Vol.4 【実録】地球を救ってみた
第17話 地球最後の日
「ミューピコ、太陽系の区画整理の中止は?」
「まだ決定されていないみたいなんだよ……」
「そうか……」
日本に戻って、ここは先輩の家。
ミューピコの言葉に、空気が一段と重苦しくなる。
「それで、地球が破壊される時刻は?」
「えーっと、地球時間だと午後六時時あたりになるのかな?」
時計を見る。時刻は午後四時を回ったところだ。あと二時間弱か。
「追加の動画を撮影する時間もないし、もう終わりだ~!」
「先輩、落ち着いてください!」
「けれどね葵君、本当は日曜日にダメ押しの動画を投稿する予定だっただろう? でも寝てしまった」
「先輩も寝てたじゃないですか……」
日本と南米の時差は約12時間。動画を撮り終えてあちらでは日が沈み始めたころ、こちらでは夜明けだった。それから葵とミューピコが気合で編集作業を終えてアップ。そこで力尽きて全員寝て、起きたのが今だ。
「ミューピコちゃん、動画の再生状況は?」
「過去最高レベルでバズっているんだよ。緊迫感あるトラブルパートと、穏やかなオセロパートの温度差がうけるんだね」
「よし! 私の狙い通りッ!」
ミューピコが言うように、今回のチュパカブラさんの動画は過去のどれよりもすごいペースで再生回数が増えているみたいだ。コメントもバンバンついているし、SNSでも話題になっている。
けれど、宇宙評議会は動かない。マスコミが議会に押し寄せ、抗議の団体がデモ行進をしているらしい。それでも宇宙評議会は、当初の決定を変えない構えだそうだ。
「ああ、そもそも動画の影響力で覆そうというのが無理だったんじゃないかい? 例えばそう、脱出する宇宙船を造るとか、地球ごと動かすとかしていればさあ!」
「今さら言わないでくださいよ。それに一週間じゃどんな天才でもどっちも無理でしょ」
時間。時間は大切だ。例え才能がない人でも、毎日コツコツとしていれば何かを成し遂げられるかもしれない。でも逆に言えば、どんな天才でも時間がなければ何もできない。そして人類全体の時間は、あと二時間もしないで尽きるのだ。
「よし、みんな家に帰るといい」
「どうしてですか?」
「最後の時間くらい家族と過ごしたまえ。ご両親もそれを望むだろう」
「俺は帰りませんよ。あと二時間じゃなくてまだ二時間もある。きっと何かできるはずです」
「私も帰りませんよ。地球がこれで終わりなんて認めるもんですか」
「君たち……」
けれど実際、何ができるんだろう?
宇宙的超科学の前には、俺達なんて無力どころじゃないと思う。
「ミューピコちゃん、あなたは宇宙に帰りなさい。宇宙船があるんでしょう?」
「そうだ。今までありがとう。でも君まで巻き込まれる必要はないよ」
「葵、駿……けど……あっ! そうだ、ウチの宇宙船なら三人くらい乗れるんだよ、それで三人は助か――」
「ありがとう、けどいいんだ」
自分たちだけ逃げるなら、最初から動画制作なんてしていない。
きっとミューピコもそれはわかっている。けれど言わずにはいられなかったんだろう。
「そういえばミューピコ、地球の破壊ってどうやって行われるんだ?」
「それは惑星破壊マシーンを使うんだよ」
「惑星破壊マシーン?」
なんとド直球な名前だ。
「うん。正式名称はもっと長いんだけどね。対象の惑星を生命体ごと
「こ、光子レベル……!」
驚くジョー先輩。ちなみに俺はレベルが高すぎてわからない。ちなみに葵もうんうんとさもわかっています風にうなずいているけど、これはわかっていないときの顔だ。幼馴染の俺にはわかる。
「わからないかい? つまり物質を光に変えてしまうということだよ!」
「光に?」
「そうなんだよ。圧縮された超重力波をぶつけてどうこう……まあこれは専門家じゃないからわからないんだけど、とにかくチリすら残らず光になるんだよ」
チリすら残らないのか。つまり俺たちがこの宇宙に生きた証はなにも残らない。まるで最初から地球人なんていなかったように、宇宙は動き続けるのか。
「惑星破壊マシーンは対象にかなり近づかないといけないから、もうすぐ見られると思うんだよ。そしてそのやって来る場所は――
☆☆☆☆☆
自転車や電車を使うと結構な時間がかかる可矢山も、ミューピコのワープにかかれば一瞬だ。山頂へたどり着いた俺たちは、空を見上げる。
「午後五時。そろそろか……」
曇り空が一瞬だけ歪んだ。すると次の瞬間、空を覆ってしまうほどに大きい、金色に輝く花のような形の巨大なふゆう物体が現れた。
「お、大きい……! あれが惑星破壊マシーン!」
つまりあれが俺たちに終わりを告げる存在ってことか。
「おかしいわ!」
「どうしたんだ葵?」
「だって変じゃない? あれだけ巨大なモノが空に浮かんでいたら、もっと騒ぎになっているでしょ。自衛隊だってやって来るはずだわ」
確かに。これだけ巨大なモノが突然空に出現したというのに、山の上から見える町は普通に活動しているみたいだ。まるでそんなモノ存在しないかのように、連休を楽しんでいるようだ。
「見えていないんだよ」
「見えていない?」
「そう。UМA部のみんなはウチの端末で見えるようにしているけれど、他の人には見えていないんだよ。電磁的にも視覚的にも、高度なステルス技術が使われているからね」
ステルス。ネッシーが見つからない理由だって言っていたやつか。そしてそれをはるかに高度なレベルでしているはずだから、文字通り俺たち以外には見えていないのか。
「はは、地球人は当人たちも気づかぬうちに絶滅するというわけか……」
ジョー先輩が力なく笑った。
そして空中に浮かぶ巨大な花弁の中心が、黄金色に輝き始める――。
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