Vol.2 【激闘】河童と相撲を取ってみた

第7話 河童を探して

「よくぞ来た! 我らが栄光のUMA部部員たちよ!」

「おはようございますジョー先輩!」

「おはようです。ま、仮入部ですけどねー」

「おはようなんだよ」


 次の日の日曜日。俺たちはジョー先輩の家に集合していた。

 ミューピコは昨日みせた宇宙服ルックじゃなくて、葵から借りた白いワンピースを着ている。こうしてみると、俺たちと何も変わらないな。


「さ、早速愛しのUMAの下へ行こうか。大丈夫。ここでワープすれば、その瞬間を誰かに見られることもないさ」


 そうか。ワープの瞬間を他人に見られたりしたら、その瞬間から俺たちは『怪奇! 消える少年たち!』として都市伝説の仲間入りだな。


「待ってください先輩。UMAを題材にするのは決まったけれど、まだどんな動画を撮るかも決まってないじゃないですか」

「そういえばそうだったね。葵君、君としてはどんな動画がバズると思う?」

「そうですね……。題材が珍しい生き物なので、素直にふれあいとか?」

「それは癒し系ということかい?」

「いえ、それにこだわらず、見ている人の感情を動かすアクティビティ……それも地球の文化をアピールできればより良いですね」

「ふむ。条件は多いが、なるほどこの案ならクリアーできそうだ」


 人気の動画を作る。それも宇宙で人気になるような動画だ。

 葵の出した条件に何か思いついたのか、先輩はミューピコに何か耳打ちした。


「わかったんだよ。その条件に当てはまる生物が、検索にヒットしたんだよ」

「ということはそのUMAは本当にいるんだ! 先輩、なんのUMAなんですか?」

「それは着いてからのお楽しみさ。それじゃあ皆、靴を履いて」


 お楽しみ……? 動画の面白さの都合もあるだろうけど、なるべく昨日のライオンよりもマイルドやつでお願いします。


「じゃ、ワープを始めるんだよ」


 ミューピコがそう言うと、周囲の景色が一瞬だけぐにゃりと歪み――どこか川の近くの田舎道に変化した。さっきまでは先輩の家の玄関だったのに。


「ここは……、日本なのか?」


 近くには見慣れた赤い道路標識が立っている。もちろん日本語表記で、「止まれ」だ。間違いない。昨日のアフリカと違って、ここは日本だ。


「先輩、ここは?」

「ここは福岡県ふくおかけん久留米市くるめしさ!」


 けっこう近い!


「なんで久留米に?」

「フフフ、ここには何を隠そう、かの有名なUMAがいる! それは……」

「「それは……?」」

河童かっぱさ!」


 ――河童!?


「河童って川に住んでて、キュウリが大好きで、手足が水かきで、くちばしがあって、頭にお皿、背中に甲羅背負ってるあの河童ですよね?」

「そう、その河童さ!」

「河童ってじゃなくてじゃ?」

「妖怪も古来より目撃されてきた未確認生物だと言える。すなわちUMAなのさ!」


 そういうものなんだろうか?

 でも例えば、ネッシーと河童の分類の違いなんて俺にはわからないな。


「オホン、ある伝説によると今から約1600年前、河童は最初中央アジアに住んでいたという。しかし食料難などにより移住を決意。半分はハンガリーのブタペストに。そしてもう半分が移住したというのが……」

「ここですか?」

「その通り! この久留米に流れる筑後川流域だと言われている! そしてここから河童は日本各地へと散っていった!」


 な、なるほど。信じがたい話だけれど、俺たちはミューピコの検索によってここへワープしてきた。つまり少なくとも、宇宙のマシーン的にはここに河童が存在しているということだ。


(なあ葵、ハンガリーってどこ?)

(ヨーロッパよ。ちなみに中央アジアはユーラシア大陸の真ん中あたり)


 遠路はるばるだなあ……。


「先輩、ジョー先輩!」

「――特に田主丸たぬしまる地域には多数の河童像があり、市民にとってもなじみ深く……ん? なんだい葵君、これから良いところなんだが」

「それはまた今度で。先輩、ここ河童を探しに来たのはわかりました。でも河童と何をするんですか?」


 またも熱中しすぎて目的を忘れかけていた先輩は、オホンと咳払いをした。


「では説明しよう。今回我々が撮影する動画は……『河童と相撲を取ってみた』だ!」


 す、相撲……!?


「古来より、河童は相撲を取るのを好むと伝わっている。河童と言えば相撲! 相撲と言えば河童! これは不変の真理なのだよ!」

「確かにそれなら絵的にも派手だし、相撲という文化のアピールにもなる……かな?」


 葵も納得のようだ。ということは今回の俺の役割は……。


「というわけで駿君、河童と相撲を取りたまえ!」

「はい、任せてください!」



 ☆☆☆☆☆



「おーい、河童さ~ん!」


 川沿いを探し始めて早数時間。

 目的の河童はまだ見つからない。


「はあはあ、私のきちょーな日曜日が、河童探しに浪費されていくわ……」

「葵、地球の危機を回避するためだって」

「わかっているわよ。ねえミューピコ、本当にここらで合ってるのよね?」


 葵に質問されたミューピコは、首を縦に振る。


「そうだよ。ジョーからもらったデータにあてはまる生物は、ここにいるはずなんだよ」


 でも見つからないから困るんだよなあ。ミューピコの検索によって、河童の存在が確認されたからこそ俺たちはここに来た。だからすぐに見つかると思ったんだけどな。


 俺たちは気を取り直して、岩陰を見たり、川辺の草むらをかき分けたりして河童探しを続行する。


「おーい、どこだー?」

「坊主、誰か探してんのか?」


 そんな俺の後ろの方から、男の人の声が聞こえてきた。

 たぶんお父さんと同じくらいの、おじさんの声だ。

 河童探しに集中している俺は、振り返らずに返答する。


「まあ、探していると言えば探しているというか……」

「なんだ? 友達が川におぼれでもしたか? 助けが必要か?」

「いえいえ、そんなんじゃなくて、俺たち河童を探してんですよ」

「なんだ河童か。暑いから気いつけてな」


 良い人だな。この周辺民家とか見当たらないけど、田んぼで作業していた地元の人かな? そう考えて、俺はせめてお礼くらいは顔を見て言わなきゃと思い振り向いた。


「か、かかかかかか……!」

「どうしたの駿? 突然壊れたラジオみたいに……って! か、かかかかかか!」


 振り返った先にいたのは、手足は水かき、口にはくちばし、緑色の体に、背中には甲羅を背負っている。そして頭にはトレードマークのお皿。


「「河童だああああああっ!!!」」


 河童だ。間違いなく探していた河童そのものだ。

 え? こういう感じで普通に歩いているもんなの?


「ジョーせんぱーい! 河童いましたあっ!」

「な! ぬわにいいいいいいッ!?」


 さすが才能豊かなジョー先輩と言うべきか。少し離れた場所にいたのにものすごい速さで河原を駆け抜け、あっという間にやって来る。騒ぎを聞きつけたミューピコもやってきた。


「本当に河童じゃないか!」

「初めて見る生物なんだよ」

「おいおい、騒がしいな。なんだよ突然?」

「し、失礼。僕は千賀院丈。最都中UMA部の部長を務めています。ちょっと事情がございまして、動画に出演してもらうべく河童さんを探しておりました」


 すごいな、ジョー先輩。河童相手にまるで動揺せず完璧な自己紹介だ。

 まあ、ライオンは見た瞬間に気絶したんだけど。


 河童はそんな完璧なジョー先輩を、うさん臭そうに見る。


「動画? あれか? 流行りのYOUTUBERユーチューバーってやつか?」

「ええまあ。そんな感じです」


 河童もYOUTUBER知ってんの!?


「そんなの俺は――やだね!」

「ふにゃん!?」


 それは突然だった。河童が先輩につかみかかったかと思うと、先輩は変な声を発して崩れ落ちた。そして河童は川へ飛び込む。


「先輩、大丈夫ですか!?」

「ふにゃにゃん」

「大丈夫じゃないみたいね。河童が何かピンポン玉みたいなものを持っていたような?」


 言われてみれば俺も見た。川へと飛び込む直前の河童は、それまで持っていなかった何か光る玉を右手に持っていた。


「た、大変だ! それはきっと尻子玉しりこだまなんだよ!」

「尻子玉? ミューピコ、知っているのか?」

「ジョーからもらったデータにあったんだよ。河童はときに人間のお尻から尻子玉という玉を抜き取るんだよ。伝承によればその玉を抜き取られた人間は、になるんだよ!」

「「ふぬけ!」」


 確かに「ふにゃにゃん」とか言いながらゆらゆらしている今の先輩は、ふぬけ以外の何者でもない。


「ミューピコ、逃げた河童を捕まえる宇宙的なマシーンはないのか?」

「残念ながらないんだよ」


 ダメか!


「駿、早く河童を捕まえないと!」

「ああ! 動画を撮る前に尻子玉を取り返さないとな!」

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