第6話 撮るべきはUМA

「あ、すみませーん。お食事中急に叫んじゃって……」


 謝りながら席に座りなおす。それにしてもあんまりな再生回数だ。

 全宇宙の人口がどれくらいかは知らないけれど、16回という数字が少なすぎるということは、さすがに俺でもわかる。というかあれだけ体を張ってたったそれだけって!


「ちょっと動画を見せてちょうだい!」


 そう言って葵はミューピコから端末を受け取る。

 撮影の時に持っていた、小型のビデオカメラみたいな端末だ。

 動画の出来栄えが気になった俺は、葵の後ろから画面をのぞき込んだ。


 その中ではさっきのドタバタなライオン騒動inアフリカが、字幕やテロップつきのちゃんとした動画になっていた。ちなみにタイトルは『【癒し】地球の可愛い動物【衝撃の展開】』だ。


「……うーん、ちゃんと編集はされているし、サムネもタイトルもまあこれで良いと思うわ。それでこの再生数は……?」

「あ、葵! 下のところを見てくれ」


 俺はあることに気が付いて、葵に声をかけた。

 それは動画の下の方に表示されている、視聴者からのコメントだ。


「えーっと、『可愛いモルルですが、あわてすぎではないですか?』……?」

「そうそう、それそれ。なあミューピコ、モルルって知ってるか?」

「モルルはストン星系に生息している動物なんだよ」

「もしかしてそのモルルってのは、ライオンに似ていたりするのか?」

「そうだよ。ほとんど一緒かな?」


 やっぱりそうか。


「ねえ駿、どういうこと?」

「ミューピコが先輩に言っていただろ? 『生命の発生条件には限りがあるからね。似たような存在になるのは合理的』だって。それはきっと人だけじゃなくて、他の生物も一緒なんだ」


 同じような人間型の生物がいるのなら、きっと犬やネコみたいな他の動物、虫や魚だっているはず。それには当然ライオンだって含まれるわけで……。


「そのストン星系や他の惑星だと、ライオン型の生物って珍しくないのか?」

「家で飼うのが当たり前の星もあるんだよ」


 すごいな。地球でも大金持おおがねもちの人は飼ってそうだけど。

 状況を理解した葵は、少し険しい顔になった。


「え? ミューピコはそれをわかっていてライオンの撮影に賛成したの?」

「そうなんだよ。もしかしていけなかった?」

「いけないわけじゃないんだけどね。もし珍しくないと知っていたら教えてほしかったっていうか……」


 まあそうだよな。

 葵の言葉に、ミューピコはバツの悪そうな顔をする。


「動物系の癒し動画は、犬やネコといったありふれた動物のものが中心だし、あのライオンという生き物でも大丈夫だと思ったんだよ……」

「そういうことか……」


 最初は少し険しい表情をしていた葵も、事情を察してため息をつく。

 宇宙でもライオンが珍しいかをミューピコに確認しなかった、俺たちのミスだ。


「地球のPR動画だから、宇宙で珍しいものを撮影しないとなんだよね。ウチが言い出したのに肝心の部分が抜けていたんだよ。ごめんなさい」

「いいや、ミューピコが謝る必要はないよ。言葉が通じてもコミュニケーションって難しいな」


 でもどうすればいいんだろう? 例え犬やネコの動物系癒し動画を撮影したとしても、そんな動画宇宙ではありふれていて沢山の再生数を稼ぐのは難しそうだ。


「暴露系なんて意味ないし、ゲームの実況動画……も無理ね。だとしたらチャレンジ系? でも何にチャレンジしたら……?」


 葵もさっきから、ブツブツとつぶやきながら考えている。けれどなかなか良いアイデアは浮かんでこないみたいだ。条件は一週間以内に宇宙中でバズる――話題になること。その条件だと制作できる動画の種類も限定されてくる。


 俺も葵もミューピコもみんなで考えるけれど、決して答えは出ずに沈黙する。


「フフフ、どうやら僕の出番のようだな!」


 そんな沈黙を打ち破り立ち上がったのは、UMA部部長ジョー先輩だ。


「先輩、何か思いついたんだですか!?」

「そうとも駿君。ミューピコ君、これを見てくれたまえ」


 そう言って先輩は、自分のタブレットをミューピコへと見せた。

 そこにはいくつかの生物の絵や写真が映し出されている。


「ジョー、この奇妙な生物たちはなんなんだよ……ピコ?」

「それは――UMAさ!」


 表示されている絵の横には、それぞれ名前が書かれている。

 ネッシー、イエティ、河童、ツチノコ、そしてチュパカブラなどなど。

 うわ、チュパカブラってこんなおぞましい生き物だったのか。


「どれでもいい。ミューピコ君、そのリストのっている生物で、宇宙では珍しくないものを教えてくれたまえ」

「ううんジョー、ここにのっている生物たちは、全部初めて見るんだよ!」

「ククク、やはりそうか。これで方程式は整った!」


 不敵な笑みを浮かべた先輩は、自信満々に言い切った。


「どういうことですか、先輩?」

「簡単だよ。僕たちはUMA部! UMAと接触する動画を撮影するのさ!」

「え? つまりネッシーとかを撮影するってことですか?」

「その通り! ミューピコ君の言う通り、どうやら宇宙は同じような生物であふれているようだ。つまり逆に言えば、地球で未確認生物と言われるUMAたちは、他の星でも未確認生物あるいは珍しいということになる!」


 なるほど。たしかにミューピコの反応を見る限り、先輩の推測はたしかのようだ。


「つまりUMAは隠れた地球固有生物の可能性が高い! それらを撮影すれば、地球のアピールにつながるというわけだ!」

「さすがは先輩! UMAをどうやって見つけるんですか?」


 UMAは確認できていないからUMAなのであって、確認できないと動画にもできないのでどうしようもない。


「それなら心配ご無用。ミューピコ君、先ほど君はライオンを“検索”したと言っていた。つまりだいたいの情報があれば、その生物がこの地球上のどこに生息しているかわかるということで間違いないかな?」

「その通りなんだよ」


 そうか、俺にもわかったぞ!


「つまり! その検索システムを利用してUMAを発見! 即座にワープして向かい、動画を撮影して投稿! それをこの一週間毎日行う! 葵君、チャンネルの知名度を上げるためには、毎日投稿は必須だったね?」

「そうですね。少しずつでも毎日再生数を稼いでいけば、あとは宣伝しだいで知名度はなんとかなると思います。もちろん地球ではですけど」

「なるほど。ミューピコ君の意見は?」

「それで問題ないと思うんだよ。ウチの友達に頼んで、宇宙のSNSでいっぱい宣伝してもらうんだよ。こんな不思議な生き物を見たら、みんな驚くピコ」


 うん、いける。これならいけそうだ!

 一週間後の地球の危機。それまでに間に合え!


「うおおおおっ! 先輩、俺なんでもやります!」

「簡単になんでもと口にするのはおすすめしないけれど、君には色々がんばってもらうことになるよ」

「はい、任せてください! 全力全開でがんばらせてもらいます!」


 動画の事もUMAの事もあまり知らない俺は、とにかく全力でがんばるしかない!


「じゃあ早速、撮影に行きますか?」

「いや、今日はやめておこう。時間も遅くなってるし、これから撮影に行けば帰る頃には日が暮れてしまう。焦りは禁物だし、休息は重要さ」


 確かに。時計を見ると、もう午後三時になろうとしている。

 地球の危機は一週間後だ。けれど焦っても、人を楽しませる動画は撮れないよな。


「そうなんだ。じゃあウチは山で待っているんだよ」

「明日また可矢山に来るのは不便だな。うん、それじゃあミューピコ君は僕のうちに泊まるといい。両親は海外で実質一人暮らしだし、部屋は余ってる」


 へー、先輩一人暮らしなんだ。

 いいな一人暮らしって。大人って感じで。


「ちょっと待ってください、ミューピコは女の子なんですよ!」

「それがどうかしたかい? もちろん僕にやましい気持ちなんてないさ」

「なくてもです! ミューピコはうちに泊めます!」

「葵の家って大丈夫なのか? おじさんもおばさんもいるだろう?」


 俺の頭に、まじめそうな葵の両親の顔が思い浮かぶ。

 葵がいきなり宇宙人を連れてきたら、気絶するんじゃないか?


「外国から来た友達って言えば、一週間くらい大丈夫よ。ミューピコ、ウチに泊まりなさい。一週間毎日パジャマパーティーをしましょ?」

「葵の家の方が面白そうなんだよ」

「むむ。宇宙について色々聞きたいことがあったが、そういうことならば仕方あるまい。本人の意思を尊重しよう」


 そんなこんなで、俺たちUMA部と宇宙人ミューピコによる、地球存亡の危機回避のためのPR動画制作は幕を上げたのであった。

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