頭時点でのキャラクター分析(※あくまでも個人の感想です)】

●森谷修(もりや しゅう)は、本当の愛を見つけ永遠にその愛と生きるつもり。

 大学生。本作の主人公。

 人間関係において、総じて淡泊な印象を抱く。

 ただ一人、るみに対してだけは大きな情を抱けたのかなと思う。

 

●世良美優(せら みひろ)は、愛されたかった。

 大学生。

 彼女。ただし肩書だけで、実際には片思いも同然。

 世良自身は森谷の事を、へきでもないのに首を絞められても耐えてきたくらい想いを寄せていた相手だった。

 おそらく首を絞められる事に限界を感じ、やめてほしくてかけ引きに別れ話を持ち出したら簡単に了承されてしまった、『不器用がたたって、意図せず関係性崩壊の最後のトリガーを引いてしまった子』なのではないだろうか。


●水原湊(みはら みなと)は、ある程度常識人であり、読者の代弁者。

 大学生。

 森谷と世良の共通の友人。

 森谷とは、互いに本音を言い合えるような仲か、友人と呼ぶには少々ドライな関係性であるかのどちらか。

(本文に『僕は大学の中で恋愛関係はおろか、交友関係もろくに作る気がなかった』と書かれているから、最初は後者の可能性が高そうかなと思っていたけど『長い付き合いになる友人』とも書かれているので、水原は一般から例外的な友人という立ち位置なのかも)

 ただ、そもそも水原自体がある程度ドライな性格でないと、友人である世良が目の前で可哀想な振られ方(見ようによっては愛のない弄ばれ方)をしていたにも拘わらず声を荒げないのはおかしいので、彼自身もある程度ドライな(自分は自分、他人は他人と、きちんと線引きをしている)人なのかもしれない。


 森谷と水原の友人関係は、ドライな森谷×ドライな水原だからこそ成り立っている(両方とも腹を立てずに話ができる)関係なのかもしれない。


●るみは、殺されたかった。

 ヒロイン? 故人。

 何らかの理由で殺されたかった(それが外的要因(生きるのが嫌になって、など)から来ているのか、内的要因(森谷と同じく殺してくれる事=愛だと思っていた)かは明確には分からないけれど、殺される時の陶酔感から、後者なのかなと予想。


●叶由美(かなえ ゆみ)は???

 ジャージ姿の家出少女。おそらく中高生。

 森谷修(主人公)を探しにきた。

 突如失踪した姉の行方を追っている(←あらすじから抜粋)


【所感】

 世間から少しズレた感性と恋愛観を持つ主人公・森谷が、その気質故に愛する人を自ら手に掛けたところから始まるお話。


 少し文学的な香りのする、独特の言い回しや文章だなと思いました。

 まだ作者未発表なのでこの作者さんの書き癖なのか、視点者の森谷にチューニングした結果なのかは分かりかねますが、主人公が持つ独特な雰囲気がうまく演出できている文体だなぁと思いました。


 森谷の恋愛観(首を絞める行為の意味)がしっかりと示されているのがよかったですね。

 世良とるみそれぞれへの想いの対比も効いていて、意図してそうなるように書いているんだろうな、ここが本作の主軸になるのだろうなという感じがヒシヒシとします。


 具体的には、『世良美優は意外と尽くすタイプなのだと感心した。』のところ。

 自分の行為を受け入れてくれた相手にはしても、それ以上の感情を抱いていない。だからこそ直後に「じゃあ、別れようか」とすんなり言えてしまうんだな、と思いました。

 世良に向けていた気持ちは最初から最後まで愛ではなかったのだと、この辺の会話文(やりとり)を聞いていただけでも分かりますし、だからこそこの後の水原の「君の言う誠実ってやつは本当に、その恋心に対しての誠実さだったのかい?」という言葉に読者は「うん、私もそう思う」と頷ける、という。


 その他にも世良の事は終始『世良美優』呼びなのに対して、るみの事は『るみさん』呼びなど、細かな所にこだわって……というか、きちんとキャラを深く掘り下げてから書いたのだなと思いました。


 特に後者のは、「呼び方ひとつでこうも感情を演出する事ができるのか」と、思わず唸りました。

 ありがとうございます。私の中に、吸収させていただきました。(←笑)


 

【惜しい!ポイント】

 本来主人公の感情が動くべきなのだろうポイントで、淡泊に感じるのが惜しい!


 というのもこの主人公、基本的に感情があまり動かない人に思えるのですよね。

 だからこそ、唯一感情が動く相手「るみ」がとても大きな存在だとという。

 とても上手く設定を作っているなと思いながら、だからこそその唯一ポイントで主人公の感情描写が少ないところがとっても惜しい。


 たとえば、冒頭の殺しのシーン。

 純愛のために、最愛の相手を手に掛けるシーンです。

 

 このシーンについて、少なくとも私は……


●『自分の手の中で綺麗に死んでいくるみ』を演出するために、彼女の動きや立った音などの描写を敢えて避けているのではないかな

 とか、

●犯行時の森谷の内心は中盤でその時の事を思い出している時に書いているし、文字数的にもキツいから、削ってもいいかな、とも思ったのでは?

 と推測しました。


 でも、冒頭でその作品の印象が決まります。第一印象、大事です。

 ここで情感あふれる(どのような精神状態・思想で最愛の人を殺めるのかが分かる)描写や、色彩豊かな情景描写・光が差し込んで綺麗、「苦しんでいる様さえ美しい」など(個人的には、真ん中シーンよりもこの言葉は冒頭に欲しかった!)を入れる事で、その後の世良とのシーンとの落差を演出し、「あ、この人るみ以外(世良)には本当に興味ないんだな」感をより浮き彫りにできるのではないか、と思いました。


 終盤で、るみさんとの時間を由美に邪魔された時も同じで、もうちょっと怒りや苛立ちを示す描写(貧乏ゆすりとか、舌打ちとか、由美に背中を向けるとか……etc.)があってもいいかもな、と思いました。

 


★最後に★


 今回時間がなく他の方の感想まで巡回できなかったので、もしかしたら同じ事を言っている所・逆に正反対の事を言っている所があるかもしれません。

 ご容赦ください。


 読ませていただき、ありがとうございました。

 とても楽しく、私の方も勉強しながら読ませていただきました!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る