Vol.3 【怪奇】いろんなUМAとコラボしてみた
第11話 部活動は放課後に
『駿、早く投げろよ』
ここはどこだ……?
『駿、試合始まってんぞ!』
試合? ああそうか、ここはマウンドだ。
今日は俺のピッチャーとしての大事なデビュー戦だ。
小学三年生になった俺は、地域の野球チームへと入った。入ったばかりの頃はいろんなポジションを試していたけれど、五年生になる頃には練習熱心さと運動神経を買われて、前から希望していたピッチャーのポジションを任されることになった。今日はその最初の試合だ。
『ビビんないで投げてこーい』
一個上である六年生の先輩が、キャッチャーミットをどっしりと構える。
俺は全神経を集中させて、指先の感覚を確認する。
大丈夫だ。いける。きっとやれる。あんなに練習したじゃないか。
野球というスポーツにおいて、ピッチャーは重要なポジションだ。
フィールドに一つしかないボールを、握り、投げる。文字通り試合を作ることになる。どんなに守備が良いチームだって、ピッチャーがダメなら台無しだ。
相手チームのレベルは同じくらい。
つまりデビュー戦にはうってつけの相手だ。
けれどより上のレベルを目指すなら、簡単に抑えないといけないな。
『…………』
集中して打席に立つ一番バッターは足が速い。そこは要注意。
キャッチャーからのサインを確認。うなずく。
まずはインコース。全力で投げ込む!
左投げの俺は、右足をあげて大きく振りかぶると、左腕をしならせて振るう。
ビュンっと矢のようにまっすぐ駆け抜けたボールが、キャッチャーのミットへと収まり、バシッと気持ちのいい音をたてた。
『おいおい、早いぞあいつ!』
『150キロくらい出てたんじゃないのか!?』
『バカ、小学生でそんなに出るかよ。……でも、めちゃ早いのは確かだ』
とたんにざわめき出す相手のベンチ。相手バッターはというと俺の球に全く反応できずに、まるで審判のストライクコールを聞いて初めて俺が投球したことに気がついたようなリアクションをする。
(いける……!)
良い感じの手ごたえをつかんだ俺は、バシバシと投げ込む。
すると面白いように空振りが取れ、アウトカウントが増えていく。
チームメイトは満面の笑顔で喜んでくれ、勢いづいたチームは先制点を奪った。
二回までをパーフェクトに抑えた俺は、三回に初めてのヒットを許したけれど後続を抑え、四回のマウンドに上がっていた。
『はあはあ……』
連打を浴びて、ピンチを迎える。
少し飛ばしすぎたか? いや、大丈夫。まだいけるはずだ。
――え? 交代?
監督、俺はまだいけます。代えないでください監督! 監督!
「監督!」
俺は思わず立ち上がってそう叫ぶ。
……え? 立ち上がって……?
「おいおい柳田、俺は監督じゃないぞ。そして今は数学の授業ということはわかっているか?」
教壇に立つのは担任でもある数学の先生。どっと笑いに包まれる教室。
そ、そうか。俺は小学生の時の夢を見て――。
「す、すみませんでした」
状況を理解した俺は、謝って席に座る。
は、恥ずかしい。昨日は動画がバズった喜びで興奮して眠れなかった。午前中の体育のバスケで全力を出したことも原因かもしれない。
「全力全開も良いけどな、午後の授業分の体力くらいは残しといてくれよ」
「気をつけます……」
それ以外返す言葉もないとはこのことだ。
それにしても授業。授業だ。河童さんの動画がバズった翌日の月曜日。
俺は普通に学校へ来て、普通に授業を受けている。
☆☆☆☆☆
「――って、なんで普通に授業受けるんですか!? 地球存亡の危機なんですよ!」
放課後、理科準備室へとやってきた俺はたまらず叫んだ。
今週の日曜日。あと一週間で地球がなくなってしまうかもしれない状況だ。なのになんで授業を受けているんだろう? バンバン動画を撮影して、地球の破壊を中止にしてもらわないと!
「まあ落ち着きたまえ駿君」
「落ち着いていられないですよ! 先輩、わかってますか? あと一週間なんですよ!」
「わかっているとも。しかし駿君、君の本分はなんだい?」
「学生ですか?」
「その通り! 君の本分は学生だ。学生たるもの、学業をおろそかにしてはいけないだろう」
「ですけど……!」
そんなことを言っている場合じゃないことは、先輩もわかっているはずだ。
「まあ聞きたまえ。現実的な理由もある」
「現実的な理由?」
「そうさ。もし君が動画の撮影を優先して、授業をサボるとどうなる?」
「えっと……家に連絡がいく?」
「その通り。そして僕たちの撮影はワープした先で行うから、最悪行方不明として警察に届け出がされるだろう。そうなったとき、どう説明する? ミューピコが僕に警告したような事態になるとは思わないかい?」
そうか。もし警察沙汰なんてことになったら、よほどうまくごまかさない限りミューピコの事を説明しないといけない。
そうなると宇宙人の存在云々も含めた大論争に発展するだろう。もしくは俺の言うことが嘘や妄想だと言われるかだ。いずれにしても、動画作りに影響が出るのは間違いない。
「それに我がUМA部はれっきとした最都中学校の部活だ。部活は放課後に行うものだよ」
「そういうものですか?」
「そういうものさ。勉学を大事にしてこそ、部活動にも身が入るというものだよ。全力全開が口癖の君ならわかるだろ?」
「たしかにそうですね!」
そっか、そうだよな。俺たちはただ動画を作っているんじゃない。すごく面白い、宇宙中でバズる動画を作りたいんだ。そのためには、必死に動画の事だけを考えなくちゃいけないという事でもないだろう。
ヨユーヨユー。心のヨユーからクリエイティブな発想が生まれるって、美術部で言っていたぞ。
「よし、じゃあ気を取り直して行きましょう! 葵!」
「はいはい。動画のネタならもう先輩からもらって、構成を考えてあるわよ」
「よし! あれ、ミューピコは?」
考えてみたら当たり前だけど、ミューピコは学生じゃないから学校には来ていない。どうするんだろう? 葵の家に迎えに行くのかな?
「ミューピコちゃんならほら」
葵がそう言うと、彼女の周りの景色が一瞬だけ歪んだ。
「みんな、勉強お疲れ様なんだよ」
と、ミューピコ登場。
今日は白いシャツにデニムのスカート。右手にはブーツを持っている。
「あ、ワープか」
「そうそう。うちに電話して、ここまでワープで来てもらったのよ。それにしてもミューピコちゃん可愛すぎじゃない? 私のコーデ天才すぎる!」
「葵が選んでくれる服はいつも可愛いんだよ。さあみんな、準備はいいかな? ジョーからもらった情報を元に、今日のUМAの居場所は見つけてあるんだよ」
ミューピコの問いかけに、俺たち三人はうなずく。
靴はもう持ってきてある。準備オーケーだ。
「それじゃあ、行くんだよ」
そしていつも通り、一瞬だけ風景が歪む――。
「……! 先輩、ここは?」
周囲を見渡してみる。森に囲まれた大きな湖だ。
古いお城のなごりみたいなものもある。
「ここはイギリス、スコットランド北部ハイランド地方にある湖。ネス湖さ!」
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