第15話 ジャングルぐるぐる
中南米全域で目撃例があるというUМA、チュパカブラ。日本語だと少し可愛らしい響きも感じるその生物の実態は、非常に
「いやいやいや、絶対ヤバいやつでしょ」
「そうとも限らないさ。人間だって家畜を食べるじゃないか。話し合えば案外気の良い連中かもしれないよ?」
「そうかなあ……?」
ここは南米アルゼンチン。日本からすると、ちょうど地球の反対側にある国だ。そんなとこでもワープで一瞬だし、宇宙の科学力ってすげえ。
「でもなんでこんな森の中? 虫も多いし勘弁してほしいわ」
と、虫を払いながらしゃべる葵。
「ジョーからもらった情報に一致する生物は、このジャングルにいたんだよ」
「そう! チュパカブラは1995年にカリブ海に位置するプエルトリコで発見されたのが最初だと言うが、この南米大陸でも広く目撃情報がある。チュパカブラの名は現地の言葉で『ヤギの血を吸う者』の意味で――」
と、先輩のチュパカブラうんちくは止まるところをしらないけど、聞けば聞くほどヤバいやつだと思えてくるので、ほどほどにスルーしておく。
「ところで葵、そのチュパカブラとどんな動画を撮る予定なんだ?」
「良い質問ね!」
良い質問も何も、俺だけ知らされていないのだから聞かなくちゃいけないんだが。
そんな俺をよそに、葵は腰に手をあて得意げに話す。
「ズバリ! 『チュパカブラとオセロをしてみた』よ!」
「へー。……ん? なんでオセロ?」
「駿ったら忘れたの? 私たちはUМAの珍しさで動画に引き寄せつつ、文化をアピールしないといけないのよ?」
「なるほど、そういえば」
河童さんと相撲をしたのも、イエティさんとおでんを食べたのも、スポーツ文化や食文化をアピールするためだったな。
「獰猛とウワサされるチュパカブラが大人しく何かをしてるだけで、それはもう一種のコンテンツだわ。わかる?」
「なるほどなあ。あれ? じゃあネッシーの時は?」
「ダイナミックな画が欲しかったのと、風景のアピールよ」
つまり俺が振り回されるドタバタ映像にしたかったと。
俺たちはそんな他愛のない話をしながら、ジャングルの奥地へと進んでいった。
☆☆☆☆☆
「いない!」
歩き始めること三時間。そして持ってきた昼食を食べ、さらに探すこと五時間。
いつものように簡単に出会えると思ったチュパカブラは、いっこうに姿を現さない。
「ミューピコ君、本当にこのあたりにチュパカブラはいるのかい?」
「うーん、間違いないはずなんだよ。ウチの機械が地球全体をスキャンして、出現地点をかなり細かいところまで絞り込むから。今までだって簡単に会えたでしょ?」
確かにその通りだ。幻だなんだって言われるネッシーも、ワープしてすぐに顔を出した。ミューピコの機械が壊れていないなら、もう出会えていておかしくない。
「いったん出直しますか?」
「そうするしかないようだねえ。あと一時間だけ探して、それから帰ろうか」
帰るという事は、今日の分の動画投稿は諦めるということだ。
最後の一押しが欲しいこの状況で、それは厳しいな。
「ああ、虫が多いの我慢したのにとんだ無駄足ね。……っ!? ねえジョー先輩、確認したいことがあるんですけど」
「なんだい葵君?」
「チュパカブラって、牙ありますか?」
「あるよ」
「じゃあ背中にトゲってありますか?」
「あるよ。近年では毛のないコヨーテの誤認と言われるが、初期の目撃例にはトゲがあり、二本足で歩き、すさまじい跳躍力があったと言うね」
「そして
「その通り! 葵君はよく勉強しているね」
聞くたびに思うけど恐ろしい見た目だよな。
さすがにこいつと相撲をとれって言われても無理だもん。
「じゃあ落ち着いて、ここにいる人数を数えてみてください?」
「人数を? 一、二、三……」
葵の妙な指示に従って、先輩は人数を数えていく。
まずは俺、次に葵、そしてミューピコ、一人一人指をさしてだ。
「……四と。ちゃんと全員いるよ?」
「先輩、自分を数え忘れていますよ?」
「おお、ご指摘感謝するよ駿君。じゃあ一、二、三、四、そして五! ちゃんと全員いるじゃないか――って多い!?」
本当だ。俺も自分で数えてみたけど、一人多い。
俺、葵、先輩、ミューピコ、そして――。
「「「「!?!?!?」」」」
四人そろって声にならない叫びをあげる。ミューピコもだ。
いた。五人目がいた。なんで気がつかなかったんだ。ジャングルと同じ濃緑色の体に、鋭いトゲと牙。そして顔にはギラギラと輝く赤い瞳。間違いない。チュパカブラだ!
「ミュ、ミューピコ君、すぐに翻訳機を!」
「わ、わかったピコ!」
そうやって慌てる俺たちを、チュパカブラは右手をあげて制した。
「あ、大丈夫です。アニメとか見るんで日本語わかります」
――アニメ見るんだ!?
「あの……、いつから俺たちと一緒にいたんですか?」
「最初からです。あなた方がここに来た時から」
「その……こっそりつけてた?」
「そうなりますね。自分、人見知りですから」
――人見知り!?
なんとまあ、想像していたのと違って大人しそうだ。
やっぱり他人を見た目で判断しちゃいけないな。
「あの、実は少しお願いがありまして……」
俺たちはおおよその事情をかいつまんで話した。
チュパカブラさんは熱心に、うんうんとうなずきながら聞いてくれた。
「そういうことなら、協力しましょう」
「本当ですか!?」
「当然です。私たちはこの地球に住んでいる、言わば家族みたいなものじゃないですか」
――じ、人格者だ……!
「日が暮れてしまいますし、早速始めましょう。それで、私は何をすればいいのでしょうか?」
「ああ、これです」
そう言って先輩は、背負ったリュックからオセロセットを取り出した。
それをチュパカブラさんは、興味深そうに観察する。
「それは?」
「オセロと言う遊びです。簡単に覚えられますよ、こうやって盤面の上に白と黒の駒を置いて、こう挟んで裏返す」
ぱちんと、濃緑の盤面で駒がひっくり返った。
「最終的により多くの駒を持っていた方が勝ちです。簡単でしょう?」
「ほう、オセロ。ほう……」
なんだかチュパカブラさんの様子がおかしい気がする。それに気づかず先輩はにこやかに話しているけれど、なんだか目が赤くギラついているような……?
「……私たちチュパカブラの文化で、濃緑の盤面はジャングルを現します」
「ほう、それは興味深い」
「そして、その盤上で白と黒の駒を裏返しあう……」
「敵と味方が目まぐるしく入れ替わる、シェイクスピアの同名の戯曲が由来だそうです」
なんか空気がやばいって。
チュパカブラさんからなんとも言えない迫力が出てるって!
「興味深い遊びだ。しかし我々チュパカブラの文化では、別の意味を示します」
「ほう、どういう意味ですか?」
「それはな――“このジャングルで命果てるまで戦おう”ってことだ! キシャアアアッ!!!」
「「「「うわああああああっ!?」」」」
それ血を吸わなくても頭からバリバリ食べれそうじゃん。そう言いたくなるような、牙だらけの口とトゲがつい舌を丸出しにして、チュパカブラさんが叫んだ――。
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