第24話 おぬし、春はちかいぞよ!

「貫通式まで10……9……8……7……」


 俺は、なすすべもなく、新しい扉へのカウントダウンを聞いていた。


「……6……ああん……5……はぁはぁ……4……」


 うん。でも初めてがこんな可愛いインキュバスおとこの娘で良かったかもしれない。そう思い込もう。


「……3……うぅううん……2……そんなに激しくしたらだめぇ! らめぇええ!」


 俺は、黒沢くろさわに激しくお尻をつかれながら、息も絶え絶えにカウントダウンをする、インキュバスの甘ったるい喘ぎ声を聞きながら、もう、なるようになれと観念して、卯佐美うさみに腰を打ちつけることに専念するした。


 そのときだ。足元から声が聞こえてきた。


「みっつけたー! 獄卒ごくそつ474723番!」


 下を向くと、地面がなかった。


 レヴィアたんだ。


 腕が六つで顔が三つある青い肌の魔人に肩車されたレヴィアたんが、演劇部の部室の床を、アコーディオンカーテンのようにパタパタと折りたたんでいる。


 外見年齢は最初にあった時と同じ、二十代中ごろ??


 俺たちはレヴィアたんに足場を奪われて、真っ逆さまに落っこちた。


「何? 身体が浮いてる!?」

「気持ち良すぎると、飛んでる気分になるって本当なんだ!!」


 突然床がなくなるという、常識を逸脱した非常事態に、黒沢くろさわ卯佐美うさみは、性的絶頂の快楽と勘違いしているようだ。


「アスモデウス様と……レ、レレレ、レヴィアタン様!?!?」


 対して、事態が把握できているインキュバスは、完全にパニックに陥っている。俺のお尻を狙ってそそり立っていたイチモツも、随分とカワユク縮こまってしまっていた。


 どれくらい落下しただろう。


 レヴィアたんはひと足先に地面に着地すると、完全に気を失った黒沢くろさわ卯佐美うさみを青みががかった黒髪でやさしく包み込み、インキュバスを亀甲しばりでしめあげて着地した。

 そして俺は、顔が三つで腕が六つあるアスモデウスにお姫様だっこをされて着地した。


 俺たちが降り立った場所、そこは地獄だった。

 血のように赤く染まった空に、毒々しい紫色の地面。ボコボコと熱湯を噴き上げる血の池地獄に針の山……。言葉の比喩じゃなく、本当に地獄のような場所だった。


 えーっと……ここが魔界ってことでいいんだよな?


「はぁ……まさか最後の一匹がインキュバスだったとはねー。

 そりゃ、この国全土に張り巡らせたわたしの魔力網にもひっかからないわけだー」


「はい。インキュバス……つまりは獄卒ごくそつは人間界への出張も多いですし、人間界での魔力は最小限に抑えられますので」


 レヴィアたんのぼやきに、俺をお姫様だっこしたアスモデウスの三つのうちのひとつの頭が相槌を打つ。

(残りの二つの頭は、電話をかけたり、ノートパソコンをカタカタ打ったりと別の仕事をしている)


「あーあ……完全に魔力の無駄遣いだよー。アッスー、責任取ってよねー」

「ええ! そんなこと言われましてもー」


 アッスーと呼ばれたアスモデウスは、残った六本の腕のうち、唯一手持ちぶたさをしていた手にハンカチを持って冷や汗をぬぐっている。


「ジョーダン、ジョーダン。

 アッス―には、いつも助けてもらってるし。それに……」


 レヴィアたんは、素っ裸の黒沢くろさわの股間にそそり立っている、逞しいイチモツを見て舌なめずりをした。


「インキュバスが、こんなにおっきな嫉妬を育ててくれたんだもーん♫」


 レヴィアたんは、黒沢くろさわの逞しいイチモツに青みがかった長髪をしゅるしゅると巻き付け、はげしくこすりはじめた。


「いっただっきまーーーーーす♪」


 レヴィアたんの食事のご挨拶と共に、黒沢くろさわの体が白く鈍く、濁った色で発光していく。そして、


 どぷん。どくどくどく……ごぷぅ!!


 濁った光は、レヴィアたんの髪を伝って搾り取られて、ぽっかりと大きく開けた口の中に運び込まれた。

 レヴィアたんは、その白濁とした光を口の中で転がして、たっぷりと、ねっとりと、味わった後「ごくん!」とのみほした。


「ふー。ごちそうさまでしたー」


 嫉妬を吸収したレヴィアたんは、女子高生くらいまで若返っている。

 そして、黒沢くろさわの逞しいイチモツはキレイさっぱりなくなっていた。


 黒沢くろさわの嫉妬……つまりは、くそ野郎の西野にしの彰人あきひとにレイプされたことにより生じた男に対する憎しみが、インキュバスの魔力をとおして、イチモツへと具現化していたんだろう。


「サービスで、黒沢くろさわちゃん、あと黒沢くろさわちゃんと関係をもった演劇部の女の子たちの記憶の改竄と一緒に、処女膜も再生しといたよー」


「え? 黒沢くろさわと関係を持った……って」

「男嫌いになった黒沢くろさわちゃんに、演劇部の女の子たちはのきなみ処女をうばわれてたからねー」

「ってことは、ひょっとして辰巳たつみちゃんも!?」

「ダイジョーブ。辰巳たつみちゃんは寝取られてないよ。恋心を持っている女子には、インキュバスの魔力の魅了のちからは通らなかったみたいだねー」


 そっか……よかった。


 って……ん? 恋心だって?? それって、ひょっとして……。


「うしし、良かったねー流斗りゅうと

 おぬし、春はちかいぞよ!」


 レヴィアたんは、下世話なおっさんみたいなことを言って、俺の背中をバシンとたたいた。

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