第4話 地球存亡の危機

 地球は狙われている……だって?

 突然の事態に先輩はあんぐりと口を開き、葵にいたっては立ったまま気絶でもしているかのようにフリーズしている。だから仕方なく俺が聞き返す。


「ミューピコと言ったか? 俺は駿。後ろの女の子は葵で、大きく口を開けているのはジョー先輩だ。俺たちはUMA部という部活の仲間なんだ。よろしく」

「よろしくなんだよ」


 何者かはわからない。けれど言葉は通じる。しかし未知の存在に後ずさりしそうになる自分を感じながら、俺は質問を続ける。


「君は宇宙人なのか?」

「そうだよ。ウチは双子座方面シアトリア星系から来た、君たちの言葉で言う宇宙人だよ。信じられない?」

「いや、ひとまず信じるよ」


 いたずらにしては手が込みすぎている。

 少なくとも目の前に現れた”宇宙人”を信じるしかない。


「良かった。じゃあさっきも言った通り、地球は狙われている。それを伝えるためにウチは来たんだよ」

「狙わっているって誰に? 悪い侵略宇宙人か?」

「※☆〇▲……あー、地球語で言えば、星間連合せいかんれんごう宇宙評議会うちゅうひょうぎかいっていう組織だよ。それは地球で言えば国連みたいな組織で、いろんな星の代表が集まって宇宙の事を決めるんだよ」


 へー、宇宙にもそんな組織があるのか。でもなんでその宇宙評議会が地球を狙うんだ?


「もしかして宇宙評議会ってのは、地球の文明が危険だって判断したとか?」


 そう尋ねたのは、フリーズから回復した葵だ。

 確かにそういう話、映画で見たことあるな。戦争を続ける地球人を悪い文明だと判断して攻撃を仕掛けてくる的なやつだ。


「違うんだよ。むしろその逆。地球は文明がない星だって判断されたからだよ」

「地球に文明がない?」

「そうなんだよ。地球の文明は宇宙の平均からすると大きく遅れているんだよ。だから保護対象にならず、宇宙の区画整理くかくせいり事業で破壊されることが決まったんだよ」


 ち、地球が破壊……!?

 区画整理って確か、町を住みやすいように計画的に作り直すことだっけ?


「そんなの横暴よ! それに地球にも文明はあるわ。ほら、スマホだって!」

「そのスマホだって、宇宙の平均からしたら何百年も前に廃れたようなテクノロジーなんだよ。葵たちは土地を利用するとき、アリに同意を求めるかな? 宇宙評議会はそういう判断で区画整理を決定したんだよ」

「そんな……!」


 つまりあれか。宇宙評議会とかいう連中からしたら、遅れた地球人なんてアリと一緒。だから同意なんてえずに、区画整理――宇宙の住みやすさのために地球は邪魔だから破壊すると。


「葵の言う通り横暴じゃないか。地球人にだってその宇宙評議会とやらに意見を言う権利だってあるはずだ!」

「外宇宙を航行できる宇宙船を開発できていない時点で、君たち地球人にその機会はないんだよ」

「でも……」

「――ちょっと待ちたまえ!」


 ジョー先輩! 天才の先輩ならきっとアイデアがあるはずだ。頼りになる!


「ミューピコ君、一つだけ言いたいことがある」

「なにかな?」


 そこで先輩は大きく深呼吸をした。

 すごく真剣な表情だ。そして再び口を開く。


「君はそれでも宇宙人か! 宇宙人ならこう、触手が生えているとか、手がハサミとかさ。あるだろもっと濃いキャラ付けが! 僕は嫌だぞ、こんな未知との遭遇。宇宙人だというのなら、もっと僕の想像を超えた存在であってくれたまえ!」


 せんぱいー、そこいま聞くところですかー?


「その、ご期待にそえなくて悪いんだけど、宇宙の知的生命体は概ね似た感じなんだよ」

「なに!? じゃあタコ型エイリアンやアメーバ型生物は我々の想像だけなのか!?」

「肌の色の差とかあるけど、生命の発生条件には限りがあるからね。似たような存在になるのは合理的なんだよ」

「くっ、そうなのか……」


 崩れ落ち、激しく落ち込むジョー先輩。

 だが、すっくと再び立ち上がる。


「それならもう少しキャラ付けをがんばりたまえ! 君の名前はミューピコだし、例えばそう……語尾にピコをつけるとかさあ!」


 ――無茶苦茶だ!


「そ、そんな急に言われても無理なんだよ……ピコ」


 ―――のってきた!? 良い人だ!


「せ、先輩。今はそれどころじゃないですよ。地球存亡の危機って話が解決していないじゃないですか」

「お、そうだったね駿君。つい好奇心が勝ってしまうのは僕の悪い癖だ。ミューピコ君、具体的に地球はいつ破壊されるんだい? なにせ一九九九年七の月はとうの昔に過ぎている」

「なんだかよくわからないけれど、地球時間で来週なんだよ……ピコ」


 ら、来週!?


「来週の日曜日の夕方頃に破壊される予定だから、正確には八日後かな?」

「破壊をやめさせる方法はないのか!?」

「安心して駿。ウチはそのために来たんだよ」

「本当か?」

「やってみる価値はあるんだよ。ようするに、地球は破壊してはいけない文明や文化のある星だとアピールできればいいんだよ」

「なるほど。でもどうやって?」

「地球でも動画サイトは人気だよね? GALAXYギャラクシー МYUTUBEミューチューブと言ってね、同じような物が銀河でも流行っているんだよ」


 ミューピコの言葉に何か気が付いたのか、葵が口を開く。


「そうか、地球のご当地PR動画ピーアールどうがを作るのね!」

「そういうことなんだよ葵」

「葵、つまりどういうことなんだ?」

「ご当地PR動画と言って、県や町が自分たちの魅力をアピールするために動画を作って公開しているのよ。ようはそれの地球版をやろうってわけ。それを宇宙の動画サイトにアップしてもらって、地球が文化的だってことをアピールするの」


 なるほど。地球には良いところがいっぱいある。それを宇宙中の人に知ってもらおうってことか!


「そうと決まれば話は早い。地球を代表する世界的映画監督や動画クリエイターに声をかけるべきだ! その前に警察か、自衛隊か? いや、NASAナサか? まあこの僕に任せたまえ。世界各地の友人の伝手を使って、すぐに連絡を――」

「ジョー、それはやめたほうがいいんだよピコ」

「どうしてだい?」

「多くの人がこの事実を知ったら混乱するんだよ。それにどんな動画を撮るかの会議で一週間過ぎるんだよ。いいやそれどころか、ウチが本当に宇宙人なのかの調査をするのに、何年もかかるかもしれないんだよピコ」

「そ、それは……」


 うーん、ありえる話だ。いま地球にはたしか八十億の人がいて、沢山の国がある。それだけ大勢の人の意見を来週までにまとめて、しかも動画を撮影して宇宙にアピールするなんてきっと無理だ。


「わかったかな? だから君たちがその動画制作に協力してほしんだよ」

「俺たちが地球の命運を背負って!?」

「そうなんだよ」

「なんで俺たちが? そもそもミューピコはなんでそれを教えてくれたんだ?」


 ミューピコが教えてくれなければ宇宙評議会の決定通り、きっかり来週に地球は滅びていたと思う。それこそ発達した科学的な何かで、地球上の生物が一切それを知ることのないまま一瞬で。なんでそれを教えてくれているんだ?


「最初の質問の答えは、はっきり言ってなんだよ」

「ぐーぜん?」

「そう、偶然。偶然君らが通りかかった」


 偶然。偶然で地球の命運を背負って?


「そしてなんでウチがこのことを君たちに教えに来たかというと、ウチも地球の事が好きなんだよ」

「地球の事が?」

「そう。宇宙を旅しているときに、ウチは偶然この星のことを知った。確かに文明は遅れているけれど、面白い文化を築いていると思ったんだよ。だから破壊させたくない。だから警告しに来た。お願いUMA部のみんな。ウチと一緒に地球を救うための動画を作って!」

「よし! そのミッション、我がUMA部が引き受けた!」


 先輩答えるのはやっ!?


「ちょっとジョー先輩!」

「ん? 葵君はミューピコ君の言うことが信じられないのかな?」

「それは……」


 まあ、いきなり地球を救うとか言われてもね。

 でもミューピコが嘘を言っていないというのは、俺も葵もわかる。


「やろう葵。とにかく一週間、全力でがんばってみよう」

「うーん……、それしかないみたいね」

「駿、葵、それからジョーもありがとうなんだよ」


 まさか体験入部でこんな事になるとはね。

 でもやるしかない。やると決めたらすぐにやる!


「早速だ葵、どんな動画が良いと思う?」

「そうねえ、地球だと動物系は鉄板でバズるわね」

「バズる?」

「簡単に言えば話題になるってことよ」


 なるほど。


「特に可愛い小動物の動画ね! 癒されるし、幅広い世代に人気があるわ」

「そういうのなら宇宙でも人気なんだよ」

「ほんと? やっぱセンスは万国――いえ、全宇宙共通ね。私ならおすすめはネコよ。ネコはわかる? 毛がモフモフで、可愛いの」

「なんとなくわかるんだよ」


 すごい。とんとん拍子で進んでいく。俺は出番なしだ。

 同じく出番のない先輩は、何か忙しそうにタブレットをいじっている。


「人気のあるネコ。それで動画を撮ればいいのかな?」

「そうなるわね。でも問題は、そのネコをどう探すかなんだけど……」

「それなら心配ご無用なんだよ。もう情報はセットしたから、後は行くだけなんだよ」


 行く? 行くってどこへ?

 俺たち三人がそれを聞き返す前に――そこで俺の意識は闇に落ちた。

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