第14話 本当の理由

 あれから葵とミューピコが編集作業をして動画をアップし、無事に再生数を稼げたことを確認した俺たちは、今日は解散ということになった。


 薄暗くなってきた帰り道を歩くのは、俺と葵。家の方向が一緒だからだ。

 ミューピコは「ちょっと用事があるんだよ」と言ってどこかへ行った。


「ミューピコどこかへ行っちゃったけど、ちゃんと帰ってこれるのか?」

「大丈夫でしょ。この前なんて、駄菓子を沢山買ってきたわよ。ちゃんと人目につくとこでのワープは避けてるし、心配いらないわ」


 駄菓子? ミューピコも地球ライフを楽しんでいるんだなあ。


「それより駿、あんた本当に地球存亡の危機って実感ある?」

「どういう意味だ?」

「いや、もちろんミューピコちゃんの事は信用しているんだけど、最悪明後日には地球滅亡なんて実感わかなくて」

「それは……」


 それは同意見かもしれない。例えばわかりやすく悪い宇宙人がやってきて、「地球を征服してやる!」と世界各国の都市に攻撃をしかけてきようものなら、それはリアルな脅威に感じるかもしれない。


 けれど今の俺たちには、銃を突きつけられているわけでもなければ、地球を破壊できるような大きな爆弾が目に見えているわけでもないのだ。


「そうだな。本当の意味で危機感みたいなのはないかもしれない」

「でしょ? 私GALAXY MYUTUBE――あの宇宙の動画サイトを少し見させてもらったのね。そしたら私たち地球人はあと二日の命だってのに、そんなの関係ないファッションの動画とかお笑いの動画とかバンバン上がっているの。別にそれはいいんだけど、本当に興味ないんだなって」


 ミューピコの話の通りなら、俺たち地球人と宇宙の人々の姿形はほとんど変わらないはずだ。そんな生物が八十億人も住んでいる地球が、横暴によって破壊されようとしている。それでも関心のない宇宙の人は多いらしい。


「結局人間って、自分の家が燃えるまでは気がつかないな生き物なのかしらね?」

「どうだろうな。ミューピコの話によると、反対してくれている人は増えているみたいだけど」


 ちょっと河童さんの事を思い出す。人間が環境破壊をするから、河童さんたちは住む場所を奪われている。それも人間の鈍感さなのかもしれない。


「そうね。ま、私たちは面白い動画を作って、アピールするしかないか!」

「そうだな。葵のバズるアイデア、期待しているよ」

「ふふ、任せなさい。それじゃあね、駿」

「ああ、また明日な」


 俺は家の前についたので、葵に別れを告げて家に入ろうとする。

 その背中に、声をかけられた。


「ねえ、駿はどうして野球部に入らなかったの?」

「それは――」


 答える前に葵の言葉は続く。


「なんかごちゃごちゃ理由言ってたけど、そこの部分引っかかってんのよね~」

「……葵は俺が少しだけピッチャーやってたの知っているだろ?」

「あー、すごい球投げられるけどすぐバテるから、外野にコンバートされたんだっけ?」

「その通り。俺は常に全力だ。でもそれは一生懸命やろうと思ってそうなるんじゃなくて、自然とそうなるんだ」

「……? どういうこと?」


 俺の言葉に、葵は疑問の表情を浮かべる。


「加減とかバランスみたいなのかな? そういうの、俺できないんだ」

「なに? あんたが昔から不器用だって話?」

「そうそう。ピッチャーってスタミナ配分が重要なんだよ。それができない」


 練習ではともかく、試合となると相手バッターもこちらに球数を使わせようと粘ってくる。そうなると、俺のスタミナがもつのはせいぜい三回まで。


「じゃあ途中まで投げるとか、途中から投げるとかすればいいじゃない……って、あんた妙にこだわりが強い部分があるから、そこかしら?」

「そう。俺は最初から最後までグラウンドに立っていたいタイプだ。だから、やりたい事とやるべき事が一致しない感じでさ」


 現代のプロ野球や高校野球の強豪校は、何人もの投手が継投する投手分業制が当たり前だ。けれど俺は、最初から最後までマウンドに立つ。そんな投手にあこがれていた。


 だから野球を嫌いになったわけじゃない。むしろ好きだ。けれど自分のやりたい事とやるべき事が一致せず、全力で臨めないという、引っかかりあった。だからそのまま進むのも戻るのも逃げているように感じた。


「……フフ、ワガママとか私に言ってんのに、あんたの方がワガママじゃん」

「やっぱりワガママかな、俺?」

「ワガママよ。それに目立ちたがり屋かな。向いてんじゃない、動画投稿者?」

「向いている……。生まれて初めて言われた言葉な気がする」


 言われてみれば俺は単に、こだわりが強くワガママですごく不器用なだけだ。

 そんな俺でも向いているものがあるのか。


「ふう、結局駿はクソ不器用でしたってだけか。聞いて損したわ」

「おい」

「じょーだんよ、じょーだん。ねえ駿、それじゃあUМA部は駿にとって、全力でがんばれる居場所なの?」

「居場所か……」


 突然宇宙人のミューピコと出会って、地球存亡の危機に巻き込まれて、あまりそういう事を考えていなかった。ただ目の前のことを必死に――ああ、それが全力ってことか。でもまあ、今答えられるのは――。


「それを決めるのは、地球を救ってからかな?」



 ☆☆☆☆☆



「それじゃあ行ってきまーす!」


 翌朝。俺は先輩の家へ向かうべく、家を出ようとしていた。

 玄関の扉を開くと、お母さんが見送ってくれた。


「駿、今晩は部長さんの家に泊まるんだって?」

「そうだよ。部活で作ってる課題があってね」

「そうなのね。それじゃあ気をつけて、行ってらっしゃい」

「うん、行ってきますお母さん」


 行ってきますか。もし地球の破壊を防げなかったら、ただいまを言う機会はないな。

 そんなことを考えながら自転車をこいでいると、あっという間に着いた。

 既に葵とミューピコは到着していて、出発の準備は整っているみたいだ。


「諸君、いよいよ我がUМA部による地球破壊阻止作戦も、佳境となった!」


 と、演説を始めるジョー先輩。

 俺が言うのもなんだけど、朝から元気だな。


「といわけで、ついにМを題材に動画を作ることにした!」

「先輩、あのUМAって?」

「決まっている――チュパカブラだッ!」

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