Vol.1 【衝撃】宇宙人と出会ってみた

第1話 全力少年

「ぬおおおおおおおおおっ!!!」


 放課後の教室。そろそろ夕日が差し込み、世界が真っ赤に染まり始めている。

 そんな中、俺――柳田 駿やなぎた しゅんの心も同じように真っ赤に燃え上がっていた。なぜならば――。


「中学生だああああああっ!!!」


 ――そう、なぜならば俺はこの春から中学生になったからだ!


「はいはい、だからなんなの?」

「おい葵、お前にはわからないのか。最高の中学生活をおくってやろうという、この俺の情熱が!」

「わーかーりーまーせーんー。だいたい中学生になってもう三週間も経つじゃない。いいかげん落ち着きなさいよ。じゃないと幼馴染の私まで恥ずかしいし」


 そんな冷めた感じで返答するのは、家が近所で幼馴染おさななじみ今宮 葵いまみや あおいだ。

 腐れ縁というやつなのか、幼稚園からずっと同じクラス。やっぱりというべきか、この春からも同じ最都さいと中学校一年五組だ。


「そもそも駿、あんた私に相談があるから教室に残ってくれって言わなかったっけ?」

「――ああ、そういえばそうか」


 燃え上がる情熱ですっかり忘れていた。

 葵はそんな俺にあきれながらも、帰らないで話を聞いてくれるみたいだ。


「葵、俺たち中学生になったんだぞ?」

「それはもう聞いた」

「じゃあさ、中学生になったら小学生と何が違う?」

「うーん……、ランドセルじゃなくていい?」

「ふ、違うな」


 確かに大きな違いだ。けれどそんな見た目の話じゃない。


「じゃあ勉強が難しくなる?」

「それも違う」


 それも大きな違いかもしれない。俺も不安だ。だけども違う。


「それなら学生服を着るようになる?」

「それも違ーうっ!」

「じゃあなんだって言うのよ。さっさと答えを言いなさい!」


 しびれを切らした葵がついに叫ぶ。

 やれやれ、仕方ない。答えを言ってやるか。


「部活だよ」

「はあ、部活?」

「そう! 中学生になると部活がある! 中学生と言えば部活、部活と言えば中学生! 野球部サッカー部テニス部バスケ部放送部演劇部卓球部文学部書道部吹奏楽部バレー部陸上部水泳部バドミントン部美術部剣道部柔道部空手部ソフトボール部茶道部などなど。他にもその中学校独自の部活がたくさん! 運動系文化系問わず、全国の中学生が目標に向けてみんなで協力し、切磋琢磨しあい、そして歩む! 最高の部活に入ることが、最高の中学生活の始まりと言っても過言ではないッ!!!」


 全力! 全開! いつでもフルスロットルな方が毎日楽しいぜ!

 けれど葵は、そんな俺とは対照的に冷めた様子で、


「へえー、じゃあどっかに入部すれば? はい解散。私は帰りま~す」

「待て待てちょっと待ってくれ! 相談ってのは、俺がどこの部活に入ったらいいかってことなんだ!」


 振り返った葵は、「はあ?」と怪訝そうな顔をした。


「あんた小学生の時、少年野球してたじゃん。結構活躍してたでしょ?」

「おう、三番センターだ!」


 俊足強打、守備はご愛敬。千秋寺小せんしゅうじしょうの全力ボーイ駿と言えば俺のことよ!

 ピッチャーをやったときは、初回から飛ばしすぎてすぐばてた。だから外野!


「なら野球部でいいじゃん。はい、解散」

「それじゃだめなんだよ!」

「なに、野球嫌いになったの?」

「いいや、好きさ」


 今でも野球は、見るものするのも好きだ。けれど違う。俺の中で少し違う。


「ならどうして?」

「朝から晩まで白球を追いかけて青春! なんてのも良いと思う。だけど俺が求めているのは少し違うんだ」


 もちろん野球は好きだ。けれど俺は、上手くなって将来甲子園を目指すとか、プロ野球で活躍したい……というわけではないと思う。

 競技自体を楽しむために野球部に入るという選択肢はあるけれど、一生に一度の中学生活を全力で楽しむために、俺は自分の中の新しいなにかに挑戦したい。


「ふーん、ならサッカー部にでも入る?」

「それは違うんだよなあ」

「ならバスケ部かテニス部?」

「それも違うんだよ……」


 バレー部、陸上部、バドミントン部。

 葵があげる運動系部活の数々に、俺は首を横に振り続ける。


「なによ。あれだけ言って野球部に未練たらたらなの?」

「いいや、どれも試したけど違ったんだ」

「試した?」

「ああ。この三週間、この学校の全ての運動系の部活に体験入部した」

「全てのって……全部!?」

「そう、全部」


 どれも面白かったし、良い先輩たちがいたと思う。

 けれど違った。俺の人生一度きりの中学生活をおくる舞台には惜しかった。

 何が惜しいのか自分でもわからない。でも俺の中の何かが違うと言っている。


「まったく、熱血おバカのあんたには運動系がお似合いだと思ったのに」

「俺もそう思う。でも違ったんだ」

「はあ、あんた昔から妙に頑固だから、そう考えたなら仕方ないわよね」


 俺の考えを聞いて溜息をつきながら、葵は否定しなかった。

 こういう時、この今宮葵という幼馴染は面倒見がいい。だから相談した。


「で、どうするの? 駿の口振りじゃ、文化系の部活はまだ試してないってことよね?」

「それなんだ。俺そういう文化系みたいなの初めてなんだ。だから体験入部につきあってくれ!」

「はあ!? なんでよ、男友達にお願いしなさいよ!」

「それがみんなもう部活入っちゃっててさあ。なあ葵、頼むよ。お前まだ部活入ってないんだろ?」

「私はお姉ちゃんみたいに動画投稿を始めたいから部活に入んないの。他を当たってちょうだい」


 大学生になる葵のお姉さんは、インフルエンサーと呼ばれる人気動画投稿者らしい。葵がは昔からそのお姉さんにあこがれている。中学生になってスマホを買ってもらって、動画投稿者になりたいとは、葵が小学生いや幼稚園から常々語っていた夢だ。


「頼むよ、他に頼めそうな文化的なやついないんだって」

「……文化的?」


 葵の耳がピクリと動いた気がした。幼馴染の俺にはわかる。ここがチャンスだ!


「そうそう! 葵って昔から博物館とか美術館とかよく行ってんじゃん」

「それは、動画のために感性を養うためだし」

「そういう視点からアドバイスが欲しいんだよ~」


 俺は今までスポーツばかりしてきた。だから運動系の部活は直感的に判断できた。けれど文化系部活が向くか向かないかなんて、自分では判断しづらい。

 新入生の体験入部期間はもうすぐ終わって正式に入部届を出さないといけないし、なるべく短い期間で判断するには、葵みたいなアドバイザーが必要だ。


「ふーん、文化的。駿にしては悪くない響きだわ。うん、良いわよ。仮入部期間の間は協力してあげる」

「ほんとか!?」

「ほんとよ。けれどそうねえ、駅前のカフェの新作パフェでもおごってちょうだい」

「おいおいまたスイーツかよ。そんなに食べてるとまた太――いや、なんでもない! 協力サンキューな。さすがは葵様!」


 思わず言ってしまった俺の言葉に、葵はギロっと鋭い針のように攻撃力ある目線で返事をした。

 ま、まあともかく、これで良いアドバイザーが協力してくれることになった。最高の中学生活へ向けた第一歩を踏み出した俺は、たまらず夕日に向かって叫ぶ。


「うおおおっ! 俺は最高の部活を見つけて最高の中学生活をおくるぞおおお!」

「だからうっさいって……」

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