第3話 あおい星にて

「それにしても駿君。君はUMAとは何か聞いたこともないのにこの部の門をたたくとは、チャレンジャーというかなんというか」

「あはは、まあ体験入部ですから」

「た、体験入部ぅ!? それはあの、一日二日くらいお試し体験するあの体験入部かい!?」

「はい! 俺、どの部活に入ったら中学生活を最大限楽しめるのか、全ての部活に体験入部してまわっているんです!」

「す、全ての……!? あ、葵君はどうなんだい?」

「私は駿のつきそいでーす」

「つ、つきそい……! ああ、三年生の先輩方が抜けたけど新入部員がやって来たと思ったのに。せっかく正式に名前も変わったというのに――いや、待て! 体験入部ということは、気に入れば正式入部もありえるということでは?」

「はい! この部なら最高の中学生活をおくれる! そう思ったら正式入部したいと思います」

「なるほど! 葵君は?」

「私はただのつきそいなんで……」

「君は何か部活に入っているのかい?」

「いえ、入ってませんけど」

「なら可能性はあるわけだ!」


 俺はともかく葵はあるのかな?

 けれど先輩はそんな疑問抱いていないように続ける。


「ちょうどよかった。君たちは運が良い!」

「どういうことですか?」

「駿君、可矢山かやさんは知っているかい?」

「ええ、まあ」


 可矢山は富士山にも例えられるこの地域では有名な山で、シーズンには多くの登山客が訪れるような場所だ。


「実は可矢山にはUFОユーフォーの発着基地が隠されているという話なんだ」

「えーっ!? UFО!?」


 俺でもさすがにUFОはわかる。世界各地で目撃される、宇宙人の乗り物。通称空飛ぶ円盤。鳥か? 飛行機か? 見間違いか? その正体は謎に包まれている。


「先輩、それってどこ情報ですか?」

「いい質問だ葵君。僕の友人の兄上――仮にМ氏としよう。М氏からの情報だ」

「怪しい。怪しすぎて逆に怪しくなさそう」

「ええーいっ、情報元なんてどうでもいい! 重要なのは、可矢山にUFОの発着基地があるという可能性! 我々UMA部は、未知を既知とする部活。ならば行かないという選択肢は、あっ! ないのだあっ! というわけで明日の土曜日、朝九時に現地集合だ!」


 なぜか歌舞伎役者のように見得を切った先輩の迫力におされて、俺と葵はただうなづくしかなかった。



 ☆☆☆☆☆



 明くる日、つまり土曜日。

 俺は葵と一緒に可矢山へ向かっていた。


「いやね、ジョー先輩の勢いにおされたけど、可矢山って結構遠くない?」

「そうだな。でも部活って感じするよな!」

「はあ……。熱血バカのあんたはともかく、私のきちょーな土曜日が山登りで消えちゃいそうなんですけど。駿はどう責任をとってくれるの!?」

「それはジョー先輩に言ってくれ」


 俺の頭に、「千賀院部長なんてかしこまらなくて、気楽にジョー先輩とでも呼んでくれたまえ」と言ったジョー先輩の顔が思い浮かぶ。


 でも葵が文句を言うのも無理はない。可矢山は頑張れば自転車でも行けるが、そうするには遠すぎる距離だ。だから電車で四駅、バスで二十分、おまけにそれから十五分は歩いてようやくふもと。はっきり言って遠い。


「UFОなんて本当にいるのかしら?」

「さあね。でもジョー先輩の情熱には協力したくなるよな」

「でたでた熱血。それにつきあわされる身にもなれって話よ」

「じゃあなんで葵は来てくれたんだ?」

「動画のネタになるかな~と思って」


 なるほどな。俺の体験入部に協力してくれているとはいえ、文句を言いながらも休日に参加したのはそれが目的か。思えば幼稚園の頃から抜け目のない性格だったと思う。


「やあ駿君、葵君、おはよう!」


 加矢山の麓までたどり着くと、なんだか怪しげな機械を背負ったジョー先輩が出迎えてくれた。よし! 体験入部とはいえ、UMA部の活動がんばるぞ!



 ☆☆☆☆☆



「駿君。宇宙人や宇宙船、そういった物は見つかったかね?」

「いえ、見つかっていません!」

「ならば調査続行だ。大丈夫、エイリアン探知マシーンには反応がある!」


 そう言ってジョー先輩がタブレット端末を見せてくれる。そこにはよくわからない数字や英語が並べられている。どうやら先輩が背中に背負うマシーンが探知した情報が表示されているらしい。さすが天才と呼ばれるだけある。


 可矢山で調査を始めて二時間。UFОらしき物体も、宇宙人らしき存在も、まだ見つかっていない。けれど先輩の熱意は冷めない。真夏の運動部に負けない根性だ。

 だから俺も全力で探す。全力で取り組んでこそ、その部活が本当に俺の中学生活を最高にしてくれるかわかると思うからだ。


「うおおおおおっ!!! 宇宙人~っ!!!」

「はあ……。ねえジョー先輩、校外での部活動は顧問の先生が一緒じゃないとだめだと校則にはありますけど、どこにいらっしゃるんですか? というか顧問ってどなたなんですか?」

「顧問なら社会科の森山もりやま教諭だよ」


 森山先生は大学を出て二年目の、若い女性の先生だ。

 美人で教え方もわかりやすく、一年生の間でも早くも人気者だ。


「へ~、森山先生が。じゃあ先生はどこに?」

「森山教諭はひどく方向音痴でね。今日も集合場所はお教えしたが、逆方向の電車に乗ってしまったと電話があった」

「はあ、そうですか」


 先輩の答えに、葵は何か諦めたようにため息をついた。

 それを見て何か察したのか、先輩が付け加える。


「もうすぐお昼だ、葵君も疲れただろう。あの林の向こう側を調べたら、今日は調査をやめて三人でお昼でも食べに行こうか。近くに美味しいうどん屋があってね。駿君もそれでいいかい?」

「はい!」


 元々乗り気じゃなかった葵のテンションは限界みたいだ。

 調査はまた明日にでも俺と先輩でやればいいかな。


 ……とは言っても、今日の成果がないというのも寂しい。となるとあの林を全力調査して、UFОの破片なり宇宙人の足跡なり見つけるだけだ。俺はそう思い、林の中へ分け入ろうとした時だった。


 ――ビー! ビー! ビー!


 ジョー先輩の背負う機械から、けたたましい音が鳴り響いた。


「先輩、この音は!?」

「探知マシーンが何かに反応している!? でもこんな反応見たことがない!」

「まさか、あの林に宇宙人が!?」

「わからない、だが――」


 先輩が言葉を続ける前に、次の現象は起こった。

 林から七色の光がビュンと何本も伸びたのだった。


「じょ、ジョー先輩? もしかして新入生歓迎的なノリでなにか仕込んだんですか?」

「その質問にはノーと答えよう葵君。僕は一切、なんのトリックも仕込んではいない」

「うそでしょ……」


 まさに嘘のような光景が目の前で起こり続ける。

 光の次は煙だ。何かピンク色の、霧みたいなものが辺りに立ちこみ始めた。


「さがって、二人とも気をつけたまえ!」


 先輩の警告と、林からゴソゴソと音を立てて何かが出てきたのは同時だった。


(宇宙服?)


 直感的にそう思った。林から出てきたのはそうとしか言いようがないものだった。

 ピンク色で、顔の部分がガラスみたいだけど中身は見えない。背の高さは俺より少し低く、手は二本で足も二本だ。タコ型とかじゃない。本当に宇宙人なのか……?


「ユーエスエーか!? ユーエスエスアールか!?」


 意味はわからないけど、ジョー先輩が叫んだ。

 まるでそれが合図かのように、宇宙人(仮)が宇宙服の頭の部分を脱いだ。


「女……の子……?」


 その下から出てきたのは、ぱっと見で女の子だと思う、俺たちと同じような姿だ。

 髪は銀色に輝いて、肌はチョコレートみたいな褐色だ。そしてなにより瞳は青く、星みたいに煌めいていた。そんな宇宙人さん(仮)がその唇を開く。


「うちの名はミューピコ。地球は狙われている!」

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