第17話 美味しいメス豚さんですよー♪

「いやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 西野にしのは下半身まるだしのまま、三階の窓から地面へと真っ逆さまにダイブした。


「ちょっ! それはマズいって!!」


 レヴィアたんは血相を変えて、サキュバスのリリムを亀甲しばりにしていた青白い青みがかった黒髪をほどくと、全速力で窓に向かって髪の毛を伸ばし西野にしのを助けようとする。


 でも……


 ゴシャん!!


 西野にしのは頭からダイブして、そのまま脳を強打した。

 俺たちは、大慌てで西野にしのがダイブした窓から下をのぞいた。

 西野にしのはコンクリートの上に落下して、頭部からはじんわりと赤黒い血の海が広がっている。


「キャーーーー!」

「と、飛び降り自殺!?」

「……先生! 先生をよばないと……!」

「それよりも救急車!!」


 澄香すみかと、西野にしのに魅了されていた女子たちが叫び声をあげるなか、


「うーん……面倒なことになったなぁ」


 レヴィアたんは頭をかかえている。


「とりあえずー。この場はトンズラするとしますか!」


 レヴィアたんは、教室を出ると、すぐ隣の空き教室に入った。俺と、腕を縛られたサキュバスのリリムもそのあとにつづく。


「はー、もっと楽しめると思ったのに、西野にしののヤツ、意外とメンタル弱いんでやんのw」


 腕を縛られたリリムは、やけにサバサバしている。西野にしのの事をまるで便利な道具としてしか見ていなかったようだ。


「アタシもリリアたちみたいに強制送還ですよね?

 もっと人間界こっちでエンジョイしたかったな。

 でもまあ、リヴィアタン様のペットのテクニックにはちょっと興味があるかな?」


 そう言いながら、俺の下半身をみて舌なめずりをしている。


「リリム、魔界に戻れる気でいたの?

 あんたには天上界の神罰がくだるわよ!」


 それを聞いたリリムは、一気に顔が青ざめた。


「そ、そんなぁ! なななな、なんとかなりませんか?」


「しょーがないでしょう。とり憑いた人間が死んじゃったんだもの。

 西野にしのは今頃、裁きの場にいるサタンおじさまの審判待ちよ。

 浄玻璃じょうはりきょうで、あんたの悪事はつつぬけになっちゃうわよ」


「そんなぁ! 天上界への監禁だけはかんべんしてくださぁい!」

「しょーがない……これはもう、ベルゼバブおねーさまの力を借りるしかないかー」


 レヴィアたんは「はぁ」とため息をつくと、握りこぶしをつくって人差し指と中指のあいだから「ずにゅり」と親指をつきだして、そのまま耳へと近づけた。


 ぺぽぱひぷぽぱぽ♪ ……プルルルル……プルルルル……。


 どこからともなく、電話の音が聞こえる。


「しもしもー、ベルゼバブおねーさま?」

『レヴィアタンじゃん! どしたどした? またブブちゃん借りたいの?』


「ううん。今日は、いつもお世話になってるブブちゃんたちに、ご褒美あげようかなーって。新鮮なメス豚が手に入ったからさー」

『マジでマジでー? マンモスうれぴー♪』

「じゃ、今からブブちゃんたちに転送するねー」

『シクヨロー♫』


 ガチャリ。


 レヴィアたんは、こぶしを耳から外す。

 リリムは、青ざめた顔で質問した。


「レヴィアタン様? あ、あの……さっきメス豚って言ってましたけど、ひょっとして……」

「そ、あんたの事ー♪ 暴食の幻獣、ケルベロスに食べてもらって、キレイさっぱり、無かったことにしてもらうの」


「そそそんな、暴食の幻獣に食べられたら、アタシの存在がこの世の中から消え去っちゃうじゃないですか!!」

「あんたの存在さえ抹消すれば、サタンおじさまの浄玻璃じょうはりきょうにも映らなくて済むってわけ♪ ナイスなアイデアでショ?」


 レヴィアたんは満面の笑みを浮かべながら、リリスの立っている床をむんずとつかんで、パタパタとおりたたみ始めた。


「……わん! ブゴブゴブゴ♪」

「……バウワウ!」

「……ガルルッルルル!!」


 床の底から、三匹の獣の声が聞こえてくる。

 リリムは、慌てて逃げようとするも、レヴィアたんの青みがかった黒髪で、再び亀甲しばりにされて床の上にゴロンと転がった。


「レ、レヴィアタン様! お許しを!!

 ケルベロスに食べられるくらいなら、神罰を受けますんで!

 存在を消されるくらいなら、神の責め苦を受ける方がまだマシです!!」


「イヤよ! サキュバスの不法侵入がバレたら、サタンおじさまに嫌われちゃうもん。わたしは仕事ができるオンナでとおってるんだからさー」


「わん! わん! ブゴブゴブゴ♪」

「バウワウ! バウワウ♪」

「ガルルッルルル!! ガルルッルルル♪♪」


 餌がもらえることに気が付いたんだろう。ケルベロスの三つの頭は、よだれをたらし、ごきげんに尻尾をふっている。


「イヤァ! イヤァ!

 消えるのはイヤ! 消えるのはイヤ!

 お願いします、お願いします!

 レヴィアタン様、お許しを!!」


 リリムは、大粒の涙を流してレヴィアたんに懇願する。

 あれ? 悪魔って血も涙もないんじゃなかったっけ?


 レヴィアたんは、リリムの涙ながらの訴えをガン無視すると、床を一気にパタパタと折りたたんだ。


「はーい。ブブちゃん、美味しいメス豚さんですよー♪」

「いやああああぁぁぁぁぁーーーーーーーーーぁぁぁああっ!」


 リリムは、ケルベロスのブブちゃんの巣穴へと落とされた。

 俺は、巣穴をのぞき込む。あれ? ブブちゃん、めっちゃでかくない? ライオンくらいの大きさだ。


「そーだよ。これが本当のサイズ。

 アタシの魔力じゃ、中型犬くらいの大きさでしか召喚できないけどー」


「わん! わん! ブゴブゴブゴ♪」

「バウワウ! バウワウ♪」

「ガルルッルルル!! ガルルッルルル♪♪」


 巨大な猛獣ケルベロスは、落っこちてきたリリムに群がる。


「ぎゃあああああ! 腕が、アタシの腕がぁああ!!

 イタイ、イタイ、いたいよぅぅぅぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!」


 ケルベロスに食いちぎられたリリムの右腕から鮮血がしたたる。

 あれ? 悪魔って血も涙もないんじゃなかったっけ?


 ケルベロスの三つの頭は、右腕と、左足と、右足を仲良く一本ずつ食べると、リリムにじゃれつき始めた。


 リリムは、残された左手一本で這いずりまわる。そんなリリムを、ケロべロスは尻尾をブンブンと振りながら、くわえては放り投げくわえては放り投げを繰り返す。

 餌をなぶって、表情が恐怖と絶望に歪んでいくのをを楽しみながら、食事を堪能するつもりなのだろう。


「ぜぇぜぇ……もう許して、もう許して、ひと思いに食べつくして!!

 お願いします、お願いします……お願い……お願い……」


 抵抗するのを諦めたリリムは、みずから食べられることを懇願する。

 これ以上は餌が遊んでくれないと気が付いたケルベロスは、残った頭、胸、局部を丁寧に三等分にかみちぎると、骨一つ残らずキレイに食べつくした。


「アハ♪ 見て見て流斗りゅうと

 ブブちゃんたち、とっても満足してるみたい。

 良かったー。喜んでくれて。

 いい事したあとの気分はサイコーね♪

 流斗りゅうとも、そう思うでしょう?」


「………………」


 俺はゾッとした。

 トンデモナイ魔物にとり憑かれたことに、心の底からゾッした。











 ・

 ・

 ・


 あれ?


 ・

 ・

 ・


 俺、何してたんだっけ?

 俺は、レヴィアたんとふたりっきりで、空き教室にいる。

 いつの間に、文芸部の部室から移動したんだ??


「さあ? 確かベルゼバブおねーさまに電話してた気がするけど、忘れちゃった♪」


 北村きたむらの嫉妬を美味しく食べて、小学四年生くらいのサイズになったレヴィアタンは、「てへぺろ」とかわいく舌をだした。

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